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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第五章 『新生活』
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第四十五話 『日常への帰還』

「えっ、じゃぁ翔琉先輩の裸が保存できないじゃないですか」

「いや、保存するなよ!」


 牧田と明蓮寺が組んだらやばい。

 もう何されるか分からない。


 隠れドSの牧田と、清楚系変態少女の明蓮寺。

 なんと恐ろしい組み合わせなんだ。

 貞操の危機を感じるぞ。



 ......いやちょっと待て。

 これ、二人が協力しなくても危ないのでは?


 まずそもその、明蓮寺と『天眼』という組み合わせがやばい。

 これ、あれか?

 俺が風呂に入っているところとか見られるのか?

 内緒で見られるのか?


 360度、365日、いつでもどこからでも俺の裸が見られている。

 それはなんか、興奮......いやゾッとするな。

 決して興奮なんてしないぞ。

 今のはただ言い間違えただけだ。

 うん、そういうことだ。


「でもまぁ、これで実験成功だな

 明蓮寺も、協力ありがとな」


 とりあえずお礼だ。

 いくら物申したいことがあっても、協力してもらった以上謝礼は大切だ。

 そこを疎かにしてしまえば、佐々木翔琉の名が廃る。


「いえいえ

 こちらこそ能力を引き出していただきありがとうございます」


 明蓮寺もまた、俺に向かって軽くお辞儀をする。


 互いにお辞儀をしてこの実験は終わり。

 平和に安全に実験が終了した。

 失うものはなく、得るものだけがあったこの実験。

 大成功と言っても過言ではないだろう。


「やっぱり翔琉先輩は、私の運命の人です」


 俺が実験の成功を噛み締めていると、明蓮寺が誰にも聞こえないような小さな声でそう言ったのが聞こえた。

 きっと、誰にも聞かせないつもりで言ったのだろう。

 秘密の独り言ってやつだ。

 あまり触れないでおこう。


「いやー、いいのが見れたよ。これでいい記事が書けそうだ

 僕からもお礼を言うよ。ありがとう」


 急にお礼を言ってきたのは牧田だ。

 牧田の目の色は両方とも赤色に戻っており、もう能力は使っていないみたいだ。

 そう言えば、明蓮寺も能力を使っている時に目の色が変わるのかな。

 今日は疲れているだろうし、また今度見せてもらうとしよう。


 それにしてもこいつ、やっぱり新聞部なんだな。

 こんな傍から見ればくだらないような実験を、わざわざ撮るようなこと普通はしないと思うんだけどな。

 どんな小さなスクープも見逃さないという熱意。

 さすがと言わざるを得ない。


「ていうか、記事にしても大丈夫?」


 牧田は明蓮寺に向かって問いかける。

 幸せそうな顔をしていた明蓮寺は、急な問いかけに驚いたのか「へ?」と、変な返事をする。

 それもまた可愛らしくていいな。

 まぁ、うちの妹には敵わないがな。

 うちの妹にかなう奴なんて、今世紀中には生まれないだろう。


「大丈夫ですよ」


 と、明蓮寺が返答する。


「よし、じゃぁ記事にするね」


 あっ、俺への確認はないのね。

 思えば、初めて俺が記事にされた時も確認はされなかった気がする。

 俺は確認いらずってか?

 確認を取るまでもないってか?

 誰の差し金だ。

 主犯は誰だ。

 なんてね。


 別に俺としては、いくら記事にされようが気にしない。

 だから確認とかいらないんだけどね。

 むしろ確認を取られる方が鬱陶しいかもしれない。


「僕は今から記事を作って来るよ」


 そう言って牧田は、走り出した。

 部室か家に向かうんだろう。

 今日は記事作りに専念か。

 なら、明日の牧田は欠席だな。


「私たちも部屋に戻るわよ。もう疲れた」

「そうだな。早く戻ろう」


 遠坂姉と哉はそう言って歩き出し、その後を遠坂妹がてこてこと付いて行く。

 お前ら何もしてないだろ。

 なんで疲れてるんだよ。


「私たちも戻りますか」

「そうだな」


 てなわけで、この出来事はこれにておしまい。



 ---



 俺は今、指先(正確には指先にある空間)から、冷えた水をコップ一杯分出している。

 何をしているのかだって?

