忘れられた生命
あの日の晩から数ヶ月のときが流れた。
彼の言った通り、いまを生きて幸せに過ごしてた。
ばたばた冒険に出てシャンバラの生活に深く触れるいい機会になった。
ここでの生活は本当に幸せだ。
ヒツジをはじめとする動物たちや草木たちは生き生きとし生命力にあふれている。
きっと、ここで子供を産めば花のブーケをくれた子のようにスクスクと賢く育つだろう。
ヘルさんも「私の体調をみて、いい感じね。次の満月のときに生まれるわ」と言っていた。
おそらく明日だろう。
「痛みもない」と、言っていた。
科学も、医療も、魔法も進んでいるし、双子の魂を生み純粋に作った子供のときは痛みもないのだとか。
現に、お腹は孕んだがつわりや大きな体調の変化もない。シャンバラ自体がストレスなく過ごせるのもあるかもしれない。
この夜、私はあかちゃんを産んだ。
「う〜〜〜〜〜」「ぎゃ〜〜〜〜〜〜」と泣いた。
とても元気な男の子だった。
どうして、こんな淡々と断面的に表現しているかはすぐに分かる。
「赤ちゃんを出産した」が、いまでは夢だった気がする。
だから、曖昧な表現を許してほしい。
わたしは、あかちゃんを抱っこしてヒツジの野原に向って散歩をしていたと思う。
たしか、隣にパイヤン王子もいた気がする。
そして、ヒツジたちがいたヴェッラモ、ロウヒ、ケリドウェン、ヌト、ペッコ、カカ、バフォメット。
麦刈りをしたあとに3頭のヒツジがいた気がする。ヴェルダンディ、ウルド、スクルド。
その日も幸せに過ごしていた。とても、のどかな一日だった気がする。
けど、急にヒツジたちが暴れ出した。
シャンバラでは、いままでにない雑音だった。
その騒動を不思議に思いみてみた。
その中心にヒツジのバフォメットがいた。
とても苦しんでいるようだった。
わたしを目掛けて突進してきた。
パイヤン王子がなんとか守ろうとしていた気がする。
「あっ」という間のことで、私は倒れていたわ。
「赤ちゃんは大丈夫なのか」と確認した。とっても健やかに眠って笑顔だったわ。
とても安心したわ。
落ち着いて賢明なパイヤン王子が、なぜか騒いでいたの。
わたしは、徐々に意識がなくなるのを感じたの。
最後に、口に温かい感触が触れた気がする。
とっても、とっても温かい感触。
ここでは、味わえないとっても懐かしい。感触。
その後のことは、覚えていないのよ。




