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200_少女と計画と暗雲の三班

ナンバリング200話到達しました!!!

ほんとだ!すごい!!正気か!!!


ここまでお目通しお付き合い頂き、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけるよう今後もがんばりますので、

今しばらくお付き合いのほどよろしくお願い致します!!!



 拠点に程近い掘削現場にて絶賛護衛業務中の第一班、拠点内居住区画の片隅において慰問品(まくら)を作り続けている第二班よりも……遥かに遠方。

 荒涼とした砂礫地帯に低木がまばらに生える周囲一帯が、第三班の仕事場となる。


 第三班の構成員は僅かに二名……純近接戦闘要員であるノートと、純近接戦闘要員であるニド。いっそ清々しいほどの脳筋(パーティー)である。

 そんな脳筋チンパン達に与えられた、サル(チンパン)でも出来る簡単なお仕事。これまた非常に解りやすいその仕事内容こそ、可食素材の収集……いわゆる『狩り』であった。



 単純に獲物を探して狩れば良いのだと――便利な剣の探知魔法で獲物を探し、常識はずれの身体強化を纏い、一瞬で肉薄してバッサリれば良いのだと――実際ニドはそう考えていた。

 しかしながらノートが取った行動は……意外や意外。普段の猪突猛進さは何処へ行ったのだと言わんばかりの、地に足着けた地道かつ丁寧なフィールドワークなのであった。





 「わたしたち、きょてん。きょう、だけ、ちがう。……いっぱい、ひにち、つかう」

 「……明日以降も狩りがし易いよう目星を付けておく、とったところか。……賢いの、御前は」

 「んい。わたし、かしこい。だんぼう、できる」

 「…………参謀、か。……もうっと言葉を学ばねばな?」

 「あ、あええ…………」



 自信満々に拠点を飛び出したノートであったが……しかしながら先ずは拠点と作業現場とその周囲の地形と生体分布を把握しようと、可能な限り存在を隠しながら常識的な規模の身体強化を纏い、パトローネ火山裾野の砂礫地帯を(気持ち大人しく)駆け回っていた。


 足音や振動や放出魔力で生物を警戒させないよう、生体反応を感知したら遠方から感覚強化エクステンドを用いて生体の種類を確認。周囲の立地と環境を記憶し、生体分布の脳内地図を構築していく。

 並外れた探知能力と魔力強度、そしてそれらに裏打ちされた行動範囲の広さあってこその行動であり、()()()()()が成せる技であると言えよう。


 生前の『勇者十三号』が最前線での無補給活動に際し、食糧を現地調達するために編み出した浅知恵であった。



 「あれ、あっち。き、いっぱい。とり、いっぱいいる。たべれる」

 「鳥か。鳥は良いな、存分に喰ろうてくれよう」


 「おっきい、いわ。いわの、した……へり、いる。たべれる」

 「へり…………あぁ、蛇、か。……蛇……喰ろうのか…………まことか……」


 「ん……んん……? じめん、いっぱい、した。まもの、とかげみたい、やつ。たべれる」

 「地中……蜥蜴トカゲ…………よもや地竜か? ……喰ろうのか!?」



 拠点を飛び出してからまずは北進し、その後拠点を中心として反時計回りにぐるりと足を運び、周囲の地形と生体分布を確認していく。生体だけではなく、目印となりうる地形や構造物があればそれも併せて記憶する。目印とは見たもののみに限らず、剣による探知魔法に引っ掛かったものも記録し同様に活用する。

 途中ではしっかりと仕事に臨むヴァルター達を認識の端に捉えながら、彼らの邪魔にならないように大人しく通過する。


 殺風景な山裾の荒野に、小さく愛らしい白黒二人の少女。場違いも甚だしい二人組は跋扈する猛獣魔獣を怖れるでもなく……のんびりと探索を続けていった。




 ………………………………




 「にとー、にとー、見える?」

 「む? 少し待て…………うむ。見えたぞ。危険かの」



 気の抜けた散策を続けること、早数刻。時刻は南中(正午)を幾らか回った頃だろうか。断続的に展開していた探知魔法に何かの反応を捉えたノートは、突如ニドに訴え掛けた。

 同意を求められたニドは、小さな指のす方向……肉眼では到底視認出来ぬであろう超遠距離を、感覚強化エクステンドを宿らせた目を凝らして確認する。なるほど白い少女の指摘通り、このままでは危険かもしれない。



 「わたし、きけん、わかる。……にとー」

 「呵々(かか)。そんな表情カオするでない、ワレも手伝おう」

 「んい! あいがと!」



 同行者の力強い後押しを受け、ノートは意気揚々と身構える。背丈同様小さな背に背負った直剣を抜き放ち、眠たそうな瞳をわずかに鋭く眇め……使い慣れた魔法条文、身体強化魔法を行使する。



