【沼と大地の世界】
*沼と大地の世界
陸に上がり、少し休憩と栄養補給をした。
そして、彼が急に私の手を握ってきた。ドキッとする。
彼は、目を瞑り何かをしたようだ。
「さぁ、行こう」
「どうやって行くの?」
「君は、沼の底を見なかったのかい?」
「見なかったわよ。生物がたくさんでそれどころじゃなかったわ」
「視野をもっとひろげなきゃ、チャンスを逃すよ」
「お説教はもう懲り懲りよ。お節介さん」
「そうだね。ごめんね。ぼくには君の自由への干渉を少ししすぎてしまう」
素直な王子様に胸がキュンとする。
「準備は整ったね。それじゃあ行くよ」
トゥーリッキを置いて、わたしたちは沼の底を目指した。
体の動かし方がうねうねして力は使うがスーツの効果だろう軽減されている。
沼に入ると「あれ?」さっきまでの肉体的疲労が嘘のようにない。
彼がウインクした。
さっき、手を握ってきたのはそのためだと分かった。
底につくと、彼の言った通り扉があった。
「ここから先はいまのような、疲労分散は使えないからね。先に扉に入って」と言われた。
わたしは、彼が開けた扉を潜っていった。
扉を潜ると、そこには同じ景色があった。
間違いなく沼の中のようだ。
続いてバイヤン王子がきた。
扉を閉めている。
「さて、どうしたものか?」と王子は首をかしげている。
同じ景色に見えたがよくよく見るとバイヤン王子の言っていた通り「生物がいない」
生命反応なしというのは、本当だったようだ。
「王子は、とりあえず底に行こう」と言う。
シャンバラでは底だったが、こちらの世界では沼の底ではなかった。
「わかったわ。行きましょう」と、下に潜ることにした。
かなり深いようだ。
彼のコンタクトはさらに特殊で、深さ、物質の振動、成分なども見えるらしい。
「かなり潜るから無理せず休憩しながら行こう。2回にわけて底まで向かおう」
「わかったわ」
スーツを着ていてもかなりの抵抗があるということは、生身だったら「どれだけの負荷がかかっているのだろう」と疑問に思った。
しかし、彼は疑問をキャッチしたみたいだが答えることはなかった。
いままで、そんなことがあっただろうか?
彼は黙り込んで下に潜り続けていた。
私も遅れを取らないようついていく。
無言で潜りつづけること1時間は経っただろうか?同じ景色に私は飽き飽きしていた。
「もっと、効率よく底に来れなかったの?」と、彼に聞く。
「潜る方法はあるが、ここまで深い沼は異常だ。一度引き換えしてもいいがそれをしている方が手間だ」と言った。
「わかったわ」仕方ないので、そのまま進む。
本当になにも変わらない景色で飽きてくる。
沈んでいるのかもわからなくなってきた。
彼のコンタクトがなかったら、潜っているのかさえわからない。
そんな私を見て、一回目の休憩をした。
彼は、いまだに無口のままで目を瞑って休んでいる。10分くらい経っただろうか。
「行こう」と言ってきた。
それにしても、なんて退屈なのかしら。
おしゃべりをして、楽しもうと思い彼に話しかける。
「ねぇ、知ってる?切手をなめると2kcal接種できるのよ?」
「そうなんだ。いま喋ったことで2kcal消費しているよ」と、いつもの彼の優しい口調ではなく。
会話を続ける雰囲気でないことを察する。私の気持ちを読み取ったかれは
「ごめんね。楽しむことはいいことだ。けど、いまは消費を抑えて底まで生きたいんだ」
「君にとっておきの一人でも楽しめる方法を教えるよ。君は、いま視界に入ってくる情報で退屈と思っているわけだね。さっきも説明した通り、君たちは視界の情報に囚われやすい。もっと、見えないものを楽しむように心がけてご覧、ぼくはこうやって潜って喋らなくても楽しんでいる」
「何を、楽しんでいるの?」
「呼吸をすることを楽しんでいるんだ」
「えっ?」そんなことを考えてみなかった。
呼吸を楽しむ?呼吸って自動的に行っているものじゃない?
