唐突な死、異世界送り
色々と終わってる世界を救うかもしれない物語
マスメディアの発達、そしてSNSの台頭───現代社会で様々な問題が可視化されていく物はなんだ。
そう、醜悪なる人類の、悪辣で残虐非道な行いだ。
スマホ、タブレット、テレビ───薄っぺらい液晶越しに見せる人類の醜い一面が、俺の心を蝕んでいた。無論、それらの問題は有史以前に遡っても語りつくせない程多くの人間を傷つけてきたのだろう。しかし俺にとっての問題はその醜い一面を目にし、「不快」にさせてきた。
俺に正義感などない。神も仏も信じないし、知らない所で誰かが誰かをどれだけ酷く虐げていたとしてもどうでもいいし、世間一般的な倫理観も、クソくらえと思っている。ただ、それらが目に付くと「ムカつく」のだ。どうしようもなく、腹が立ってしまうのだ。
この世界のありとあらゆることに不平を抱いている。俺を拒絶したこの世界を恨んでいる。ある意味、「この世界は腐っている」と認識させてくれた現代社会の情報は、俺という存在を肯定してくれていたのかもしれない。
どうしようもなく恨み、憎しんでいるこの世界から肯定されるというのも、これまた心地が悪いもので、天地がひっくり返ってゲロから口を吐いてしまうような心持だった。そんな訳の分からない精神状態で俺は生きていた。───そして、今、ここに居る。
「初めまして、ジュンキさん」
「……ども」
何もない真っ暗な空間、どこにも光源が見当たらないにも関わらず、俺の視覚はあまりにも鋭敏に、目の前の女を捕えていた。大人の女性で、髪は膝ほどまで伸びている。ぷかぷかと宙を浮かぶように漂う姿は、あまりにも浮世離れしていて、現実味が無かった。
「あまり適当に返事しないでください。私はヴェリオッタ……あなた方人間が呼ぶところで言う、神様ですよ」
「まさか……あのブラジルを三度のワールドカップ優勝に導いた、あのレジェンドか!?」
「フ、フットボールの神様ではありません!! いいですか、よく見なさい……私は女神です!! そしてこの美しく白い肌は───」
ヴェリオッタは自身の美しさを誇らしく語る。しかし、俺は彼女の発言に少し違和感を持った。
「ヴェリオッタさん、確かにあなたの肌は綺麗だ……だが、まるでその言い方は黒い肌なら綺麗じゃない、と言ってるように聞こえるが」
「……? い、いえ……全くそういう意味で言った訳では……不快にさせたようでしたらごめんなさい……」
「いや、難癖付けたかっただけだ、別に怒ってはいない」
「……本題に入りましょうか」
彼女は呆れた様子で、或いは諦観を帯びた侮蔑の瞳で俺を見下ろして、話題を転換した。
「えー、まずジュンキくん。貴方は死にました」
「いいね、それは最高だ」
「えぇ、全くですね。ですから今、私はかなり後悔しています。これから貴方を生き返らせてしまうんですから……」
「いや、この数分で随分嫌われたもんだな……って、ん? チョットマテ、オレハ、シンデ……イキ、カエル?」
思わずカタコトになってしまう。夢の中の話だと思って適当に聞き流していたが、これはもしやラノベやアニメでよく見る異世界転生みたいなアレじゃなかろうか。死後の世界だとか神だとかは信じていないが、なんとなく面白そうな予感がしてきた。
「そうです。ようやく貴方は亡くなってしまったことを受け入れてくださったんですね……お辛いでしょうが、受け入れてください」
「いや、そういうの良いから。なんか生き返るらしいし絶対面白いだろ、異世界とか行けるんじゃないの?」
「さすがに切り替え速過ぎですし、異世界に行くことまで知ってるのは、きもっ……たまがすわっていますね!!」
今、キモいって言おうとしたよなと反論したくなったが、ここで女神様の機嫌を損ねると困るので、ここは無神論者を一旦やめて厚い信仰の視線を送ることにした。が、侮蔑の目で返された。関係修復のデッドラインはとうに通り過ぎていたらしい。
「まず、事情を聴いてもらってもいいですか?」
「結論だけで十分だ」
「実は私、貴方たちの世界を真似て、別の世界を創造したのですが───」
「聴く耳知らずだな」
俺は彼女の話が長々しいものになると懸念していたが、体感数時間ほど語られ続けたので、その懸念は残念ながら的中していたようだ。しかも簡潔に説明しようと思えばもっと簡潔にできたもので、まるで俺の書いた駄文のようだった。女神とシンパシーを感じるなんて、光栄だと言っておくべきかな。
