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幻影と取引

 あれから2週間が経った。

 警察機構本部直轄の抑留施設。ここに収監されているのはただの犯罪者ではなく。難民国家を目指す過激派のメンバーや、企業統治や難民を排斥し日本に行政権を戻せと言う政治犯もいる。

 その面会室で鋼埼と衛利は強化ガラス越しに向かい合っていた。


「今回の騒動で、特殊試験課は全責任を取って解体。私も装備開発課の一研究員に降格だ。シックスアイも正規職員から外部協力員に戻ってセントラルビルにはいられなくなった」

「はい」

「はいじゃねえよ……」


 うつむく衛利。まともに歩けないよう割れていない足、両手が連携出来ないよう先が袋状になった袖の拘束胴衣。様々な拘束具がこれでもかと衛利の体を制限していた。

 顔の血色も悪く。調整ナノマシンを打ってからかなり時間が経っている事が目に見えて分かった。

 その姿から目を逸らし鋼埼は手元にある電子版で処遇を淡々と述べた。


「イヌモはお前の弁護を一切せず管理保管権も放棄した。あくまで旧体制の創り出した(物)を再利用してたに過ぎず。ヘリへの攻撃は(独断の誤まった行動)であり、我々は今後一切(遺伝子強化体2番)には関与しない。以上だ」

「……」


 冷たく言い終えると、すぐに席から立ち上がり鋼埼は退席した。

 一人取り残された衛利に警備の汎用フレーム2体が両端から脇を抱え立たせると、引きずるように強引に引っ張り始めた。転ばないようにおぼつかない足でバランスを取り、特殊独房の入り口まで着くと乱暴に放り投げられる。

 そのまま転がって天井を見上げる。何度か分からない、攻撃ヘリを攻撃した瞬間を思い出す。


(……お兄ちゃんならどうしたのかな)


 ふとそう思ってから目を見開きかむりを振るった。


「違う。また私はあいつの事を」


 否定しなければいけない。こんなに弱気になっているのは、この状況で自分の心が衰弱しているせいだ。自分の考えた結論を頭の中で抱え掲げ続け、自然と眠りに落ちるまで続いた。


 ―――


「司徒お兄ちゃーん!」

「どうしたんだい。衛利」

「見て。あそこの木でお花が咲いてたんだよ」

「桜だね。今、1月だけど。一昔前は3月、4月のお花だったんだ」

「どうして?」

「ふふ、それはね……」


 ―――


「ごめんな衛利。お兄ちゃん少し遠いところでお仕事なんだ」

「誕生日には帰って来る?」

「それも分からない。でもなるべくお仕事早く済ませるから」

「……」

「そんな暗い顔をしないで。笑った衛利がお兄ちゃん好きなんだ。それに衛利も訓練頑張るんだぞ」

「……うん」


 ―――


「やぁ、衛利」

「兄さん? これはどういう事!」

「君は運が良い。君の班は全員始末させてもらった」

「なんでこんな事!人々の為に戦うのが強化検体の使命だって……」

「そんなことどうだっていいんだ。本当の価値の前ではあまりに虚しい」

「それを私に教えたのは兄さんだよ!?」


 ―――


 知恵の実、最高ランクアクセス


 検索:利府里司徒の提案によって行われた作戦


・タリレン絶滅作戦

 人工島難民居住区「タリレン」の強制閉鎖作戦。難民独立志向派の武器供給源である人工島を閉鎖する。人工島の規模と要塞化を考慮し、サリンによる毒ガス作戦が有効であると提案する。

 人工島は電力施設の破壊、本島から遮断されると全ての電源を失う。これによって本島と接続する橋の防護シャッターを閉鎖し、脱出経路を絶つ。

 その際発生した大量の死体についてはバイオ燃料発電に再利用出来る為、イヌモの輸送車両を全て動員し早期に処理し情報漏洩を阻止する。

 メディアには「日本回帰派」による電力破壊テロと電力喪失に伴って発生した大規模ガス漏れ事故と発表する。


 〇提案採用 


 結果:成功。独立派は巨大な武器供給源を失い。回帰派は世論から総攻撃受け支持を失いつつある。


・疎開船「守礼」撃沈作戦

 新たに受け入れる難民内に独立志向に共感した多数の軍人が潜伏している情報有り。船内でも勧誘行為が行われている。

 かつてない大規模である為一度受け入れると排除が困難と予測される。最も効果的な阻止方法は疎開船の撃沈であると提案する。

 イヌモ統治水域に侵入した際、小型船でルート上に機雷を設置する。船が沈没した後、生命ソナーを備えた小型船を救命任務の名目で出港。生存者を掃討する。


 〇提案採用


 結果:成功。守礼号は突然の爆発事故を起こし生存者0と発表される。これに難民の一部から攻撃で沈没したと抗議。声を上げている人物を軍人を手引きした容疑で調査する。


・大規模自警団メンバー抹殺作戦


 ……


 ―――


 私の生まれた時から変わらぬ姿をした一人の男。今考えると彼は人の形をした異形であった。妹である私の前で人間らしく振る舞い。嫌な大人達から庇ってくれる揺り籠だった。彼の教えたことが今でもどんな人間の言葉より重い……。

 だが、彼は私を裏切った。信念を教え自分からそれを放棄した。


 ―――


「私は奴のようにはならない」

「誰のことだ?」


 衛利が驚いて目を開ける。独房の前には柿種が立っていた。


「お偉方はお前をこのまま放置して、調整ナノマシン切れで臓器不全を起こして、発狂して死んでくれるようにご希望だよ」

「……」


 独房のロックを開き柿種が入ると衛利の顔を覗き込んだ。顔を背けると左手で顎を持ち上げ無理やり顔を合わさせる。苦しさを抑えるように息をする衛利。


「聞きたい事がある」

「……何を?」


 ギラついた柿種の目に釘付けになる。柿種は顎から手を放し首に沿えると、右手に持った注射を衛利の首筋に押し付けて注入する。


「あぐっ」


 1分後、衛利を悩ましていた苦しさが消えていく。その様子を見た柿種が調整ナノマシンの容器をしまうと衛利に問いかけた。


「利府里司徒。知っている限り教えろ。そしたら俺も見返りを考えなくはない」

「見返り?」

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