 バイトだよバイト。


 バイト中の俺は、『佐々木のお冷』とかいうよくわからない注文に付き合わされているのだ。

 なんなんだこの注文。

 誰得なんだよ。


 よくこんなメニューを注文しようと思うよな。

 100円だぞ百円。

 どう考えてもコスパ最悪だろ。


 実際、この注文をする奴も限られてきた。

 今注文しているおばさま方を含めても数組しかこの水を頼まない。

 男からの注文などまずない。

 罰ゲームくらいだ。

 俺の水は、罰ゲームに持ってこいらしい。


 それもそうだろう。

 同性から出てくる有料の水など、飲みたくもないし見たくもない。

 水を出してくれるのが女の子なら少しは考えるが。

 とまぁそんな感じで、このメニューを注文する奴は少ない。


 むしろ、今こうして注文されている方が驚きだ。


「かけちゃん、いつもありがとうねぇ~」


 と、つい今さっき俺に水を注がれたおばさまが、俺にそう言ってきた。

 何がありがとう何だろう。

 よくわからないな。


「いえいえ

 こちらこそ、いつも来ていただき本当にありがとうございます」


 と、笑顔を作って返しておく。

 このおばさま方は常連さんだ。

 少なくとも、一週間に二回は来店する。

 何がよくてこんな店......


 いや、今のは失言だな。

 この店は良いぞ。

 店員同士は仲いいし、店長は明るいし。

 うん、()()にとってはいい店だ。

 お客にとっては......まぁ、人によるだろう。


「かけちゃん、学校でもモテるでしょ」

「いえいえ、全然ですよ」


 俺は笑いながらそう答える。


 一瞬、明蓮寺のことが思い浮かんだが、それでも一人だけだ。

 俺の友達である牧田なんて、中高含めた女生徒の八割くらいのハートを射止めてるんじゃないか?

 罪な男め。

 どう成敗してやろうか。

 今度縛ってくすぐり尽くしにしてやろう。

 なんてね。


「またまたぁ~」


 と、おばさま方は手をひらひらと縦に動かしつつ言う。

 おばあちゃんが良くする動きだな。

 テンプレだ。


「あっ、私たちがずっと止めてたら仕事の邪魔よね

 ごめんなさい

 お仕事頑張ってね」


 と、いつものこの会話は、おばさま方から終わってくれる。

 しかしまぁ、俺もそれに適当に返すのだが。


「全然邪魔なんかじゃありませんよ

 お客さんも少ないですし―――」


『バオーン』


 俺の頭に何かしらの衝撃が加わった直後、気の抜けるような音が響く。


「いて~」

「何が『お客さんも少ないですし』だ

 事実だが、あまり口に出すな

 悲しくなるだろ」


 そう言ったのは店長だ。

 見ると、手には空のお盆を持っている。

 どうやらさっきの音は、店長がお盆で俺の頭を叩いた音らしい。

 お盆は人を叩くものではありません。


「それもそうですね

 すいません」


 とりあえず謝っておこう。


「『そうですね』っていうのもどうかと思うぞ?」


 まぁ、確かに。

 俺は「ハハハ」と苦笑い。


「仕事に戻れ」

「はい」


 俺は仕事に戻った。

 特にすることがない仕事に。


「かけ君、人気だよね」


 俺が定位置まで戻った時、声をかけてきたのは鷲宮だ。

 鷲宮の学校でもテストが終わり、今日から彼女もバイトなのだ。


 で、そんな鷲宮だが、なぜかつまらなさそうな口調で言った。

 口をとがらせている。


「いや、鷲宮のほうが人気だろ」


 特に男子から。

 まだ明るい時間など、男子から笑顔を求められてばかりだ。

 本当に大変そう。

 俺が鷲宮になれるなら変わってあげたい。


 ん?

