第九話
その日の早朝、布団の中にはいたものの、俺と真助はあれから一睡も出来ず、ずっとあの真夜中の出来事を考えていた。布団から体を起こした俺と真助はお互いの顔を見た。
「なあ、経幸、あれは夢じゃないよな」
「ああ、あれから俺たち一睡もしてないからな。夢だったら良かったのに」
「何か天国から思い切り地獄に突き落とされた気分だ。最悪の気分だ」
「ああ!」
俺はそう叫んで頭を抱えた。
「何だよ、経幸、そんな大声出して」
「だからだ、だからあの夢はこんなことを予期していたんだ。あんな夢を見たからだ」
「何だよ、どうしたんだよ」
「ほら、真助、俺たち新年早々、ゆきとしずが関之尾の滝に吸い込まれていくという同じ夢を見たじゃないか。あんな夢を見たからこんな状況に。それにやっぱり俺のせいだ。だって真助さんと経幸さん、この地を選んでくれたから俺たちの枕元に出て来られたって言ってただろ。ここを選んでなければ、そんなことを知らずに過ごせてたのに。俺、どんな顔してこの後、ゆきとしずと接したらいいんだよ」
「そんなこと言ったら俺だって一緒だろ。不吉な夢を見たのは俺も同じだ。ああ!経幸、お前のせいじゃない。こんなことになったのは全部俺のせいだ。俺が滝の前であんなお願いしたから、しずとゆきみたいな彼女がほしいなんて、不謹慎なお願いしたから。俺がこんなお願いしてなかったら、しずとゆきはあの二人が言ってたように、上手く生まれ変われていたに違いないんだ。俺、あの二人が言ってたこと、しずとゆきに言う自信ないぞ。言える訳ない。だってこんな状況を招いたのは俺のせいだ。それにこんなにしずのこと愛してるんだぞ。俺こそ二人の前でどんな顔したらいいんだ」
「俺だって、全部、冷静にあの二人の話聞いてたけど、その後、どうするかずっと考えてたけど、答えが見つからないよ」
二人で布団の上で話してると部屋の入口からノックの音とともに早朝だからボリュームを控えた優しい声が聞こえた。
「ねえ、真助、経幸、起きてる?」
俺たちはどんな顔をしたらいいか分からないまま、扉を開けた。そんな俺たちの気持ちとは裏腹に、しずとゆきは朝から癒しの笑顔を見せてくれた。
「おはよう、ごめんね、まだ寝てたよね」
「ごめんね、経幸、疲れてたよね。でもね、せっかくこんないい温泉に連れてきてもらったから、みんなで揃って大浴場まで行くことも楽しんだ方がいいんじゃないって、ママが言うから、二人を起こしに来たの。迷惑だった?」
「いいや、全然、俺たちもうずいぶん前から起きてたからさ。俺たちも朝風呂に早く入りたくてウズウズしてたんだ。なあ、経幸」
俺は引きつった笑顔を作る真助の痛々しい空元気に付き合った。
「あ、ああ、真助の言うとおり、もう俺たちも楽しくてな、早起きして真助といろんな話で盛り上がっちゃってな」
「へえ、そうなんだ。で、どんな話してたの?」
「あ、それはな、そのう、・・・」
「おい、早くしずたちの部屋行かないと、親父とお袋待ってるんじゃないのか」
「そうだ、真助の言うとおりだ。ゆき、その話はいいから、戻るよ」
「うん」
そして俺たちは家族全員で朝風呂を楽しんだ後、俺たちは両親としず、ゆきの部屋で朝食を頂いてた。そんな中、俺と真助はお互い、ゆきとしずの顔を見ながら真夜中の出来事を思い出し、無意識のうちに涙を流していた。
「うわあ、ねえ、どうしたの経幸、何でこっちを見て泣いてるの?」
「わあ、真助も、何泣いてるのよ」
俺たちはハッとして涙を拭った。
「どうしたの二人とも。しずちゃんもゆきちゃんもビックリしてるじゃない」
