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第29話 スイーツ企画編

放課後の生徒会室。

いつもは静かなこの場所に、珍しく甘い香りと、騒がしい声が立ち込めていた。


「兄さんのためにも、学園中のスイーツレベルを引き上げる必要があります!」


机にスイーツ資料を山積みにし、気合を込めて宣言するのは天才中学生にして、兄ラブ全開な妹・城ヶ崎結衣。


「学園のスイーツレベルって何よ……」

冷ややかに突っ込むのは生徒会長・霧島梓。

彼女の手には、なぜか“プリン食べ比べ評価表”がある。


「どうせやるなら、学園祭のメインイベントにしてしまえばいい。女子の支持は得られるわ」

「……言ってることは冷静なのに、手元はプリンに夢中ですね、生徒会長」

副会長・橘花凛が、無表情でチクリ。


そんなわけで、始まったのは――

《スイーツ・ウォーズ:学園祭への道》


 



「まずはスイーツの候補を挙げるところから始めましょう!」


結衣がホワイトボードに「作りたいスイーツ一覧」を書き殴っていく。

•高級プリン(兄専用)

•バターの香りが暴力的なフィナンシェ

•ニーハイに合うクレープ(意味不明)

•幻のメロンパン(凛が探してるらしい)

•オマケで春兄の顔型クッキー(やめて)


「おい、最後ふざけてるだろ!」


春がいたらきっとそうツッコんでいただろうが、今日の生徒会室は女子だけ。

真面目な話から突拍子もない案まで、甘くて破天荒な議論が続いていく。


「製菓部とコラボすれば、品質も上がるし、人手も確保できるわ」


「それに、せっかくだから各クラス対抗で“スイーツ選手権”やりません?」


「……優勝景品に“春さんの笑顔”とかつけましょうか?」


「誰得よ!!」


ノリと勢いで進んでいくスイーツ企画。

だが、それはすでに学園中を巻き込む大波の“序章”にすぎなかった。


 



その日の夜。

梓が自宅でパソコンを開くと、生徒会専用チャットにはすでに大量の通知が。


【件名】結衣様より:新・試作スイーツアイデア送ります♡

【件名】凛より:材料費試算と厨房設備リスト提出

【件名】結衣様より:春さんに食べてもらうための甘味曲線分析表エクセル


「……なんなのこの生産力。正気なの?」


その瞬間、梓は悟る。

これはただの「スイーツ企画」などではない。――これは**結衣という台風による“学園味覚改革”**なのだ。


「……こうなったら、私も全力で勝負するしかないわね」


梓が静かにパソコンのキーボードを叩く。


【返信】霧島梓:全案確認。だが、私の推薦はあんみつです。


そして、スイーツウォーズは――

静かに、しかし確実に、開戦の時を迎えようとしていた。


数日後――

結衣・凛・梓の「スイーツ改革トリオ」によって、学園はじわじわと“甘味侵食”されていた。


校門前には、凛がデザインしたクールなポスターが貼られ、購買では謎のアンケートが配られている。


Q1. あなたが“推せるスイーツ”は?

Q2. 春さんに一番食べてもらいたいスイーツは?


「おい、2問目おかしいだろ」


通りすがりの男子生徒のツッコミもむなしく、既にアンケートは全校生徒の手元に配布済みである。

さらに、放送部には結衣直々のナレーション原稿が届き――


「来たれ甘党! 我らが学園の舌と未来をかけた、スイーツ大改革、始まるよ♡」


「これ完全にジャックされてるじゃないか……」


生徒会長・梓は頭を抱えながらも、状況を静かに見つめていた。

これはもう引き返せない。むしろ――乗るしかない。この流れに。


 



一方、調理室。

結衣と凛は、既にスイーツ試作段階へ突入していた。


「ふふふ……兄さんの好みに合わせて、カカオ72%・乳脂肪率42%の絶妙バランス……」


「糖度計、25度。誤差なし。焼き上がり10分、余熱3分……」


二人のやりとりはもはや戦場の職人。

パティスリーも泣いて逃げ出すレベルの本気度である。


「春さんがこれを口にした瞬間、“妹天才すぎる”って惚れ直すはずです♡」


「兄妹なので“惚れる”は語弊があるかと」


「気持ちの問題だよ、気持ちの!」


だが――そこへ訪れる不穏な影。


「……あなたたち、何をしてるの?」


製菓部部長が現れたのだ。

通称“スイーツの魔女”と恐れられる、学園のスイーツ界を束ねるレジェンド。


「製菓部に相談もなく勝手にブースを立ち上げるとは、いい度胸ね」


「わたしたちのはあくまで“食べる側に寄せたスイーツ”ですので」


結衣は涼しい顔。しかし、空気はピリついていた。


「素人がうまく作れると思わないことね。スイーツは甘さだけじゃないのよ」


「……望むところです」


結衣と製菓部長、火花バチバチ。


凛は淡々と、火傷対策に冷えピタを用意していた。


 



