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屋上で壁ドン


「失礼しまーす」


 教室を出て向かった先は進路指導室。

 中に入ると奥の机に一人だけいた。あれが進路指導の先生か。


「すいません、進路のことで欲しい資料があるんですが……」

「んー、見かけない顔だね。君、まだ一年生だろ?」

「はい。でも、今すぐにほしい資料があるんです」


 部屋を突き進み、先生の目の前までやってくる。


「何の資料が欲しいんだい?」

「留学とか、ホームステイ系の資料全部下さい」

「留学?」


 先生に自分が留学したいことを伝えると、応援してくれると言ってくれた。

 ただし、やはり成績は良くないとだめらしい。

 しかも、留学するためには試験に合格しなければならない。


「はい、これで一通り。関係ありそうなもの全部入れたから、帰ったら読んでみて」

「はい、ありがとうございました!」


 渡された封筒は分厚く、かなりの量が入っている。

 過去の留学先の資料、先輩方のコメント、諸費用、スケジュール、ホームステイ関係に選考テストについて。

 これを父さんと母さんに見せて、なんとなく留学について意識してもらう作戦。

 絶対条件は、俺が良い成績でいる事。そして──


「よぅ。ちょっと顔かせよ」


 学校で問題を起こさないことである。



 槇原の後を追い、学校の屋上へ続く階段を上がる。一番上につき、槇原は扉を開けて外に出ていった。カギは開いていたけど勝手に入っていいのか?

 広がる視界、風の音が聞こえる。ここなら誰もいない、先生やほかの生徒の目にも入らない。

 やるのか? いいだろ、やってやるよ!


「なんだよ。俺に何か用があったんじゃないのか?」


 槇原はゆっくりと歩き始め、屋上のフェンスを背に、空を見上げはじめた。

 なんだ? そこからフェンスでもよじ登って地面に向かって紐なしバンジーでもするのか?


「なぁ、空ってなんでこんなに青く、そして広いんだと思う?」


 ……はい?


「すまん、全く聞こえなかった。今なんて言ったんだ?」

「聞いてなかったのかよ。空ってさ、何でこんなに広いんだろうって……」

「わるい。俺、帰るわ」


 やばい。何かがおかしい。危険、俺の直感がそういっている。


「待てー! まだ話が終わっていない」

「なんだよ。俺はこれ以上学校で問題起こしたくないんだよ」


 問題起こして留学対象からはずれたら、俺がこの学校にきた意味がなくなる。


「俺だってそうだ。初日からお前のせいで──」

「はぁ? もともとお前が俺たちをバカにして、麗華の事だって──」

「麗華ちゃん! 彼女は麗華ちゃんっていうんだな!」


 ……。


「昨日の事は水に流す。だから俺にかかわるな、じゃーなー」


 俺は奴に背中を向け、入ってきた扉に向かって走り始める。

 かかわってはいけない。あいつの目、絶対に変だ。

 昨日はオオカミのような目つきだったのに、さっきは借りてきた猫の目をしていた。


「あっ! 待てよっ!」


 もう少しで校舎に逃げられたのにあと一歩で肩をつかまれた。

 なんだ、こいつこんなに足速いのか?


 俺は両肩を持たれ、正面を向かされる。

 そして、背中を壁に押し付けられ、逃げられなくなった。


「逃げるな、話をさせろ」


 槇原の手が俺の顔の横にある。こいつ、俺を逃がさないために……。


「お前と話すことはない。もちろん、麗華の事も一切──」


 そう、お前と話すことは何もない!

 槇原の目は真剣な目つき、俺の目をまっすぐに見ている。


──キィィィィィ


「……ご、ごめん。唯人がそいつとそんな関係になっているなんて……」


 声の聞こえた方に視線を向けると、屋上の扉を半分開けた麗華がいた。

 そして、麗華と視線が交差する。

 麗華から見たら俺が槇原に壁ドンされているように見えるのかもしれない。


「え? は、これは──」

「本当にごめん! だ、誰にも言わないから!」


 麗華は俺の話も聞かず、赤くした顔を手で隠し校舎に走って行ってしまった。


「ま、待て! 槇原、この手をどけろ!」

「追いかけるのか?」

「当たり前だろ! お前だって誤解されたくないだろ!」

「っち、またお前のせいで勘違い──」

「俺じゃない! お前が余計なことを! ほら、行くぞ! お前からも麗華に説明しろよな!」

「俺から説明? 麗華ちゃんと話ができる……」


 あ、もういいや。


「もういい! 行くぞ!」


 槇原の腕を振り払い、校舎に逃げていった麗華を追いかける。

 チッ、麗華の奴どこに行った。


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