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剥製屋事件簿<山わらわ>  作者: 仙堂ルリコ


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8/8

吉野へ

ここ数日、

雪が降り止まない。


山田動物霊園は除雪が間に合わず臨時休業。

犬2匹は山を自由に走り回っている。


聖は、作業室にこもりきり。


長井サトシが焼死したと聞いた日から、

外に出ていない。

かれこれ2週間。


薫は何も言ってこない。

楠本酒店を捜査して、何がどうなったか、知らせてこない。

ニュースの続報も無い。


長井サトシの死は

自殺なのか事件なのか、報道されていない。


「セイ、捜査は難航しているのね。……新たな目撃証言は無いのかしら」

 マユも事件の経過を気にしている。


「長井サトシの車が、怪しい動きをしていたと分かればいいのに。参考人として捜査対象になるだろ?」

「そうね。酒屋ですれ違っただけの人では、調べられないわね」

「……本人は死んじゃったしね」


「事情を知れば、とっても気の毒な人ね。子供が溺れて……おそらく亡くなってるんでしょうけど。遺体が見つかってないなんて、辛いわね」

「助けられなかったって、キツいよな。心を病んでいたらしい……自殺の動機はあったんだ」

「吉野の川、だったね……。それで吉野で自殺したのかな」


「俺、やっぱ、この人が何で、あの女の人を殺したのか、わかんない」

「……そうよね」

「犯人は別にいるんじゃない?……トイレのワークブーツの靴跡は、後から付いたのかも。誰かが裏口から入り、トイレを使ったんだよ。バーチャン、気付かないだろ?」

「その可能性も、捜査中だと思うわ」

「そうだよね。今日にでも、薫が知らせてくれるかも知れないね。待つしか無いんだ」


事件の続報は無いが

<遺体発見場所巡り>はSNSで話題になっていた。

ミイラ取りがミイラになった、とか。

殺されたのは祟りだとか。


「怨霊に殺された、って書いてるわね。犯人が見付かっていないから、そうなっちゃうのかしら」

「そういえば今回は野次馬が少ないか。ビビってるのかな」

「……良いことね」

 マユは遠くへ視線を逸らした。


 作業室にひきこもって働いたので

予定より早く<黒イノシシ>は完成した。


「サイコーにカッコイイじゃん」

出来映えに自画自賛。

漆黒の毛に、艶が出る細工を施したのは正解だった。


数枚写真を撮り、梱包を始めた時、

薫から電話がかかってきた。


「セイ、今何してた?」

「黒いイノシシ、今日喰刀庵に届けるんだ」

 出かける用意をしていると

 ありのままを話す。

 すると

「それは丁度ええ。俺も一緒に行きたい。連れて行って」

 と言った。

 何で? 

暇なのか?

「今から直ぐ出る。G駅に着いたら電話するからな、迎えに来てや」

 それだけ言って電話は切れた。


 午前10時、G駅で薫を車に乗せる。


「剝製は梱包したまま調理場に届けるんだ。だから見れないよ」

 薫に真っ先に言う。

「分かった。調理場に行くんやな」

 剝製が見たくて、付いて来たのでは無いらしい。


「晴れたな。雪が光って綺麗やなあ。セイも食べるか?」

 鞄からポテトチップスの袋を取りだした。

 もしかして、ただドライブしたかっただけ?

 

「カオル、捜査に進展はあったの?」

 ……聞いてみた。

「詳しくは知らん。俺の縄張りちゃうしな。しやけど谷本さんは、頭抱えてるで」


「車ごと焼け死んじゃったしね」

「そうや。……吉野でな」


 あ……もしかして現場を見に行くつもり?

