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お試し


ノアの美味しいごはんをひたすら頬張る。

あぁ、幸せだ。

こんなに口が悪いのに、作る料理の味は優しくて繊細だ。


目を細め、舌鼓を打っていると、ノアが私に問いかける。

「解毒剤完成したら自分で試すのか?」

「もちろん」

迷いなくうなずく。


新薬のお試しは自分でするのがセオリーだ。

私が作っている薬は基本命に関わるようなものはないが、それでも何か想定外が起こった時に自分で責任を負えるように。


…でも今回は自分で試したのに、想定外のことが起こってしまったけど。


ちらっとノアを見ると、真剣なノアの薄紫の瞳と目が合った。

「どうしたの?」

食事時に相応しくない真剣な眼差しに戸惑う。


「効果わかるためには、一旦惚れ薬も飲むんだよな?」

「そうしないとわからないしね。ユーリにまた協力してもらうよ」


解毒剤が解毒剤として機能していることを確認するためには、もう一度惚れ薬を飲まなければならない。


そして惚れ薬もまた惚れ薬の効果を発揮していることを確認してからでなければ意味がない。


またユーリに相手をしてもらおう。

ユーリも何度も薬を飲んだ友達に惚れられて迷惑だろうが、他に頼める相手もいない。


ぱくぱくとごはんを頬張り続けていたが、視線を感じる。

解毒剤のことはノアにも関係するのに、食事の方に夢中で感じが悪かっただろうか。


フォークとナイフを置き、居住いを正す。

「何か気になる点がある?」

ノアはじぃと私を見た後、言いづらそうに口を開く。


「…俺にしろよ」

「俺?」

なんのことかわからず、首を傾げる。


「あっ、解毒剤をいきなりノアに使えってこと?」

思い当たってポンと手を打つ。

そりゃノアからしたら一刻も早く解放されたいよね。


「はやく解毒剤飲みたいのはよくわかる。私のせいだし、本当に申し訳ない。でも何かあったら困るし、私で一回試させて」

深々と頭を下げる。


「ちげぇ」

下げた頭に向かって声が聞こえる。

「違うの?なにが?」

顔を上げ、ノアを伺うと不機嫌そうな顔をしていた。


「お前が他の誰かに惚れてるところは見飽きたって言ってんだよ」


片肘を机につき、その手で口を覆い、顔を背けながらノアが言う。

言われたことを、落ち着いて噛みしめる。


「ふわっ!」


やっと意味を理解して、椅子からがたりと立ち上がる。

「なんだよ」

ノアが立ち上がった私を睨む。


…いやいやいや。落ち着いて。

そう、これは薬のせいでして。


真っ赤になっているであろう頬を押さえて、深呼吸する。

なんという殺し文句だろうか。


ノアが人を好きになったらこんな感じになるの?

胸がとてつもないはやさで脈打っている。


「おい。で、惚れ薬飲む時の相手は俺にするんだよな?」

確認するようにノアが言う。


薄紫の瞳に見つめられて、もう何も考えられない。

こくこくと首を縦に動かす。


「決まりだな」

ノアの薄くて形のいい唇が、うれしそうに上がった。

その笑顔に思わず見惚れる。


でもこれはノアの本心ではないのだ。

あくまで薬のせいなんだから。

そう考えると胸に痛みが走ったような気がした。



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