曰く、この女神ヴェリオッタは本来ただの「観測者」に過ぎなかったが、ある日急に思い立って新世界を創造したらしい。それも、この世界のファンタジー物語の世界を基にして、だ。人がゲームをしたり小説を読んだりしてる時にこの上位存在は後ろから覗いてやがったらしい。嫌な人類種ストーカーだな。
しかし、その世界は全く上手く行かなかった。いや、むしろ上手く行きすぎてしまった。人類史を辿るように、貧困・戦争・差別・迫害など、様々な問題に直面し、今まさに崩壊の危機を迎えているようなのだが……それを今このタイミングに俺に説明する、というのは何か、嫌な予感がするのだが……。
「まさかだが……その世界に行けとでもいうのか?」
「そのまさかです。SNSやブログなどで貴方が書いた文章に感銘を受け、貴方を平和の遣い手と見込んでころ……この場に呼んだのですが、殺し損だったようです」
「おい、言い直したのに結局言ってるぞこの人殺し女神が」
なんと、このヴェリオッタとかいう女神……もといふざけたゴミムシは自分のケツは自分で拭かず、挙句の果てに人を殺めて転生させて事態を解決しようとしているらしい。俺は無神論者から神殺しへとジョブチェンジしたい気持ちを必死に抑えた。
「とにかく、ヴェリオッタは俺をその世界に飛ばして、何をどうさせるつもりなんだ? やっぱり特殊能力か何かをくれるのか?」
「向こうの世界の言語を自動翻訳するくらい、ですかね。あと、運だけは良くなるはずです。私の加護があるので───」
「幸運ロール連発はTRPGのゲームマスターに嫌われる要素の一つだぞ」
「ゲームではないので安心してください。好かれるか嫌われるかは貴方の資質次第ですよ、ジュンキ。私は既に貴方の事が大嫌いですが」
大嫌い、と来たか。無関心よりは余程彼女との距離は縮まっているだろう。ここは「俺には素質がある」という誉め言葉として受け取っておこう。しかし───
「ゲームではない、か……」
俺は現実社会が嫌いだ。人の醜い所を見るのが大嫌いだ。それを異世界に行ってまで体験するなんて、まっぴらごめんだ。
「ジュンキ、嫌ならこのまま死んで二度と生き返らなくて良いんですよ? というか早く死んでください」
だが、このゴミムシがムカつくので、俺は決断する。
「分かったよ、やるよ……やってやるよ」
「チッ」
「聞こえてるぞ、舌打ち」
「どういう心変わりですか?」
「心変わりも何も最初からノーとは言ってない……が、一つ教えてやろうか、俺は……この世の全ての、【俺を不快にさせるモノ】が大嫌いだ」
息を深く吸い込んで、続ける。
「貧困だの戦争だの差別だの迫害だの……それ自体が存在してることに俺は怒ってねえ……だが、それが俺の目に入ることが【不快】なんだッ……!! どうしようもない、覆しようのない腐った現実を、黙って受け入れる、その瞬間が……俺は大嫌いなんだ───ッ!!」
「きゅ、急に大きな声出さないでくださいっ!! びっくりするでしょ!!」
「うるせえ、黙れ!!」
「ひぃっ!?」
「俺はお前が、嫌いだ───お前だけじゃない、この世界の、全てを恨んでいる。だから……ぶち壊したいんだ、お前の作った、その狂った世界も……俺の目の前の物全てを覆して、書き換えてやる」
「……ジュンキ、貴方のことが少しだけ好きになりましたよ」
「今のどこに俺を好きになる要素が?」
「好きじゃないです。大嫌いが嫌いになったくらいで───まぁ、その話はもういいでしょう。貴方の決意表明も聞きましたし、貴方ならきっとこの世界を変えられることでしょう、ジュンキ……行ってらっしゃい♪」
そう言って女神は俺の頬にキスでもするのかと思ったが、普通に中指を立てて、【穴】に蹴落とした。やはり、ゴミムシだ。いや、ゴミムシに失礼かもしれないので訂正しよう。女神ヴェリオッタという固有名詞を全次元対象の辞書に「災厄」の意として刻み込もう。
さて、俺の蹴落とされた先───【穴】と表現したが、それは本当に穴としか形容しようがなかった。奈落の底に沈んでいくようで、ただ落下する感覚、引っ張られ、別世界に導かれる感覚だけがあった。そっと、意識が消えていく。
───そして、目を覚ます。
ワールドカップ楽しみですね。ペレは・・・意味のない時事ネタです
俺が、好きなので




