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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第四章 『序列』
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第二十八話 『日常』

『ヒュッ!ヒュッ!』


 牧田の話を聞くところの、丘上崖という丘の上。

 なぜか噂になっているという、新築の裏庭。

 そこから、空気を切り裂く音が聞こえてくる。


 早朝から、木刀で空気を斬るのは俺、佐々木翔琉である。


 少し重めの木刀を使い、素振りをしている。


「―――99......100!」


 俺は毎朝、起きて直ぐジャージに着替えると、こうして素振りをしている。

 一撃一撃、本気で100回。

 ただ振るのでは無く、そこにある空気を断裂するように。


 そんな日常を前世から続けていただけあって、今では『ブオン』という空気が動くような、鈍い音ではなく、『ヒュッ』という短く高い、鋭い音が出るようになった。

 これだけの剣速があると、たとえ木刀であっても大体のものは斬れる。

 無論、木刀が負けなければ、だ。

 しかし当然、木刀より硬いものなんていくらでもある。


 小さい石くらいなら木刀でも両断できる。

 が、岩と呼ばれるほどまで大きくなると、流石に両断できない。

 力任せに両断なんてしようものなら、木刀の方がふたつになってしまう。


 とはいえ、水人形(アクアドール)くらいならたやすく切れる。



 100本の素振りが終わった後は、実践訓練だ。

 まぁ、実践訓練とは言っても自分で作った水人形とだ。

 自分と戦うのと、そう変わりない。


 俺は、もうすでに息が乱れている。

 それでも俺は、息を整えて直ぐに水人形を生成する。

 数は3


 少し前までは、三体同時に動かせても連携は取れなかった。

 だが、最近では多少だが連携が取れる。

 日に日に、マネキンが強敵になっていくのだ。


 しかしその分、俺も日に日に強くなっている。

 ふっ

 今後も強くなっていくのが楽しみだ。



「来いよ」


 俺は、水人形にそう言って手招きをする。


 傍から見れば、相手を挑発しているように見える。

 戦いの合図と言う訳だ。

 だが、その相手の中身は自分。

 自作自演だ。


 おそらく俺が、こんな中二病じみたことをしているのが宙にばれたら、恥ずかしさでのた打ち回ることだろう。

 明日からは、やめておこう。


 俺は、そんなことを考えながら四体の体を構えさせる。

 本体以外の手元には、水生棒(アクアスティック)を作り出す。

 目を瞑り、大きく息を吸ってそれをそのまま大きく吐き出す。

 俺は目を開けると同時に、足に力を籠める。

 地面を抉るようにして踏み切り、走り出す。


 一瞬で水人形三体へと近づき、一太刀。

 だがそれを、真ん中の水人形に水生棒を使って防がれる。

 木刀と水生棒がぶつかっただけなのに、『キン』という、金属音に似た音を生じる。

 刹那、違う水人形が俺の右手に回り込み、頭の上まで振り上げた水生棒を超スピードで振り落とす。

 俺はそれを、体を捻ってかわす―――



 ---



 あれから、俺も水人形も一歩も引かずに拮抗していた。

 戦局が動いたのは数十分後。

 俺が木刀で、背後から近づいて来る水人形を貫いた時だった。


 横向きに振られた水生棒をしゃがんで避けるのと同時に、逆手に持ち直した木刀を、背後の水人形にノールックで突き刺す。

 場所は水人形のど真ん中。

 人間であれば心臓のある場所。

 そこを木刀が貫通している。


 胸のど真ん中を貫かれた水人形は、形を保てなくなったように爆発する。

 大量の水滴が、雨のように降り注ぐ。


 そこからはあっという間だった。

 連携を主として戦っていた三体は、一体いなくなるだけでバランスが崩れる。

 芋づる式に一体、二体と俺の策略に引っかかり斬られていった。

 例え自分の策略とはいえ、一瞬でも嵌まるともう抜け出せない。

 水人形(オレ)は俺の、手のひらの上だったのだ。



 三体目の水人形が水しぶきに変わったところで、訓練は終わり。

 朝食の時間だ。


 今週の家事当番は俺。

 実は今日、俺はいつもより早起きしている。

 なぜかって?

 そりゃあ、宙が起きた時には朝食を作り終えるためだ。


 いや、違うな。

 自分のためだ。

 宙のためにとか言っておきながら、本当は自分のためなのだ。


 宙が起きるまでに朝食を作ることで、俺にとってどんなメリットがあるか。

 そんなの言うまでもない。

 眠そうな顔で、チビチビと箸を口へと運ぶ宙は、かわいい。

 食後のデザートとして食べたくなる。

 こう『カプリ』と。

 甘くておいしそうだ。

 早く食べたいな。


 いやいや、そうじゃない。

 俺はただ、宙の食事を見たいだけ。

 食べてしまったら、見れなくなってしまうじゃないか。



 そんなことを考えていると朝食が作り終わった。

 今日の朝食は、白米・味噌汁・弁当の残り。

 手抜きのように思えるが、いつもこんなもんだ。

 それに弁当の残りと言っても、それも全力で作ったものだ。

 おいしくできたと思う。


 出来上がった朝食を持ってテーブルへと歩いていた時、奥の廊下からトボトボと歩いてくる影。

 起きてから寝るまで、かわいい全開の妹。

 宙だ。


「おはよう、宙」

「うん...おはよう、おにぃ......」


 宙は、目を擦りながらそういう。

 まだまだ眠たそうだ。


 宙が家事当番の時は、シャキッとした目をしているのにな。

 まぁ、そんなところがかわいいんだけどね......

