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砂の花  作者: 高千穂ゆずる
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偏愛の先 第2話

 ローランの新居は同じノイケルンのブリッツにあった。

 グラーデ通りをブリッツァー・ダムに入ると、すぐに住宅街アルト・ブリッツが見える。その一角にレナは連れてこられた。

 広いリビングから見える小さな森。奥にはフェンブフールがある。強い風が色づいた葉やむき出しの枝を揺らしていた。

「楽にしてていいからね」

 相変わらず洒落た部屋だと、レナはリビングの中を一通り眺めた。イエローの壁紙にシンプルな油絵。

 昔住んでいたアパートも、同じ間取りなのにどういうわけかコイツの家は洒落ていたな――。

 懐かしい記憶を思い浮かべながら小さく笑うレナだったが、既視感めいたものを感じ始めると笑顔が消えた。

「……この部屋」

 張られたばかりのクロスに触れながら、庭に面している窓へと視線を移す。

 リビングの広さのせいですぐにはわからなかったが、家具の配置に見覚えがあった。置かれたインテリアも記憶の中にある家具とよく似ている。

 キッチンからローランが声をかけてくる。レナは上の空で返事をしながら、リビングを横ぎり隣の部屋のドアを開けた。

 部屋は暗く、カーテンの隙間から漏れてくるわずかな陽光が艶のない床の上を走っていた。ドア横の壁にあるスイッチを入れた。

 蛍光管が古いのか、何度か明滅を繰り返してようやく点灯した。

 目の前に現れた光景にレナは息を飲んだ。そこにあるのはかつて住んでいた集合住宅の、レナの部屋そのものだった。

 似たものを探して揃えたのだろうか。

 壁に打ち付けた棚に飾ってある置物は、幼いルイスが義姉の誕生日プレゼントだと工作で作った木製のロボットにそっくりだった。ゴミ箱代わりに使っていたバケツが変形しているのは、いつまでも薬を断てない母親への腹立ち紛れにレナが殴ったせいで――。

 そしてレナはある一点を見て、ぎょっとした。

 確かにそれは、当時そこに――飾っていた。だが同じものは今、自宅の寝室にも飾っている。これはどういうことなんだろうか。

「なんで……これがここにあるの」

 レナは枕元に置かれた写真を手に取った。

 笑顔のベンジャミンと、うまく笑うことができなかった幼いレナが収まっている色褪せた写真だ。

「姿が見えないと思ったらここにいたんだ」

 屈託のないローランの声が背後からかかる。肩をびくつかせてレナは振り返った。

 ドアに凭れて普段と変わらない柔らかな笑みを浮かべている友人は、まるで知らない男に見えた。


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