 もしかすると水人形(アクアドール)で作れるのでは?


「そんな人気、ほしくないよー」


 俺がそんなことを考えていると、鷲宮は可愛らしくうなだれる。

 まぁ、かわいらしいと言っても、うちの妹の方が―――(以下略)


 でだ。

 そのかわいらしい鷲宮だが、どうやら男子に人気なのはあまり好きではないらしい。

 まぁ、分からなくもない。


 異性にガツガツ来られるのは、嫌ではないけど困るしな。


「そうか......」


 会話が無くなった。

 こうして話が無くなるのは、別に初めてじゃない。

 いつも、二人で帰っている時だってお互いに会話が無くなることだってある。

 そのため、別にこの空気が気まずいなんてことはない。

 いつもの事だ。


 そもそも、今は仕事中。

 あまり話しすぎるのも良くないだろう。



 ---



「お先でーす」


 俺はそう言って、裏口から店を出る。

 今はもうウェイター姿ではなく、私服姿だ。

 決してオシャレとは言えないような、そんな私服だが。



 あれから時間が経ち、ちょうどバイトが終わったのだ。


 ちなみに、さっき店長の所に顔を出したら、例のごとく酒に酔って泥酔していた。

 とりあえず毛布を掛けてきたのだが、この店は大丈夫なのだろうか。

 まぁ、これくらいの時間になればお客さんなんてほとんど来ないから一人くらい抜けてもやっていけるんだろうけどさ。

 それでもだめだと思うんだ、俺は。


「あっ、かけ君」


 と、俺が裏口から出ると、先に外に出ていた鷲宮が声をかけてきた。


 終わる時間は俺と同じなのに、身支度が早い。

 その上服がオシャレである。


 どうして俺のジャージ同然の服より、その複雑そうな服のほうが身支度が早く終わるんだ?

 別に俺だってのんびり片付けしてた訳じゃないのに。

 『噂の早業びっくり人間』みたいなので特集されてもおかしくないと思うぞ。


「かけ君遅い」


 そんな不服そうな顔されましても、私にはどうすることもできないわけでして。

 すいません。


「今日、結構ゆっくり着替えたんだよ」


 えっ

 それマジで言ってんの?

 そのなんていうか、しっちゃかめっちゃかに絡み合ってるみたいな服を、ゆっくり着替えてその早さなの?

 どうやって着替えてるのか見てみたい。


 あっ、早着替えのコツを知りたいという意味で、決して生着替えが見たいなんてことじゃないですよ。

 まぁ、見たくない訳じゃないですけども。


「ごめん

 どうやったらそんなに早く着替えられるの?」


 見せてと言うのは、知人であろうと変質者扱いされそうなので、コツを聞くことにする。


 俺の質問を受けた鷲宮は、さっきまでのちょっと不満そうな顔を変えて、「う~ん」と唸り出す。

 もとい、唸っているのではなく考えているんだろうけど。


「分かんない

 コツじゃない?」


 鷲宮は、答えを絞り出したようにそう答える。

 うん、で俺はそのコツが知りたいのだけれど。


「そのコツとは?」

「分かんない」


 あー

 分かんないかー


 ということで、俺の着替えが早くなることは今後しばらくの間はないだろう。


 まぁこんな感じで、俺たちの帰宅タイムはスタートする。


 二人で並んで歩いている訳だが、周りからは恋人のように見えるのだろうか。

 なんというか、こんな俺と恋人と思われるなんて、鷲宮が可哀想だ。

 ちょっと離れて歩こうかな。

 でも、離れて歩くといざと言う時に対応できないし。

 いや、ここは安全を優先しよう。

 女の子を危険な目に合わせるのは悪いからな。


 で、そんな考えの結果、こうして二人でカップルのように歩いているのだが、当然手は繋がない。

 元引きこもりの元人見知りが、女の子と手なんて繋げるわけが無い。


 でも、手を繋いだ方が犯罪者共からしたら襲いにくいのかもしれない。

 それなら俺は、手を繋いだ方がいいのだろうか。


 お、俺は繋ぐぞ。

 そ、その......お、女の子とて、て、て、手を!


