表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/50

第31話 兄さん、暗記は物理じゃないよ?

テスト一週間前。

放課後の城ヶ崎家のリビングでは、重い空気が漂っていた。


 


「……はぁ。全然進まねぇ……」


 


テーブルの上には山のような教科書とノート。

その真ん中で、城ヶ崎春がうなだれていた。


 


「英単語は忘れるし、数学の関数は意味不明だし……なんでこんなときに限って、こんなに範囲広いんだよ……」


 


脳内は完全にパンク状態。

何ページ目を読んでいるのか、もはや把握すらできていない。


 


「兄さん♡」


 


ソファからすっと現れたのは、例の妹――城ヶ崎結衣。

白いルームウェアに身を包み、手には分厚い参考書数冊。

目元はキラキラ、笑顔は100点満点。


 


「テスト勉強、苦戦してるの?♡」


 


「お前が話しかけてくるたびに集中切れるんだよ……」


 


「じゃあ、教えてあげよっか?」


 


「嫌な予感しかしない」


 


「ふふふ、兄さん……舐めてもらっちゃ困るよ?」


 


結衣が取り出したのは、なぜか自作の参考書。

表紙には、でかでかとこう書かれていた。


 


『結衣式!0から分かる高校カリキュラム全科目攻略本 ver.3.5(兄専用モデル)』


 


「バージョンいくつまで作ってんだよ……」


 


「ちなみに1.0は“兄さんが眠くならないフォント”を研究したやつで、2.0は“兄さんが覚えやすい匂い付き”だったよ♡」


 


「お前、勉強をなんだと思ってるんだよ……」


 



 


その後、結衣は本気で講義を始めた。


 


「この英単語、“observe”は“観察する”って意味だけど、兄さんはこれ、【お爺さんがベランダから星を観察してる】って覚えてたよね?」


 


「……覚えてたな……それ、俺の中二の頃のノートじゃん」


 


「ふふっ♡ 懐かしいよね♡ あと“photosynthesis(光合成)”は?」


 


「植物がフォトジェニックってことで……光浴びる……って無理やり覚えた……」


 


「兄さんの語呂合わせ、昔からセンス独特すぎるよね♡」


 


「やめてぇぇぇぇぇぇ!! 俺の黒歴史掘り起こすなあああ!!」


 



 


そんなやりとりをしながらも、結衣の教え方は驚くほど分かりやすかった。

難しい関数も図解でスッと入ってくるし、歴史の年号も語呂合わせで自然と頭に入る。


 


「マジで天才かお前……」


 


「うん♡ IQ200だから♡」


 


「ドヤ顔すんな」


 


「ちなみに兄さん、今日の勉強進捗率は13.6%です。明日までに残り86.4%をこなさないと、**“結衣式補習地獄コース”**に強制突入です♪」


 


「地獄が見えてきた……!!」


 


「兄さんのための、愛のスパルタ♡」


 


結衣の笑顔の裏に、うっすらと光る鬼のオーラ。


 


「試験より怖ぇぇぇぇぇ!!」


試験前日。

夜9時を過ぎた城ヶ崎家のリビングには、再びあの兄妹の姿があった。


 


「……もう無理……脳が豆腐……」


 


春は机に突っ伏し、白目をむいていた。


その背中に、無言でブランケットをかける妹・結衣。

服装はなぜかビシッとしたスーツ姿。


 


「兄さん、心が折れかけてるみたいだね。じゃあ、いよいよ最終奥義を使う時がきたようだね♡」


 


「……なに、そのサラリと怖い発言」


 


「ジャーン! 本日限りの特別開催、“妹プレゼンツ!兄さん補講ライブ!”」


 


そう叫ぶと同時に、結衣がリビングのカーテンをシャッと開ける。


するとそこには、即席のホワイトボード・スポットライト・拡声器が完備されていた。


 


「準備が良すぎるだろ!! てかライブって何する気だよ!!」


 


「まずはこちら、【古典文法ショータイム】!」


 


ドドン!とBGM(妹お手製ラップ)が鳴り響く。


 


「『ず・ぬ・ね・ぬ・ぬる・ぬれ・ね』! 兄さん、未然形の活用、いくよーっ!」


 


「テンションがおかしいィィ!! てかそれ、逆に記憶に残りそうで怖い!」


 



 


続いて始まったのは――

「数学公式早押しバトル・兄vs凛(お手伝いさん)」


 


「春様、問います。放物線y=ax²+bx+cの頂点のx座標は?」


 


「えっ、えっ……えっと、-b/2a……?」


 


「正解!春様に5ポイント!」


 


「……俺、何やってんの……?」


 


「ちなみに優勝者には“妹からの抱きつき券”が贈られます♡」


 


「絶対負けるわ!!!」


 


凛「ならば私が全力で勝ちに行きますね」


 


「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 



 


23時30分。

笑いあり、涙あり、学びあり(?)の補講ライブもついに終盤。


最後に結衣が静かに語りかける。


 


「兄さん、明日は大丈夫。わたしがここまで仕上げたんだから、安心して解いてくればいいよ」


 


「……仕上げられてたのか、俺……」


 


「もちろん♡ 私に“兄さんの人生設計表”が見えてないと思った?」


 


「それどこまで見えてんだよ!!?」


 


 



翌日。

試験を終えた春は、珍しく晴れやかな顔で帰宅した。


 


「……思ったより解けた。お前の勉強法、マジで最強だな」


 


「でしょ♡ IQ200+愛情ブーストで、兄さんもついに偏差値偏差値超えたね!」


 


「意味がわからん!」


 


その夜、春は寝る前にひとりごちた。


 


「……ありがとうな、結衣」


 


すると、枕元のスマホが光る。


【結衣様システム】


『兄さんへ。今夜はぐっすり休んでね。おつかれさま♡

明日からは、期末テスト対策講座に突入だよ♪』


 


「地獄の延長戦始まったーーーーッ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