その日の夜。生徒会室では、梓がひとり悩んでいた。


「このままじゃ、スイーツを巡って“部活動戦争”になるわね……」


学校中のスイーツ派閥が乱立し、タルトvsシュークリームvs和菓子などという混戦が始まりつつあった。


「ほんと、なんでこんなことに……」


ふと、梓の机に結衣からのメモが置かれていた。


『学園がざわついてるね。でも、“面白くなってきた”って顔してるよ、生徒会長♡』


「……バカにして」


だが、気づかれぬように、梓の口元は少しだけ緩んでいた。


 



そして翌日、ついに学園の掲示板にこう書かれた。



《甘味選抜!スイーツ総選挙》開催決定!


参加資格:全クラス/全部活動/全甘党


目的:

✔ 学園祭の“甘味王”決定

✔ 優勝クラスには豪華賞品!

✔ ※兄に関する賞は未定


主催:結衣・凛・梓(生徒会協賛)



そして、ついに迎えた学園祭当日。

校庭の中央に設けられた特設ブースでは、「スイーツ総選挙」の投票が行われていた。


各クラス・部活動が魂を込めたお菓子を披露する中、会場は甘い香りと熱気で包まれている。


そこに現れたのは――

副会長・橘花凛。完璧な身のこなしで、各ブースの味とプレゼンを審査していく。


「クリームの硬さ、絶妙ですね。あと1秒ホイップしたら破綻していました」


「チョコのテンパリング、やり直してください。温度管理が70点」


言い方はやんわりしているが、評価は超ド級に厳しい。

全員、冷や汗をかきながら凛の審査を見守る。


 



一方、生徒会長・霧島梓は、審査員長として壇上に立ち、的確かつ公平なコメントを飛ばす。


「今回のシュークリーム、皮が主張しすぎてクリームが泣いてます。やり直し」


「和菓子部、あんこは素晴らしかった。でも見た目が地味すぎる。映えも考慮してください」


全てのチームが、戦々恐々で彼女の前に立ち、そして敗れ去っていく。


 



そんな中、トリを飾るのは、我らが城ヶ崎結衣チーム。

発表するのは――「兄のための“妹特製とろけるマカロン”」


結衣が自信満々に、プレゼンを始める。


「このマカロンには、兄さんの好物を全て詰め込みました! 甘さと塩気と幸福の絶妙なハーモニーで、兄さんが3秒で昇天します!」


「昇天しちゃダメだろ!」


会場から総ツッコミが入るが、結衣は動じない。

その自信に満ちた笑顔と、なぜか観客にまで配られた“春兄アンケート付きマカロン”の効果で、観客は大盛り上がり。


しかし――。


「……味は確かに絶品。でもこれは、あなたの個人的な愛情が強すぎるわ」


梓の冷静な一言に、空気が一瞬ピリッとする。


結衣は静かに微笑み、言った。


「そうだよ。これは私の、兄さんへの“わがままな気持ち”でできてる。でも、私はそれを隠すつもりはないよ」


「……ふっ、開き直ったわね」


梓が思わず笑う。その隣で凛も小さく頷いた。


「それもまた、立派な動機かと。結果がすべてですから」


 



そして、投票の結果が発表された。


――優勝は、結衣チーム。


観客人気、味、見た目、全てにおいて圧倒的だった。


表彰台に立つ結衣。

だが、その顔には勝者の余裕ではなく、ほんの少しだけ照れたような笑みが浮かんでいた。


「兄さん、見てた? 私、また“やりすぎ”ちゃったかもしれないけど……楽しかったよ」


 



その夜、生徒会室で最後の後片付けを終えた三人。


凛「結衣様のスイーツ、完成度は予想以上でした」


梓「正直、悔しいけど……私も、楽しかったわ」


結衣「ふふっ、これでまた一歩、兄さんの胃袋に一歩前進っ♡」


梓「違う方向に進まないといいけど……」


結衣「じゃあ次は、カレー企画だね!」


梓&凛「「甘くない予感しかしない!!」」


 



こうして――


学園に甘くて騒がしい嵐を巻き起こしたスイーツ企画は、

たくさんの笑いと糖分を残して、幕を閉じた。

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