表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/50

第32話 島でも妹は最強でした

期末テスト最終日。

帰宅した城ヶ崎春は、制服のままリビングのソファにバフッと倒れ込んだ。


 


「終わった……すべてが……」


 


全教科を全力で乗り越えた春の脳は、もはや空っぽ。

黒板の文字も、先生の声も、鉛筆の感触すら記憶にない。


 


「もう……明日から1週間、絶対なにもしない。人間やめる……」


 


そのとき――。


 


「兄さん♡」


 


涼しげな声とともに、ふわりと良い香りが鼻をくすぐる。

いつの間にかソファの背後から登場したのは、妹・城ヶ崎結衣。


パステルカラーのワンピースに、キラキラのサングラス。

見るからにバカンス仕様である。


 


「お疲れ様。よくがんばったね、兄さん♡」


 


「はあ……まあな……」


 


「そんな兄さんのために――はいっ、テスト終了ごほうび!」


 


彼女が差し出したのは……1枚の分厚い書類。


 


「……何これ?」


 


「所有権移転契約書だよ♡ 今日から、この無人島は私たちのもの!」


 


「はああああああああ!?!?」


 



 


次の日。

春は気づけばヘリの中だった。


 


「説明しろ!もっと事前に段階を踏んで説明しろ!!」


 


「だって、“兄さんに静かに羽を伸ばしてほしい”って思ったら、リゾート地じゃ不十分かなって。

だったら、いっそ――島、買っちゃえばいいって♡」


 


「その思考の暴走が怖いんだよ!毎回フットワークが商社!!」


 


「ふふっ、ちゃんと安全確保も万全だよ♡」


 


座席の向かいには、いつもの顔ぶれ――

お手伝いさん・橘花 凛と、生徒会長・霧島 梓がなぜかフル装備で座っていた。


 


凛「島に着いたらまず物資の確認と、緊急時の脱出手段の確保を行います。あ、カヌーは4艇用意しました」


 


梓「無人島でサバイバルとか……ほんとにバカらしい……(でも少し楽しみ)」


 


春「いや、お前らなんで普通に乗ってんの!?」


 



 


到着した島は――まるで絵に描いたような美しさだった。


白い砂浜、透明な海、ヤシの木、そして……妙に完成度の高いログハウス。


 


春「え、もう建物ある……?」


 


結衣「うん♡ プレハブじゃ味気ないから、別荘業者に頼んで昨日のうちに建ててもらったよ♪」


 


春「昨日っていつの昨日!?」


 


凛「ちなみにソーラーパネル完備で電気も自給可能です」


 


梓「非常食も完備してるし……実質、陸地と変わらないわね……」


 


春「俺の癒しの無人島プランは!? 大自然の中でスローライフってやつは!?」


 


結衣「安心して兄さん♡ 夕方からは“妹と楽しむ島での1日デートコース(全4時間)”を予定してるから♡」


 


春「俺の自由時間はどこ!?」


 



 


島探索開始から30分。

春は日陰のハンモックでようやく寝転がることに成功していた。


 


「ふぅ……ようやく静かに……」


 


そこに――


バッシャアアア!


 


海から豪快に水しぶきを上げて現れる結衣(シュノーケル装備)。


 


「兄さん!シュノーケルしよっ!」


 


「今から寝ようとしてたんだが!?」


 


結衣「じゃあ!浜辺で貝拾い競争!」


 


春「それも元気出す系だろ!?」


 


結衣「じゃあ!夜は花火で“兄さんシルエット文字”作ろうね♡」


 


春「お願いだから30分だけ放っておいてぇぇぇぇ!!」

夕方。

海に沈む夕日が、島全体をオレンジ色に染め上げていた。


 


春は波打ち際のハンモックに身を預けていた。


「……ようやく、ちょっとだけ静かになったな……」


 


目を閉じると、潮風と鳥のさえずり。

非日常のはずなのに、どこか懐かしいような、穏やかな空気。


 


……と思ったのも束の間。


「兄さーん♡」


 


パラソルの影から飛び出してきたのは、もちろん結衣。

水色のパーカーを羽織った上からでも分かる、濡れた髪と濃縮された元気。


 


「次はね、兄さんと2人きりの夕日クルーズだよ♡」


 


「もうちょっと寝かせてぇぇぇ……!!」


 


 



 


島での生活2日目。

相変わらず春は振り回されていた。


 


【午前】結衣とビーチバレー(凛のサーブが強すぎて春だけ地獄)

【昼】梓による“砂の要塞講座”(なぜか理論から入る)

【午後】凛の主導で“結衣様のためのアイスかき氷対決”(なお氷はヘリ空輸)


 


そして――夕暮れ時。


 


「……はあ……今度こそ、静かな時間を……」


 


そうつぶやいた瞬間、後ろから誰かがそっとタオルを肩にかけてくれた。


 


「……兄さん、疲れた?」


 


結衣だった。

濡れた髪をまとめて、ラフなシャツに短パン姿。

普段の完璧系ではなく、どこか“妹らしい”姿だった。


 


「まあな。なんだかんだで、楽しかったけどな」


 


「ほんとに……?」


 


「……楽しかったよ。やっぱ、すげーな、結衣って」


 


「えへへ……兄さんがそう言ってくれると、報われるなぁ」


 


静かに並んで座り、夕日を見つめる二人。


 


春は、ふと思い出したように尋ねた。


 


「なあ、結衣。なんでこんな大掛かりなこと……島まで買ってさ。勉強終わった後の“ただの休み”に、そこまでやる意味あったか?」


 


「あるよ」


 


即答だった。


 


「だって、兄さんががんばったから。がんばった人には、世界でいちばんのごほうびが必要でしょ?」


 


「世界一って、島かよ……」


 


「うん♡ あとね……この島、実はもう1個あるの」


 


「は?」


 


結衣は立ち上がると、少し歩いて砂浜に手を差し伸べた。


 


そこには、木で作られた小さな鳥居と社殿が立っていた。


 


「“兄さん神社”だよ♡」


 


「おいやめろおおおおおおお!!!!」


 


「兄さんの健康と成績と人生の幸福を祈願する、妹による、妹のための、兄推し神社♡」


 


「やっぱり妹、こええぇぇぇぇぇ!!」


 



 


その夜。


焚き火の周りで全員が輪になって座り、ゆったりと語り合う。


 


凛「春様は意外と泳ぎが得意でしたね。あ、でも後半バテてました」


 


梓「なぜか私が海の家の売り子やらされたんだけど。焼きそば何人前作ったと思ってんのよ……(くすっ)」


 


結衣「ふふ、来年はもっと大きな島でもいいかもね♡」


 


春「もうやめてくれ!十分だから!!」


 


 



 


帰りのヘリの中。

春はぐっすりと眠っていた。


結衣はそんな兄の横顔を眺めて、小さくつぶやく。


 


「また、兄さんのために……最高の場所、作ろうね」


 


その声は、誰にも届かない。

でも、確かにその場に残っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