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こてつ物語10  作者: 貫雪
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 その保管室には屋上で使われている、ありとあらゆる遊具が保管されていた。小型の汽車、特殊なブランコの座席部分、そして、電動で動く、動物型のカート。

 カートは屋上の専用広場に、数台が置かれ、爆発の直前まで使用されていたようだった。だが、ここにも三台のカートが保管されていた。予備か、メンテナンスのためにしまわれていたのだろう。


 カートの一台は新幹線の形を模してあった。もう一台はデフォルメされたトラのデザイン。そして、熊の親子が並んだ形のカートがあった。

 親子熊のカートは二人乗り用で、大きめの熊の背中に座面があり、またいで乗る事のできる仕様になっている。その横に小さめの童顔の熊型のサイドカーが、寄り添うように取り付けられている。確かにこれは、小熊型のカートと言って間違いがない。

 小熊のサイドカーの方はまたぐのではなく、背中の部分がくりぬかれたような形で、その中に座席があり、子供などがすっぽりとおさまって入るようなデザインになっていた。御子は小熊型のカートだと手紙に書いてきたのだから、このサイドカーの中の座席シートの下に、爆発物が隠されているはずだ。


 誰もがそのカートに視線を向け、一斉に駆け寄ろうとしていた。その時、


 ドン!


 ハルオが背中から急に突き飛ばされた。意識がすっかりカートに向かっていたので、後ろに人がいる事に気がつかなかったのだ。皆があっけに取られるうちに、小熊のサイドカーに若い男がすがりつくように飛び付いた。

 こてつが香の足の下にまとわりつく。そこから伝わる振動から、こてつが震えているのが分かった。



 これが犯人……。何だか驚くほど弱々しい男だった。デパートを爆破しようなんて大それたことをするような人間には、一見見えない。痩せて小柄な身体は、まるで中学生のようだ。

 爆発の恐怖を味わう内に、いつの間にか犯人のイメージが、もっと、憎々しい、恐ろしげな人間のように思いこんでしまっていた。


 しかし、その男が顔を上げると、こてつの脅えが良く分かった。

 弱々しい体つきに似合わない、ぎょっとするほど薄気味の悪い表情が、その顔に浮かんでいた。

 ただ気味が悪いだけではない。その顔は妙に年老いて見えて、若さが感じられない。それなのに眼だけが、何かのエネルギーで燃えているかのように、奇妙にギラギラと輝いている。

 身体、顔、表情、脅えたようなしぐさ。それぞれが皆ちぐはぐで、ギャップが大きい。その奇妙さが異様な雰囲気を作り出している。気味が悪くて近寄りがたいのだ。


 そして男は薄く笑った。いや、笑ったと言うより、不自然に口角をあげて見せたと言う方がただしいのかもしれない。それほどこの男に笑顔は似合わなかった。その場にいた全員が、ぞっとする。

 座席のシートをめくって、中からプラスチックの箱の様なものを取り出す。蓋の部分はビニールテープでぐるぐると巻いてあった。


「よく、コレのありかに気付いたな。大したもんだ。褒めてやるよ」


 良く通る、やや、張りのある声。ベテランのアナウンサーみたいだ。だが、何故かその声に安定感がない。中音の、聞き取りやすい声にもかかわらず、耳に入ると雑音のようにわずらわしい。

 それは声に、何だか落ち着きがないからだった。そわそわとした、早口言葉でも聞いているようで、気が落ち着かなくなる。


「変な連中がうろついているとは思ったが、甘く見ていたな。とっくに始末がついていたと思ったのに」

 そう言って男は箱を小脇に抱えようと、持ちかえようとした。


 その一瞬にハルオは動いた。猛然と男に飛びかかって行く。男は突き飛ばされ、箱から手が離れる。

 香はその箱を素早く犯人から奪い去った。引きちぎるようにテープをはがし、蓋を開ける。

 中にはいくつかの紙袋が入っていた。おそらくこの中には火薬が詰まっている。





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