解毒剤
透明度の高い青い液体をノアが飲み干す。
私はその様子を食い入るように眺め、しばし静寂が流れる。
「どう?治った?」
ノアの顔を覗き込むと、ノアは眉を寄せる。
どう言おうか迷うような顔をしている。
少し間をあけてから、ノアが口を開く。
「…治るわけねぇだろ」
「ええ?!失敗?!まだ私が好き?!」
思わずとんでもない言い方をしてしまい、口を両手で押さえる。
「いや、ごめん、言い方が悪かった。惚れ薬のせいでって意味だよ、もちろん。惚れ薬の効果まだありそう?」
自分の失言に慌てふためき、必死で弁解する。
恐る恐るノアを見ると、ノアは肩を震わせていた。
「あっ、怒った?ごめん。解毒剤まで失敗するなんて、本当にごめんね。必ずノアのこと治すから」
申し訳なさで縮こまる。
何がいけなかったんだろう。
「バカ。解毒剤の問題じゃねぇから。一生治んねぇよ」
ノアを見ると、ノアは笑っていた。
「えっ?」
「だから惚れ薬はとっくに切れてるって言ってんだろ」
ぽかんとする私の頭をノアが小突く。
それはノアが今惚れ薬のせいでそう思い込んでいるだけではないだろうか。
私の疑わしげな視線に気づいて、ノアがため息をつく。
「お前の惚れ薬、もうちょっといろんなパターン想定しといた方がいいぞ」
「どういうこと?」
「たとえば…」
ノアの薄紫の瞳が私を射抜く。
「元々惚れている場合どうなるのか、とかな」
「それって…」
ノアの言葉に全身が沸騰したように熱くなる。
「俺はとっくにお前に惚れているって言ってんだよ」
「あっ…う?」
もしかしてと心のどこかで期待していた。
だが実際に聞くと、想像の何倍も威力があってふらふらする。
「薬の作用で多少いつもより素直っていうか、大胆にはなったけど。それは始めの24時間で切れていたし」
ノアが頭をくしゃくしゃと乱す。
「それをお前らが勝手にまだ惚れ薬が切れていないとか言い出して。これは解毒剤飲まなきゃ俺の気持ち信じてもらえねーなと思って」
ノアの言葉に驚く。
「でも24時間経った後も私に、あ、甘いっていうか、いつもと違ったし!」
しどろもどろになりながら指摘する。
「惚れ薬飲んでいる時の映像見て、妬けたんだよ。俺なんだけど。俺がいつも思っていることをやってるやつがいて。それでお前は顔赤らめてるし」
ノアが口を尖らせる。
なに、その可愛い話。
「だから、それなら俺も素直になろうと思って」
何も言えずはくはくと口を動かす。
ノアは私を見て、少し笑う。
そして息を吸って、真剣な顔になる。
「お前が兄貴のこと好きなのは分かっている」
「でも絶対幸せにするから。俺のこと好きになれよ」
ノアが私に一歩近付き、頬を撫でる。
もう私の視界にはノアしかうつっていない。
「好きだ、リリアーナ」




