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「大丈夫か? 全員無事か?」その時、階段から制服姿の救助隊員たちが姿を見せた。
やった。これで良平達もここから出られるわ。御子もようやく期待を持つ事が出来た。
「良平! お待ちかねの救助隊よ。もうすぐそこから出られるわ!」思わず声も弾む。
隊員たちに、今崩れた部分の隙間から、ほとんどの人間が出てきて、男性が二人、中に残っている事を説明する。
「この壁はもう、危険だな。反対側の丈夫な壁を、ドリルで開けて救出します。少し時間はかかるが、その方が安全だ。皆さんは先に外に向かって下さい」そういいつつ、隊員は道具の準備を始めた。
「あの、子供と女性が先に外に向かったんですが」由美が隊員の一人に尋ねた。
「それなら大丈夫。全員無事に外に出ましたよ。無線で確認が取れてます。外に出れば、すぐ、お子さんたちに会えます。もうひと踏ん張りです。頑張って下さい」
そういいながら隊員がほほ笑むと、親たちの表情が一気に明るくなる。
「ああ、ほら、ここに映像が出ています。みんな無事でしょう?」
隊員の指し示した小型のモニターに、子供たちの姿が映し出された。皆、食い入るように見つめる。
「智が真見を抱いてるわ。無事でよかった」香もモニターを見て言う。
「彼が子供たちを先導して出て来たんです。怪我をさせないようにかなり気を配ってくれたらしい。おかげで子供たちにはかすり傷一つないそうです」
「まあ。それは良かった。香さん、この方、御存じなの?」由美が香に問いかけた。
「あ、えーと、その。まあ」
もともとハルオを狙っていて、ここに来るまでに脅しをかけられた相手だとは、この状況ではいいにくい。香は適当に相槌を打った。
「香さんのお知り合いは、心の優しい方が多いわねえ」
由美の言葉に返事のしようもなく、香は笑ってごまかすしかなかった。
「良平、大口叩いたんだから、絶対無事に帰って来てよ。でなけりゃ、お義父さんがなんと言おうと、ウチの敷居をまたがせないからね!」御子が瓦礫の向こうに向かって叫んだ。
「そっちこそ、全員無事に戻ってなかったら、承知しないからな。ハルオ、御子を頼んだぞ!」
良平も言い返してきた。
「ハルオに頼まれるほど、私、落ちぶれてないわよ。ねえ? ハルオ」
そう言って御子はハルオの頭をポンポンと叩く。
御子にかかっちゃ、俺、いまだにガキ扱いなんだもんなー。
香の前で思いっきり子供扱いされたハルオはふくれっ面をした。香はくすくすと笑いながら、皆を先導して階段を下りる。全員がその後をついて行った。
「いい、奥さんですね」激しいドリルの音を背に聞きながら、男性店員が良平に言った。
「まあ。ちょっと元気が良すぎますけどね」
良平は照れながら言う。さっきまで、周りに人がいる事をすっかり忘れていた。まるで夫婦漫才を披露したような物だ。
「でも、奥さんには申し訳ないな。足の不自由な旦那さんを、ここに残す事になってしまって」
「不自由なんてしていませんよ。足の事は本当に気にしなくていいんです」
その時ドリルの振動のせいか、店員の頭上から天井の一部が剥がれ落ちて来た。とっさの事で店員は動けない。良平はあの可動式の特殊な義足でサッと駆けつけ、店員の身体をグイッと引っ張った。
落ちた天井板は二人の横で粉々に砕け散り、店員は唖然としていた。
「ほら。これで不自由しているなんて、言える訳ないじゃないですか」そう言って良平は笑って見せた。