5年ぶりの再会
「あっ!!千鶴!こっちだよ〜」
電話越しに聞こえる声と同じ声が聞こえてそちらを向くと、高校時代に仲の良かった親友がいた。
「花梨ごめんね!私、遅かったかな?」
「大丈夫!まだ少ししか集まってないから」
花梨が向けた視線の先を追うように見ると、見覚えのある面々が数人集まっているのを見つける。
しばらくジッと見ていると、花梨がニヤニヤしながらこちらを見つめていることに気づいた。
「?何よ。」
「いやぁ?でも、いま須賀くん探してたよね〜?」
「なっ!?……別に探してない。」
「ふ〜ん?まぁ、いいけど!」
無意識のうちに探していたのかもしれない。
突然の花梨の言葉に動揺して、言葉が詰まってしまった。
私の反応を面白がっているけど、深くは追求してこない花梨の性格は面倒じゃなくて好きだ。
気にならないわけではないけど、もう過去のことだ。
高校時代から人気のあった彼のことだ。
私にも相手がいるように、向こうにも既に相手がいるだろう。
同級生達の所へと歩いていく花梨を追いながら、私は元彼である須賀 慧介のことを考えていた。
「それでは、皆さん久しぶりの再会を祝して……乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
同窓会は席について各自飲み物を頼むと、すぐに始まった。
クラスのムードメーカーだった佐野くんの音頭によって始まった同窓会は、懐かしい友人達との再会もあって最初からかなり盛り上がった。
私も花梨と一緒に友人との会話に花を咲かせていた。
「それにしてもさぁ…私、千鶴と須賀くんはそのまま結婚までいくと思ってたんだけどなぁ〜。」
「あー!それは私も思ってた!」
「私もー。二人ともお似合いだったもん。」
お酒が入っていい感じになってきたのか、友人の1人からそんな声が上がった。
それに同調するように周りの子達もそれぞれ反応を示し、気づけば話題は私と慧介とのことになっていた。
私はこの手の話は少し苦手だった。
この話題が出ると、必ずと言っていいほど聞かれることがあるから。
「ねぇ、何で別れちゃったの?」
私はこの質問が苦手だ。
何気ない一言で、その場の空気が重くなってしまった。
しかしそれも一瞬で、私は慣れたように説明をする。
「あぁ〜……まぁ、遠距離恋愛になっちゃうって理由かな。」
「そういえば、千鶴って高三の夏に転校したんだもんね〜」
「そーそー、すぐ戻って来たけどね。」
私は高三の夏頃に父の仕事の都合で、地元を離れている。
ただ、それも1年だけで卒業式を一緒に出ることは出来なかったものの、すぐ帰ってきたため涙ながらに見送ってくれた友人達には驚愕されたものだ。
私の返答に不自然な間があったものの、誰1人そんなことは気にしていなかった。……ただ1人を除いて。
花梨だけは、少し悲しそうな顔をして私を見ていた。
私はそれに気づいていたけど、あえて花梨の方を見なかった。
同窓会も中盤になって、盛り上がってきた頃。
慌ただしくドアが開いたかと思えば、入ってきた人物に私は目を丸くした。
「ごめん、遅くなった!!」
高くなった身長に、スーツを着こなす逞しい身体。
聞こえてきた声は高校生のときよりも幾分か低くなって落ち着いている。
一瞬、別人のように見えたけど、私の大好きだった暖かな笑顔だけは全く変わってなかった。
「慧介、遅いぞ〜!」
「え!須賀くんちょーカッコよくない!?」
「たしか務めてるとこ、大手の広告代理店らしいよ〜。」
来るとは思ってなかった…
突然の登場に驚いていると、ちらっとこちらを見た慧介と目が合った。
一瞬ドキッとするもすぐに視線は逸らされ、慧介は部活仲間だった人達に奥側に連れられていってしまった。
周りを見ると花梨を除いた、友人達の視線が私に注がれていることに気づく。
その目が一様にキラキラと輝いているのを見て、私は顔を引き攣らせた。
「なになに!?あのイケメンは!」
「高校生のときから顔整ってたけど、色気がプラスされてすごいことになってるね。」
「一瞬、千鶴のこと見てなかった!?」
慧介の登場によって、収束されたはずの話題がまた戻ってきてしまった。
実際、友人の言う通りカッコよくはなっていた。
私も一瞬、見惚れちゃったし……
「復縁とか考えなかったの?」
「それはないかな、私いま彼氏いるから。」
「「えぇ!?」」
聞いてない!と騒ぎ始める友人達がさっきと同じように目を輝かせているのを見て、これは全て吐くまで解放してもらえないな……と苦笑することしか出来なかった。
「「あっ……」」
お手洗いから戻る途中、ばったり慧介と出くわした。
お互いに少し気まずい雰囲気が流れる。
このまま通り過ぎてもいいけど、それだと意識してるみたいで何か嫌だ。
先に口を開いたのは、慧介の方だった。
「えーと……相沢さん、元気にしてた?」
慧介の『相沢さん』呼びに私は思わず「えっ……?」と声を漏らしてしまった。
怪訝そうな慧介の顔を見て、私は急速に頭が冷えていくのを感じた。
好かれているとは思ってなかった。でも、名前を呼ぶのも嫌になるほど嫌いになったのか。
「あ、あぁ、大丈夫だよ。須賀も元気そうで安心した。」
考えれば、もう元カノなのだから、別に他の人と同様に苗字で呼ぶのも普通かもしれない。
それなら、私もそうするべきだ。
それに、私がショックをうけるのもおかしい事だ。
離れたのは私からだったのだから。
「ごめん、花梨達が待ってるから戻るね。」
彼が何か言う前に早口で言い、その場を後にする。
去り際に、花梨の名前を出した時に反応を見せた須賀のことを思って胸が痛くなる。
私は上手く笑えていただろうか。
「千鶴〜……そのへんで止めときなって。」
「やだぁ〜わらひはまだだいじょーぶらもん……」
あの後、花梨達の下へと戻った私は、モヤモヤとした感情を晴らすため、片っ端から飲み始めた。
元々あまりお酒が強くないのもあり、ヤケ酒したことで酔いが回るのも早かった。
須賀が女子達に囲まれていたのを見たことも、飲むペースを増長させることとなった。
「はい、千鶴。水飲みな?」
「や!おしゃけがいい〜」
「「あっ!」」
頭がふわふわとしてきて、すっかり上機嫌となった私は花梨が渡してくれた水ではなく、近くのテーブルに置いてあったお酒を飲んだ。
その瞬間クラっとしたかと思えば、身体が倒れて目の前が真っ暗になった。
意識を失う直前に慌ててこっちに向かってくる姿が見えたけど、あれは誰だったんだろう。