14
この感じでは、瓦礫の向こうがフロアの三分の一ほどを占めていたはず。爆発の瞬間、そこは夜空しか見えなかった。あのあたりにいた人はどうなったのかは……。今は考えない事にしておこう。
「大丈夫、今に救助が来ます。何かあったらおっしゃってください。隣の喫茶コーナーのポットにお湯もありますし、おむつやおしりふきもあります。少しの辛抱です。落ち着いて待ちましょう」
そう言って店員は次の親子の元に、毛布を配りに行った。
その救助の手が、罠にかけられているとはとても言えない。こんな時にパニックも起こすことなく、皆冷静でいられるのは、こういう気遣いをしてくれる人達がいるからだろう。
この人達のためにも、何としてでも犯人の爆破を止めなければ。
「良平、私、犯人の思念をもっと探ってみる」御子が言った。
「そんな事が出来るのか?」
「分からない。その場にいない、全く知らない人の思念を追ってみた事なんてないから。でも、これほど強い思念はめったにあるものじゃないわ。それに、真見や奥様もいるせいか、力が共鳴していつも以上に感覚が鋭くなっている気がするの。きっと相手の考えを読めると思う。そうすれば爆発物のある場所や、犯人の考えが分かるかもしれない。やれるだけ、やってみる。奥様、私のそばで、自分が感じた気持ちを私に伝えるつもりになって頂けますか? 思ったまんまでいいですから」
「え? ええ。それで何かのお役に立つなら」
由美は訳が分からないなりにも、御子のする事に今、自分達は賭けるしかないのだと感じ取ったようだ。御子は奥様が感覚的な人で助かった、と思う。
「ありがとうございます」
「御子、俺は何をすればいい?」と、良平が聞いたが
「そばにいてほしい。それで十分」そう、御子は笑った。
香が爆発のあったデパートの前に着いた時には、すでにハルオと真柴組長、それに会長と礼似、一樹に大谷の姿もあった。
「私も会長に話を聞いたところなの。中に御子と真見と良平。それに会長の奥様まで閉じ込められたらしいわ」礼似が香に説明した。
「奥様まで……。一体何があったんです? 事故?」
「違うみたい。実は……」礼似は会長から聞いた、御子との電話のやり取りを香に話す。
「それじゃ、救助に人が入ったら、かえってみんな危ないじゃないですか! 警察や消防の動きを、どうやって止められるんですか?」香は礼似に喰ってかかったが、
「それはとりあえず大丈夫だ」と、会長が言う。
「会長が抑えられたんですか? どうやって消防まで……」
いくら警察にコネのある会長でも、消防の救助まで抑え込めるものなのだろうか?
しかしそれには一樹が返事をする。
「そんなのちょっと知恵を回せばいい事さ。さっき俺が警察に公衆電話で犯行声明した。デパートの中にはまだ爆弾が仕掛けてある。救助の気配があれば、すぐ、次の爆破をする。おとなしく次の指示を待て。そう言ってやった」
無茶な事するなー。そうは思うが、確かにそれしか手は無いかも。
「その電話には真実味があるような事を、私も警察へのコネを使って流してある。これでしばらくはもつだろう」会長もそう、請け負った。
「今は御子からの連絡を待っているの。どうやら犯人の心が読めているらしいのよ。きっと何か言って来るわ。そうしたら私達の手で爆弾を何とかしないと。警察じゃ、御子の力は信じてもらえないだろうしね」
礼似は歯がみをしながらそう言った。