 「りいんふぉーす(身体全強化)……いる(在れ)!」

 「我ガ身ヨ(発現指令)……疾レ(瞬間強化)



 その体勢と纏う魔力は、紛うことなき戦闘機動。鏑矢のように空気を裂き急加速した小さな影は、大小様々な石くれがひしめく荒れた地面などものともせずに駆け抜ける。

 二人の目指す先は、つい今しがた視認した……このままだと()()()()()()()()()のもと。


 上空より襲い掛かる魔獣に襲われ、防戦一方となっている狩人達……ライアを始めとする調査団とその護衛達のもとであった。




 ………………………………………



 古翼獣ペラゴルトス……翼開長は八mに届こうかという、超大型の飛翔型魔獣のうち一種である。


 真っ直ぐで長いくちばしには()()()のような牙を備え、捕えた獲物を丸呑みにしてしまう。獲物は水棲・陸棲の小動物や……ときとして、人種ヒトを捕食することさえ少なく無い。

 その巨大な翼で風を捉え、ときには自ら魔法で生み出した風に乗り、悠々と高空を滞空する。姿勢制御に風の魔法を用いることで、巨体に見合わぬ機敏な制動・高速機動をもこなして見せる。またその視力はずば抜けて高く……一説によると感覚強化エクステンドの類を用いているとも言われており、雲の漂う高高度からでも地上の獲物を探し出す。



 先を急ぐでも無く、地表の一定地点をうろうろする調査団一行を『衰弱した人種ヒトを抱える群れ』と判断したのだろう。

 動きの遅い非戦闘要員、荒事に向かない学者達を獲物と定め、巨体を機敏にひるがえして武器を握る六人を相手取る古翼獣ペラゴルトス。一方の護衛たる狩人達も、非戦闘要員の安全確保を徹底しながら不慣れな対空戦闘に臨んでいる。

 護衛の狩人達とて、それなりに場数を踏んだ手練れなのだろう。動きや連携の精度は悪くない。目まぐるしく移り変わる戦況をしっかりと見据え、自在に宙を舞う相手に後れを取ることなく渡り合っている。

 振るわれる長大な足爪を搔い潜り、接敵するその一瞬に反撃を試みる。護衛対象に危険が降り掛かろうとすれば、直近の護衛が的確に割って入り攻撃を引き受ける。

 しかしながら古翼獣ペラゴルトスに矢を射掛け、また槍を突き出し注意を逸らそうと試みるも、その身に纏う旋風によって武器の切っ先は逸らされ流され……なかなか有効打とはなっていない様子。


 勝利を収めるには、まだまだ時間が掛かりそうだった。





 そんな彼らの背後より忍び寄る、これまた別の襲撃者。図体も脅威度も古翼獣ペラゴルトスには遠く及ばないが、翼開長およそ三mとそれでもなかなかに大柄。

 正確な姿勢制御で地表すれすれを滑空するその姿には、古翼獣ペラゴルトスと交戦中の調査団の誰一人として気付いていない。


 体格は立派だが、風魔法の加護があるわけでもない。真っ当に相対すれば弓の斉射で容易く仕留められるであろう魔物……鎌爪鷲ヴァルチャー。鋭く尖った爪で陸棲動物に襲い掛かり、かぎ状のくちばしで肉を引き裂き、食い荒らす。獰猛かつ狡猾な魔鳥である。

 古翼獣ペラゴルトスの襲撃に浮足立つ調査団を好機と捉え、美味しいところを掻っ攫おうと画策したのだろう。漁夫の利を得るべく急接近する猛禽の瞳が、動きを止めた獲物――古翼獣ペラゴルトスに脅え腰を抜かしてへたり込んだ、ひときわ小柄な調査員――その襟足に狙いを定め……






 「んいにゃ」




 間の抜けた掛け声と共に突っ込んで来た真っ白な剣閃に、いとも容易く片翼を斬り飛ばされる。


 標的を見定め攻撃態勢に入っていた鎌爪鷲ヴァルチャーは、まさか自らの飛翔速度に追い縋る者が存在しようとは思わなかったらしい。猛禽の眼とて標的と見定めたモノの距離は正確に捕捉出来ようとも、全くの死角から常軌を逸した速度で近寄る人種ヒトの存在など……さすがに想定外だったのだろう。

 勢いそのまま、しかし揚力を失いバランスをも喪失した哀れな獲物は……自ら稼いだ速度のまま砂礫地帯に墜落。幸いなことに調査団を逸れ岩肌に頭から突っ込み、けたたましい音を響かせ即死した。