 吉野は広い。

 広いから焼死現場と喰刀庵を関連付けてはいなかった。


「喰刀庵の近くなの?」

「遠くは無い。北東15キロ。T川の河原やで」

「吉野川の支流だね……北西って、もしかして通り道?」

「うん。そんでな、通報者が喰刀庵の板長やねん」

「え?……す、凄い偶然じゃん」

 板長と聞き、大柄の板前が頭に浮かんだ。

 きっと、あの人だと。


「凄くもないで。あこらへん、喰刀庵しかないやん」

 農道を通るのは喰刀庵のスタッフか客以外に無さそう。


「長井夫婦を、前にも見たかも知れんやろ」

 焼死現場は、以前に訪れた場所かも知れない。

 話している間に県道から農道へ。

 

「カオル、この辺りじゃ無いの?」

 ナビを見れば少し先に河原へ降りる道がある。

「降りる?」

「いや、行かんでええ。こんだけ雪積もってたら、どこが道かわからんし、車はもう無いしな。……なあ、四駆やないのに、よお降りて行ったと思わんか?」

「まだ雪が積もってなかったんじゃ無いの?」

 

「いいや。積雪5㎝で、凍結やで」

「……妙だね」

「長井は11月13日に家を出たまま行方不明。ほんで12月11日に焼身自殺。一ヶ月近く、どこで何してたんやろか」

 現在、参考人でも関係者でも無いので、自殺前の行動を調べる理由は無い。

 もしこの山にいたのならば

 喰刀庵の誰かが遭遇した可能性はある。

「白豹の姉ちゃんを殺したのは長井やと、思う」

 薫はキッパリ言って

「しやけど動機はわからん」

 と、呟いた。   

 

 10時50分。

 喰刀庵に到着。

 正面駐車場に車は無い。 


 前回同様、裏口から訪問。

 駐車場には店の車しか無い。

 荷台に犬が載っている軽トラは、今日は無かった。

 

 ……レオと、モモタロウ、だっけ。

 ……なんだ、今日は居ないのか。

 

 聖はがっかりしている自分に驚く。

 また、会えると、勝手に思っていたのだ。

 

 ……調理場に入る。

 前に見た人たちが、それぞれ作業している。

 板長に薫を紹介する。

 (友人で警察官だと)


「ここのお方が、車が燃えてると通報してくれはったと聞いてます。実は焼け死んだ男、別件で、調べてますねん」

 薫は調理場中に響く声で言った。


「やっぱり、あの男、泥棒やったんや」

「悪い奴やってんな」

 割烹着を着たオバサン2人が

 顔を見合わせて言った。


「今、泥棒って、言いはりました?」

 薫はオバサン達に近づく。


「ちょっと前にな、駐車場ウロウロしてる男がおりましてん」

 答えたのは板長だ。

「1回やおまへん。朝に晩に、コソコソ車の影に隠れてた、な、」

 若い板前が、隣で頷いた。

 

 長井サトシが喰刀庵の駐車場に?

 何で?

 聖は何かの間違いだと思う。

 別の男だろうと。


「それが、焼け死んだ男でっか?」

「わかりまへん。顔見てまへんから。ほんでもな、あれから、ぷっつり姿見てません」

 板長は、通報したのは自分だと言う。 


「あれから、とは、焼け死んでから、でんな?」

「そうです。間違いおまへん。あの日、表出てタバコ吸うてたら煙が見えましてん。ヤマさんの、炭焼き小屋から離れとるし、黒い煙やったからな、レオに電話して聞きましてん、ほんでな、」

「ヤマさんに、レオさん? ……それはどなた?」

 薫は話を遮って聞く。


「ヤマさんいうのはね、馴染みの猟師です。レオはヤマさんの孫です」

「近くに住んではるんでっか? ……どこでっか?」

 薫は、携帯電話のマップを見せて聞く。


「ここに川がありますやろ。もっと上流……ここ。河原に近い丘です。炭焼き小屋と家がおます」


「セイ、車で30分やて」

 へ?

 行く気?

 聖は嫌じゃ無い。

 レオとモモタロウに会えるかも知れない、から。


「おたくら、今からレオのとこ、行きはんのか?」

 調理場の奧から、さっきのオバサンが声を掛ける。


「そうです。今から行きますねん」

 薫が答える。


「ちょっとだけ、待って。レオに届けて欲しいモンがありますねん。……すぐやから」

 唐揚げが一杯入ったフードケースを持って来た。


「レオはな、今日来る筈やったのにな、犬が調子悪いから行かれへんと、ラインありましてん。ほんま、オタクらが来てくれて良かった。丁度良かった」

 板長が状況説明。

 最後に

「刑事はん、熊と間違われてヤマさんに撃たれんように気を付けなはれや」

 薫の茶色いモコモコしたフードコートを触って言った。




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