そんな私を見て
「そう、基本的には自動的に行ってくれる。けど、意識を向けたら自分で選択できる。いまは吐くとき、いまは吸うとき、いまは停めるときそういった具合にね。気が付かなかったかい?ヒントは常に言葉として隠されている。息が長い。息が短いというのは、自分で選択して息を長くし、息を短くもできるというわけさ。自分の運動量と合わせた呼吸に変化させ、いまは楽しんでいるんだ。これは、雑音を立てない訓練にもなるんだ。君たちの雑音なしではわからないかもしれないけどね。君もこの機会にやってみるといい。これ以上、無駄に雑音をたてて消費しないためにね。だから、すまないね。無駄なおしゃべりはいまはやめておこう」と、言って彼は潜り続けた。
わたしは、同じ景色に潜りながら、呼吸に集中してみることにした。
すると、彼の呼吸よりかなり浅いことに気がついた。
「はぁ、はぁ」して心拍数がかなり上がっている。
それに比べて彼は、静かで落ち着いている。まったく息がみだれていない。
私は、息を整えようとゆっくり息を吸う。肺が膨らみ腹も膨らむ。
限界がきたところで、ゆくっりいきを吐こうとするが、すぐに吸ってしまった。
「はぁ、はぁ」息が上がっているためだ。
呼吸を模索していると
「2回目の休憩だ」と彼が言った。
私は彼の顔をみて喋って良いか確認した。笑みを浮かべているのでOKなのだろう。
「あなたの言う通り呼吸に集中していたわ。はじめはあなたの呼吸や外に目がいき、とてもあらあらしかった。やっていく内にタイミングがわからなくなったけど、どんな事を意識して呼吸しているの?」
「意識もしない。向こうから呼吸したいタイミングがやってくる」と、彼は言った。
『「呼吸をしなくちゃ、息を吸わなきゃ、落ち着かせなきゃ」と君は息を高鳴らせる。まずは、息を吐くことを意識するといい。吐ききれば、吸うしか無いからね。これは、自然の摂理に近い。吐いてから吸うんだ。吸ってから吐くのではない』
「吸わないと吐けないじゃない?」
「考え方の違いだよ。呼吸も『0』なんだけど、なんて言えばいいのかな?」
と、かれはうまい例えがないか考えている。ピンときたようだ。
「そう、赤ちゃんは、生まれた瞬間何をしようとする?」
いつもながらに突拍子もない質問だ。私は少し考える?乳を飲む?もっと先か?へその緒をきる?うーん、赤ちゃんはしないな。お母さんの胸におかれる?いや?これも違うな。
旦那さんが声をかける?違うな?彼のことだ意味があるはず。
いまは何の話ししていたかな?そう、呼吸。
「赤ちゃんは、すぐに呼吸しようとするわ。」と私は自信たっぷりに答える。
「そうだね。けど、まだ半分だ。どうやって呼吸しようとするの?」何を当たり前なことをいっているんだ?と思った。
「泣いてよ。」
「まだ、わからないようだね?」
なにが、分かってないのかしら?なにか間違った答えを言ったかしら?
はじめにすることは、泣いて呼吸をすること。
間違っていないと思うけど。
「う〜ん、わからないわ。勿体付けていうのはやめてくれない」
「そんなに、息を切らさないで話せないものかな?血流が上がるよ。赤ちゃんは、泣いて呼吸をする。そのはじめの産声は「ウ」ぎゃ〜だね。「う」は「呼」どろ?つまり吐くことからだ。その後にヒックと息を吸う。子供が咳き込むのは気管支が発達する段階で吐いて、吸おうとする訓練なんだ」
わたしは、彼の説明を鵜呑みするしかなかった。
すると「君はいま息を吐ききって切らして、鵜呑みした。吸ったんだよ」と、私の心を読んで笑顔で言ってきた。
どうして、こんな重要なことを地球ではおしえてくれないのだろう?と、疑問が浮かんだ。
この旅が終わったら聞いてみることにした。
彼は、喋り終わってまた休憩時間に目を閉じていた。
「さぁ、コツもわかったことだしあと、少しだ。行こう」
休憩明けということもあり、呼吸はだいぶ落ち着いていた。
「す(う)〜〜〜〜」「は(あ・わ)〜〜〜〜」「す(う)〜〜〜〜」「は(あ・わ)〜〜〜〜」
そんなことを繰り返しているうちに「あれ?」いまどれくらい沈んだのかしら?
時間を忘れていたわ。
そして「う」から始まって「あ」とか「わ」に分裂していることが分かってきた。
ひらがなって、もしかしてそうやってできたんじゃないかしら?
音により照らし合わせてできた言語?
「AEIOU」ももしかしたら?
彼の言葉が脳裏に浮かぶ「内は外、外は内リンクしている」って。
そんな彼の言葉と「呼吸に意識」を向けていると、時間や空間が消えていた。
「底についたよ」と、彼が話しかけてくる。
「わたしは、あれ?もう?」と、言った。
「最後の方は雑音が殆どなくなっていたね。君という君がいなくなっていた。呼吸が向こうからやってくると言うのが感覚的に掴めたんじゃないかい?」
「良く分からないわ」
「このまま、底をすこし歩くけど良いね?」
と、彼はやはりいつもになく真剣な眼差しで声をかけてくる。
「ええ」と、言ったそのときふたりとも異変に気がつく。
足が、底に吸われている。顔を合わせ彼は目を見開いてお手上げのような顔をする。
「もがいても抜け出せないだろうね」と、彼は言った。
お互いの顔が見えなくなりそのまま底に吸われた。