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第38話 黒歴史開帳

その日は突然だった。


結衣が部屋の掃除をしていたところ、兄・春の昔の荷物が詰まった段ボール箱を発見した。


「なになに……“春・思い出BOX”?」


ぱかっ。


中には古びたノートが数冊、そして……やけにキラキラした表紙の1冊が。


結衣「……これはっ」


表紙には金色の文字で書かれていた。


『しんのきもち(小4)』


 


結衣「……神回、確定♡」


 


その夜。


夕食の後、春がくつろいでいるところに結衣が近づいてくる。


「ねぇ、兄さん。これ、何か知ってる?」


差し出されたのは、件のポエム帳。


春「……あ」


血の気が引く音が聞こえた気がした。


春「そ、それは……違うんだ……! これはその、国語の宿題というか、その……!!」


結衣「“この気持ち、まるで桜吹雪のように舞って、僕の心にグサァァァって刺さる”」

結衣「“ああ、運命とは……砂時計みたいな、そういうやつ……”」


春「やめろおおおおおおお!!読むなああああああ!!!」


 


翌日――。


結衣はそのノートを持って登校していた。

春は必死で止めようとする。


春「やめろ!それだけはやめろ!!頼む、妹よ、慈悲を!!」


結衣「ふふふ……“兄さんの真の魅力”を、みんなに伝える絶好の機会じゃない?」


春「真の魅力じゃねぇぇぇぇ!!悪夢だろこれ!!」


 


その日、如月学園では文化週間の一環として、“学生発表フリーステージ”が開催される予定だった。


結衣は、そこにエントリーしていた。


司会「では次の発表者、1年A組・城ヶ崎結衣さんによる――」


『兄さんポエム朗読劇・第1章「咲け、俺のこころ花」』


春「タイトルからもう無理ぃぃぃぃぃ!!!!」


 


生徒たちはザワつき、司会は目を見開き、そして春は席で崩れ落ちる。


結衣「それでは、兄さんの名作の数々、心を込めて朗読させていただきます♡」


 


――運命の朗読会、開幕。


「それでは一作目……『ひとりじゃないよ、俺の影』」


舞台の上、朗々と読み上げる結衣の声。

マイクは必要以上に高性能で、体育館の隅々までその声が反響する。


 


結衣「“影がついてくる ずっとついてくる

だけどぼくは 時々 影に逃げたくなる

影よ おまえが本体になってくれ”」


 


観客、生徒、教員、全員――静寂。


そして次の瞬間、爆笑の渦。


「詩的すぎィィィィ!!」

「兄さん!中二病が過ぎるよ!」

「え?これ小学生の頃なの!? 完成度高すぎない!?」


 


ステージ下――春、机に突っ伏して崩壊中。


「……もう、無理……転校したい……というか地球卒業したい……」


 


結衣「続きまして、『あの日の空は、俺を見てた』」


結衣「“青空は やさしかった

だけど 雲が流れてくると

俺の心も 流されていったんだ……”」


 


春「比喩の嵐ぃぃぃぃぃ!!!!」


 


結衣「最後にお届けするのは、こちら――

兄さんの真骨頂ともいえる、詩集最終ページ。」


結衣「タイトルは……『すべての命に、ありがとう』」


 


その瞬間、体育館が静まる。


 結衣「“朝ごはんのたまご焼き

 ランドセルの中の忘れ物

 校庭に咲いたタンポポの花

 そして――

 『ありがとう、妹』”」


 


会場「……」


春「えっ……」


結衣「……このページだけ、兄さんの字がすごく丁寧だったから、よく覚えてるの」


春「……そ、そんなの……もう記憶にないし……」


結衣「でも、私にはちゃんと届いてたよ。ずっと、うれしかったんだよ、兄さん」


 


……しーん……


そして、会場のどこからともなく拍手が始まった。


パチ……パチパチパチパチ――!!


「なんか……泣けた……」

「兄妹って、いいな……」

「ポエム、すごい……ちゃんと、気持ちがある……」


 


結衣「ということで、私から兄さんへの返詩も、近日中に発表します♡」


春「やめろおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 


こうして、如月学園史上初――


“黒歴史が芸術へと昇華した日”

として記録されたという。

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