 「どぅわ!!?」

 「ひっ……!?」

 「何だ!?」


 突如鳴り響いた衝撃音に、思わず首をすくめる護衛の六名。咄嗟の反応とはいえ無防備を晒してしまった彼らであったが……しかしながら幸いなことに、予想外の事態に取り乱したのは古翼獣ペラゴルトスとて同様らしい。

 危機感を感じる衝撃音に硬直し、咄嗟に羽搏はばたき宙を打つ。複雑な制動を伴った攻撃機動は勢いを失い、急制動を掛けたことで(空中にではあるが)棒立ちを晒すこととなった。衝撃と混乱が抜け切っていないのか、周囲を取り巻いていた風の魔法も霧消しており……こうなってしまっては防御どころか機敏な姿勢制御は望むべくも無いだろう。



 「よッ……と」



 掛け声と共に黒髪の少女が地面を蹴り、軽々とその身を宙へ踊らせる。その大翼で大空を飛び回る古翼獣ペラゴルトスとて、静止しているのならばただのマトに過ぎない。

 巨大な魔鳥に恨みは無いが……小さく拙い主君の手柄とするべく、ニドはその命を()()に行く。



 「シッ!!」



 足場のない空中で器用に身を捻り、大人の背丈ほどはあるだろう巨大なクチバシを蹴り上げる。踏ん張りの効かぬ一撃とはいえ、強かに脳を揺さぶられては巨鳥とて只では済まない。

 一瞬とはいえ羽搏はばたきさえも止め、完全に硬直した巨大な魔獣。調査団の護衛とて手練れの集まりである。あからさまに生じたこの隙を逃そうとはせず、立ち直った壮年の射手が矢を射掛けるのを切っ掛けにすぐさま攻勢に出る。


 そんな様子を眼下に眺めながら……両腕と両脚を大きく振り回して体勢を整え、着衣をはためかせながらも危なげなく着地する。その一連の挙動を注視していた年若いほうの射手は目を見開き顔を赤らめ微かに前屈みとなっていたが……ニドはそれに気づきながらも気にしなかった。

 身に付けていたのは黒の薄手、しかも後ろ側に至ってはほぼ紐であった。是非もないだろう。



 大きな翼に立て続けに矢が突き立ち、矢傷の増える一方の翼は徐々にその動きを鈍らせていき……やがて揚力を稼げなくなった巨体は重力に負け、観念したように地に降り立つ。足爪とクチバシを振り回し、申し訳程度の風魔法でしぶとく応戦してみせる古翼獣ペラゴルトスだが……あとはもう、時間の問題だろう。



 「にとー。にとー。ぱんつ、くろ」

 「格好かっこ良かろ。御前ごぜん穿いてみるか?」

 「やあだあ…………おしり、みえる…………やあだあ」

 「……御前ごぜん羞恥心はじらいろうとはな」



 派手に墜落した鎌爪鷲ヴァルチャーの遺骸をちゃっかり回収し、余裕綽々と間の抜けた言葉を交わすノートとニド。脅威たる古翼獣ペラゴルトスを排除した護衛達の視線がそちらに向くのは、当然の帰結と言えるだろう。

 また少女の手に引き摺られた襲撃者の()()()()()――頭部と頚椎を著しく損壊し、また片翼を綺麗に斬り落とされた鎌爪鷲ヴァルチャー()()()()()――を目撃したことで、先程までの一連の事態に合点がいったらしい。



 何事か言いたげな護衛達の視線と、巨大な獲物(食材)を狙う少女達の視線が真正面からぶつかり……




 「さて御前。……アレも貰って帰るとするかの」

 「んい! ごはん、とり、おっき、にく! おしごと!」



 ニドは徐に半身を引いて体勢を整え、新鮮かつ巨大な獲物と立ち塞がる六つの人影を油断無く見据える。

 鳥類(に分類されるであろう生物)の膨大な肉を求め……少女達の戦い(交渉)が幕を開けた。







 ……と思ったらあっという間に幕を閉じた。



 肉どころか全部持ってって良いって。攻勢の切っ掛けになった一撃も誉めてもらったよ。

 調査団に同行していた総責任者ライア直々に()()()許可も貰ったし、拠点に運ぶ手伝いもしてくれるみたい。満面の笑みで『正当な報酬でシょう』だって。


 護衛の皆さんも不満は無いみたい。よかったね。

ご感想・ブックマーク・評価、どれも非常に励みになっています。

ここまで長々と拙作にお付き合いいただき、心よりお礼申し上げます。


至らぬところも多いですが、今後ともがんばっていきますので、どうか温かく見守ってください。

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