 俺は出来る。

 男の子だもん!

 やればできる子だもん!

 ふんすっ!


 俺は手を繋ごうとしては、「やっぱりなぁ」と手を戻す。

 そんなことを2回。

 心の中の葛藤と言うやつだ。

 女の子と手を繋ぐなんて、妹以外では初めてだし、仕方ないだろ。


 てゆうか、なんでこんな事で葛藤してるんだよ。

 これじゃあ、本当に付き合ってて、勇気が出ない男の子みたいじゃないか。

 俺たちは付き合ってないし、この手を繋ぐのだって周りからの攻撃をいち早く防ぐため。

 悩む必要なんてないのだ。


 よし、次で繋ぐぞ!


 俺は、思い切って鷲宮に向かい俺の手を伸ばす。

 あとちょっとで触れる距離。

 ああ、お母さん。

 俺は今日、初めて女の子と手を繋ぐよ。


「あっ、猫ちゃん!」


 もう少して繋がれそうだった手は、鷲宮が猫を見つけて走り出したことによって空を切る。


 空振り三振。

 バッターアウト。


 それにしても、鷲宮が動き出すタイミングは俺が手を繋ぐのとちょうどピッタリだったな。

 もしかして、俺が手を繋ごうとしているのを知って、それを躱したのでは?

 俺、避けられてる?


 手を繋ぐのはやめておこう。


「かけ君もおいでよ

 猫ちゃん可愛いよ」

「お、おう......」


 近づきたいのか遠ざけたいのか、よく分からないな。

 いや、手を繋ぎたくないだけかもしれない。

 別に避けられている訳では......


 いや、もうこれ以上考えるのはやめにしよう。

 考えたところで結果は出ないし、なんだか悲しくなってくる。



 俺は歩いて(キャルニア)、鷲宮の元まで歩いていく。

 ゆっくりと、猫に怖がられないように。


 ここは、前にも二人で立ち寄った公園。

 前に鷲宮が猫を見つけて駆け寄っていた場所だ。


「ニャー

 ワシャワシャワシャー」


 気持ちよさそうにくつろいでいる猫の顎を、高い声を出しながら撫でる鷲宮。

 俺はこの隣に座って猫、というより鷲宮の手つきを見る。


 物凄い手つきだ。

 あれなら、猫は天にも昇る心地だろう。

 俺も、鷲宮に撫でられた時には天に昇ってしまうだろう。

 気持ちよさそう。

 俺も天に昇りたい。


「かけ君も撫でる?」

「俺は撫でられたい」

「え?」


 おっと

 口が滑ってしまった。

 鷲宮に撫でられてみたいのは確かだが、口に出すのはまずい。


「いや、今のは間違えただけで―――」

「でも確かに、私も撫でられたいかも......」


 ん?


「猫に撫でられるのって、どんな感覚なんだろう

 猫の肉球で、プニプニって撫でられるの

 きっと気持ちいんだろうなぁ」


 あ、猫に撫でられたいってことね。

 びっくりした。

 俺に撫でられたいのかと思った。

 そんな訳ないのにな。


 というか、俺が鷲宮に撫でられたいんだとバレなくてよかった。

 もしバレていたら、気持ち悪がられていたのかもしれない。


 鷲宮に、ジト目で睨まれる。

 ちょっと興奮しなくもないが、やはり辛いだろう。

 この子に嫌われるのは嫌だ。


「猫に、か.....

 悪くないかもな」


 俺はそう言って、猫を撫でる。

 頭を撫でたり顎を撫でたり。


 やっぱり、鷲宮に撫でられている時の方が気持ちよさそうだ。

 猫は微妙に、不服そうな顔をしていた。


 そんなに女の子に撫でてもらいたいのか。

 この変態猫め。


 この猫は、俺と気が合うかもしれない。

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