 えへへ


 おっと、顔が緩んでしまった。

 この気持ち悪い顔を、宙には見せられない。

 教育に悪い。


「「いただきます」」


 俺たちは二人で、席に着き朝食を食べ始める。



 ---



 そんな、幸せバッチリな朝を終え、今は憂鬱満タンな授業中。

 4時間目だ。

 この授業が終わると昼休み。

 午前中最後の授業だ。


 カツカツと黒板を書く音。

 それをノートに黙々ととる音。

 たまにボールペンくぉカチカチする音も聞こえてくる。


 中庭からは、鳥が囀る声。

 柔らかい風で、葉が掠れる音。


 どこかのクラスが体育でもしているのだろう。

 楽しそうな声も、小さく聞こえる。



 そして今この時、俺の耳に届く最大音量の声は、先生が数式を説明している声だ。

 今は数学の授業で、黒板には数字と図形が並んでいる。


 俺は数学が苦手な訳ではないが、聞きたくないときの数学は結構苦痛だ。

 正直なところ、今の俺は数学の気分ではない。

 早く昼休みにならないかな、とウズウズしている。

 もっとも、数学の気分であるときなんてほとんどないが......


 昼休みが待ち遠しくてウズウズしている俺だが、別に弁当が早く食べたくて仕方がないという食いしん坊キャラではない。


 ならなぜ昼休みが待ちきれないのか。

 分かるだろう?

 早く授業が終わってほしいからだ。

 昼休みなんてどうだっていい。

 どうせ昼休みなんて哉と話しているだけだ。

 最近では牧田も加わったか。


 それにしてもなかなか終わらないな......

 先生の声は、どうしてここまで眠くなるのだろう。

 先生の声が子守歌のように聞こえてくる。


 これもう、寝かしつけに来てるんじゃないか?

 寝てもいいよね?

 おやすみなさい。


 俺はうつ伏せになり目をつむる。

 目を閉じた瞬間、眠気が倍増される。

 この調子だと、一瞬で寝られそうだな。


『ペシッ!』

「いてっ!」


 チョークが飛んできた。

 最高の命中力だ。

 あのイケメン数学教師は、チョーク投げの練習をどれだけしたのだろうか。

 寝ている生徒にチョークを当てたい。

 その一心でチョークを何本も折ってきたことだろう。


 いいだろう。

 その努力に免じて、起きてやろう。

 子守唄にも抗ってやろう。


 一体、誰目線なんだろうか......

 心の中だとしても、上から目線は良くないよな。


 すいません。

 寝ないように善処します。



 まぁ、そんなこともあって数学の授業は何の問題もなく順調に進んだ。

 あえて問題を挙げるなら、授業が数分伸びたくらいだ。


 いや、この問題は挙げるべき問題なのでは?

 授業が伸びるなんて一大事だ。

 今年最大の大事件だ。


 否、今年最大の大事件は異世界転生のはず。

 しかし、長年学校へ行かず、授業の延長など経験したことのない俺にはこの出来事は驚くべき事だったのだ。

 普通なら、異世界転生の方が驚くと思うがな。

 なぜか、最近の俺は異世界転生を簡単に受け入れつつある。

 少し前まで、幽霊や都市伝説など、非科学的な現象はまったく信じなかった俺がだ。

 どういう心情の変化だろう。

 自分では皆目見当もつかない。



 周りを見てもやっぱり、クラスメイトも授業延長に文句たらたらのようだ。

 クラスの中心女子軍団からは「マジありえな~い」とか「ホントそれ~」とか、前世に画面越しで見たギャルみたいな言葉が聞こえてくる。

 俺も延長されて不満なのは同意だ。

 でもなんていうか、あの言葉遣いには同意できないな。

 俺にギャル語は合わないようだ。


「かける!

