謎の状況
同棲しているみたいなのだけど。
休み明けの日、一緒に学校を休むと言いはるノアをなんとか送り出した玄関で息を吐く。
朝のお見送りって新婚夫婦のイベントでは?
ノアは昨日の休みもお風呂に入るために自分の家に帰ったが、それ以外は結局私の横にいた。
材料を仕入れるために、薬草が生えている山に行ったのだが、それもついてきた。
休みの日に二人で出かけて、同じ家に帰ってきて。
まるで同棲しているカップルのような暮らしだ。
作業場に戻り、薬草をすりつぶす。
これで薬も切れるといいのだが。
薬を服用してから2日半、63時間も経過しているのに、ノアの様子は変わらない。
よほどノアの体質に惚れ薬の相性がよかったのだろうか。
考えながら、鍋にすりつぶした薬草を入れ、火にかける。
昔から薬を作ることが大好きだった。
万とある薬草を組み合わせて、どんな効果が出るのか。
それを試すことは至高だった。
だから大学に入る時も、迷わず魔法薬の権威であるブライト教授のいる大学とゼミを志してきた。
通信機器が着信を知らせる。
「もしもし?」
『もしもし、リリアーナ?ノアは学校来てるけど』
「ユーリ!そうなの、行ってもらった。様子はどう?」
気になっていたノアの様子を確認する。
『いつも通り、女に威嚇しまくっているわ』
「そうだよね」
やはり私がそばにいなければ普段通り過ごせているようで、そっと息を吐く。
「また何か変わったことがあれば教えてくれる?」
『もちろん』
「ありがとう」
ユーリも授業がある。通話を切ろうとするとユーリが呼び止めた。
『ねぇ、私は恋愛に疎いからわからないけど』
ユーリの言葉にイーサンの顔を思い浮かべる。
イーサンはユーリが好きなのだが、今のところユーリには全く気持ちは伝わっていない。
それはひとえにユーリが研究に没頭していて、恋愛に興味がないからである。
それにしてもイーサンの気持ちは傍目に見ているとわかりやすいので、伝わっても良さそうだが。
おそらくユーリは恋愛に関して鈍感なのだろう。
もちろん勝手にイーサンの気持ちを伝えるわけにはいかないので、そっと見守っている。
『後から落ち着いて考えみると、ノアは本当に薬が切れている可能性があるなと思って』
「えっ?!」
通信機器は音だけなので、ユーリに私の顔は見えていないが目を丸くする。
「なんで?」
『映像を見てて思ったんだけど、惚れ薬が効いている間って対象相手には瞳が潤むし、発熱状態になるでしょう?その症状は消えていたなと思って』
「そうだけど、でも…」
たしかに思い返すとその症状は治っていたかもしれない。
でもそれなら、今のノアの状態は?
体の反応は消えて、気持ちだけ残ることもあるのか?
『いずれにせよ解毒剤を作るのは今後のためにも賛成だし、作ってみたらいいと思うけど。とりあえず気になって』
「あ、ありがとう」
『うん、また手伝えることがあればいつでも言って』
ユーリにお礼を言って、電話を切る。
まさか本当に薬は切れているのだろうか。
でもノアが正常なのに私にくっつくことなんてある?
日頃のノアを思い出し、首を振る。
一刻も早く解毒剤を作ろう。
煎じていた薬草のエキスを抽出する作業に戻った。




