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好きな人の恋人


材料が足りない。

解毒剤を作るのに『満月の夜に咲いた鈴蘭』が必要だ。


しかしこれは大学の研究室に保管されている。

ユーリに取ってきてもらうことも考えたが、まだ授業中である。


申し訳ないし、自分で行って、取ってきた方がはやく作業に取り掛かれる。

私は箒を走らせ、研究室に向かった。


扉を開けると、人が二人いた。

片方は私が憧れてやまないリアムさん。


そしてもう一人。

こちらに背を向けて立っている女性。


艶やかな金に近い茶髪をおだんごにして、スラッとした立ち姿はモデルのようだ。

後ろ姿だけ見てもオーラを感じるし、美しいのがわかる。


白衣を身にまとっているが、腰のくびれが浮き彫りで大人の色香も感じさせる。

リアムさんととってもお似合い。


…あの人だ。

今日はこちらに顔を出していたのか。


二人とも扉が開いたことに気づかず、向き合って話している。

こちらから女性の肩越しに見えるリアムさんの表情はいつもよりとろけるような優しい笑みだ。


年上の、好きな人に甘える笑み。


開けかけた扉の前で固まっていると、女性が振り向いた。


「あら。リリちゃん?」

見つかった。

美しいアーモンド型の瞳に見つめられ、返事をする。

「あっ、こんにちは。セリーヌさん」


「久しぶりね」

セリーヌさんが声をかけたことで、やっと私に気がついたリアムさんもにっこり笑う。

さっきの笑みとは違う、後輩に向けた年上の笑み。


「お久しぶりです。今日はこちらに来てくださっていたんですね」

笑みの違いに、立場の違いを改めて感じて痛む胸を隠しながら、ぎこちなくセリーヌさんに声をかける。


セリーヌさんはリアムさんのひとつ年上で、この大学に併設している大学院に通っている。

優秀な人で、たまにアドバイスがてら私たちのゼミにも顔を出してくれる。


1回生の私たちは在籍時期はかぶっていないが、先輩たちから話はよく聞いていた。

入学してから1ヶ月。初めて顔を合わせた。


そしてその時知ったのだ。

私がとっくにメロメロになっていたリアムさんと、みんなの憧れの先輩であるセリーヌさんが付き合っていることを。


関わりがなかった私にも、初対面から気さくな人だった。

みんなが憧れ、リアムさんが好きになったのもよくわかる。


私の胸中など知らぬセリーヌさんが優しく微笑む。

「そう。大学院での研究がひと段落したから顔を出すって、こないだの休みに決めて」


こないだの休み…

脳裏に通信機器をいじっていたノアが思い浮かぶ。

今日学校を休めと言ったのはこのためだったのか。

おそらくリアムさんから聞いていたのだろう。


私はノアの優しさをわかっていなかった。

せっかく事前に回避しようとしてくれたのに、のこのこやってきて。


そして案の定打ちのめされている。

なんて間抜けなのだ。


胸の痛みを隠しながら、笑い返す。

「そういえば、こないだの新薬。ノアが飲んじゃったけど、ノアの世界は輝いていた?」

何も知らないリアムさんが思い出したように言う。


そうだ、世界が輝いてみえる薬と言っていたのだっけ。

実際はノアにとっては不利益しか巻き起こしていないというのに。


「いえ、失敗でした。ノアには申し訳ないことをしました。解毒剤を作ろうと思って、材料を取りに来たんです」

眉を寄せて答える。


「リリちゃんが失敗なんて珍しいね。ノアが素直に感想を伝えていないだけじゃない?」

違うんです。ノアは今、私のせいでむしろいつもより優しいんです。


リアムさんの何気ない言葉に、より罪悪感が増す。


「手伝えることがあればなんでも言ってね」

セリーヌさんの言葉も胸に刺さる。

私はなんて自分勝手で愚かなことをしたのだろう。


「ありがとうございます」

棚に近づき、お目当ての材料を手に取る。


寄り添うように立ち、私を見守る二人の姿に耐えられなくなる。

挨拶もそこそこに部屋を飛び出した。



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