 飯だ、飯

 早く飯を食うぞ

 腹が減って仕方がないぜ」


 話しかけてきたのは哉。

 その隣には牧田もいる。


 どうやら哉は俺と違って食いしん坊キャラのようだ。

 隣の牧田はそんな哉をまったく気にもせず、文字通り目を輝かせてキョロキョロしている。

 当の本人は、よだれをたらしそうな勢いで、周りの顔なんて気になっていないようだ。

 しょうがない、飯を食うか。


 俺はロッカーにしまってある弁当を取ってきて、再度自分の席に座る。

 そのころには、二人は近くの机を3つくっつけて弁当を広げていた。

 俺も弁当を広げる。


「いただき!」


 俺が広げた弁当を、哉は無遠慮につまむ。

 卵焼きを『ひょい』っと取って、『パクッ』っと口へ運ぶ。

 そして、もぐもぐと吟味した後、幸せそうな顔をした。


「やっぱり、お前の妹は料理うまいな!」


 おうおう。そうだろう。そうだろう。

 宙は料理が上手いんだ。

 最高の妹を持ったよ。


 俺は宙を褒められて笑顔。

 哉は俺の弁当が食べられて満足そうな顔をしている。

 それを見た牧田は、苦笑いをしている。

 きっと、俺と哉がこの表情になっている理由を知っているのだろう。

 こいつの情報収集能力はすさまじいからな。


「そんなに美味しいの......?」


 牧田はそう言って俺の弁当に手を伸ばす。

 そして数あるおかずのうち、牧田が選んだのはやはり卵焼きだった。

 『ヒョイ』っと摘まみ上げた卵焼きを一口で頬張る。


「おう......これは美味しいね......!」


 おうおう。そうだろう。そうだろう。

 宙は料理が上手いんだ。

 最高の妹を持ったよ。


 どんな小さなことでも、妹のことを褒められると自分のことのように嬉しくなる。

 それに、宙のいい所を知ってもらえて嬉しいとも思う。

 やっぱり俺は、シスコンなのかもしれない。


 だが、残念な所が一つ。

 今日のは俺が作った弁当なんだよなぁ。


 俺の作った弁当を褒められても、あまりうれしくない。

 いや、もしかするとかわいい女の子に褒められると嬉しいのかもしれない。

 例えば宙とか。


 宙に褒められる、か......

 この上ない幸せが訪れることだろう。

 ぐへへ......


 おっと、危ない危ない。

 また気持ち悪い顔を公衆の面前に晒すところだった。

 ギリギリセーフだな。


 哉と牧田が、俺の顔を見て顔を引きつらせている。

 むしろ、引きつらせるを通り越して心配そうに見ているようにも感じる。

 あれっ、もしかして手遅れ?


 というかこれ、本気で心配されてるくない?

 「実はこの弁当、俺が作ったんだよねー」とか、笑いながら言えるような雰囲気ではないんだが。


 うーん。

 ポーカーフェイスは得意なはずなんだけどな。

 宙の事となると、どうも顔が言うことを聞いてくれないようだ。

 これは何とかしないといけない。

 真面目な会話の時にだらしない顔をしてしまいかねない。

 とはいえ、どうやって何とかしたらいいのか分からない。

 その道のプロと、一度会ってみたいものだ。


「どうやったら妹の事を考えてもポーカーフェイスを続けられますか?」


 とか聞いてみたい。

 そうすれば、どんな時でもポーカーフェイスを保てる。

 そう思う。


「俺のも食うか?」


 そう言った哉は、俺の返答を待たずに「たこさんウィンナー」を押し付けてくる。

 その一言で、二人の顔が笑顔に戻った。


「僕のも!」


 哉に続いて牧田もおかずを押し付けてくる。

 いやまぁ、嫌じゃないんだけど。



 なぜだか最近、このおかず交換会は恒例行事になってしまっていた。

 そこに、「えっ、はじめからいましたけど。」みたいな様子で、平然と混ざっている牧田はすごいと思う。

 こいつのおかげで、いつもの倍は楽しい。

 気の合う?仲間が一人増えるだけで、生活は大きく変わるんだな。


 小学一年生は、友達100人出来るかな、という。

 友達が多くなればた楽しくなるのは分かった。

 だが、多ければいいというものでもないと思う。

 第一、俺は100人も名前を覚えられない。


 俺は二人からもらったおかずを、口へと運ぶ。


「うまいな......」


 うん、うまい。

 とてもうまい。

 哉のはなんというか、愛の味がする。

 哉のお隣さんからの。

 これ、食べてよかったんだろうか......

 牧田のは、しっかりとしみ込んでいて母親の味って感じがする。


 どちらも美味しい。

 まぁ、宙ほどではないがな。

 残念ながら、うちの妹は天才なのだ。

 君たちじゃかなわないよ。



 それから、何でもない会話で笑い、どうでもいい行動で楽しんだ。

 昨日のバイトで何があっただとか、今日の朝は起きるのがしんどかっただとか、そういうくだらない話をした。

 だが、あまり勉強の話はしない。

 哉が着いて来れないからだ。

 どうやら彼は頭が残念なようだ。


 前に一度、哉に「ここってどうやるんだ?」と聞いていた奴がいたが、その時の哉はかわいそうなもんだった。

 ぽかんと、虚空を見つめていた。

 何も分からないよぉ、みたいな顔をしていた。

 あたふたして、最終的には俺のところに来た。

 なんだか、今思い出してもちょっと笑える。


 とまぁ、何だかんだで昼休みが終わった。

 5,6時間目は憂鬱で仕方ない。

 あんなに楽しかった昼休みも、時間が経つだけで苦しい5時間目だ。

 時間というのは残酷です。

 どんなに願っても、待ってはくれないのです。


「はぁ......」


 ため息が出てしまうよ。

 なんだか眠たくなってきたな。

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