「ご、ゴメン。何かさ、今のこの時間が幸せすぎてさ、何か知らないうちに涙が出てた」
「俺もだ、もっとこのまま、この時間が続けば、ずっとしずの顔見てられるなって思ったら、何か、気付かないうちに涙が」
「もう、ビックリしたじゃない。これからもずっと一緒にいるに決まってるでしょ。真助と経幸が私とゆきのこと嫌いにならないかぎり。だって私とゆきは真助も経幸もパパもママも大好きなんだから」
「そうだよ、さあ、早く食べよ、ね、経幸」
この後、ホテルを後にした俺たちはお土産屋を周り買い物をして我が家に戻った。
旅行を終えて日常に戻った俺と真助だったが、あの夜のことがずっと頭から離れず、辛い気持ちを隠したまま生活していた。
温泉旅行から二週間が経った三月中旬ごろ、俺は年度末の仕事で多忙を極め、連日の残業で帰りが遅くなっていた。真助も春の新作スイーツの作製を料理長から依頼され、連日その試作で帰りが遅くなっていた。そんな俺たちを心配してゆきとしずは毎日八時頃に一度だけラインをくれるようになっていた。一度だけというのも仕事の邪魔にならないようにと言う、ゆきとしずの優しさだと分かっていた。
「経幸、今日もまだお仕事なんだね。頑張ってね。でも無理しちゃダメだよ。私も経幸が帰ってくるまで待ってるから」
「おお、最近はこの時間にいつもラインくれるな。ありがとうゆき。最近は本当にこれが残業してて楽しみなんだよな、よし、あとはゆきにライン返して、仕事頑張ろう」
俺はゆきにラインを返した。
「ゆき、ありがとう。いつもゆきのラインが元気をくれるよ。もう少し頑張ってから十時には帰るよ。ゆきも俺のこと待ってなくていいから、眠くなったら先に休んでいいからね。だから先に言っておくね、おやすみ」
同じ頃、真助もしずからラインをもらっていた。
「真助、今日もまだ遅くなりそう?私も真助が満足できて沢山のお客さんに愛してもらえる新作スイーツができることを願ってるけど、無理しないでね。私がお手伝いできることはないかもしれないけど、もし何か私にできることがあるなら言ってね。私、一生懸命お手伝いするから。今日もゆきと一緒にご飯作ったから、待ってるね」
「ふう、やっぱり、癒されるな、しずのラインは。いつもありがとう。よし、ライン返して、もうひと踏ん張りするぞ」
真助はしずにラインを返した。
「ありがとう、しず。いつもしずの応援が俺のやる気に力をくれるよ。いつもしずがしてくれてるから改めて言うことじゃないけど。しず、俺の前ではいつも素敵な笑顔でいてほしい、それが俺の最高の癒しになるから。それがしずにしかできない俺の仕事の一番の手伝いになるかな。でも今日はもう少し遅くなるから、寝ていいよ。帰ってからしずの寝顔見に行くから、って嘘、嘘だよーん。おやすみ」
そんな多忙な毎日を過ごしていた三月下旬に入ったある日、俺は疲れが溜まり、残業中に眠気に襲われ、少しの間、眠ってしまった。その時、寝ぼけて、ゆきとしずにとって意味不明と取られかねないラインを送ってしまっていた。それは個別に真助に送るつもりだったメールの文面を何故か四人が共有するラインで送ってしまったのだ。
「なあ、どうする。もうあれから答えが出せないまま、一か月が経ってしまったけど、あの真夜中の話、いつ二人にするんだ。お前、自分なりに結論出したか?」
「え!何?あの真夜中の話って?経幸、ねえ」
「そうだよ、何のこと?気になるよ」
「ば、バカ、経幸、おい、何をアホなことしてるんだよ」
そしてラインに反応のない俺に真助が電話をしてきた。俺はその着信に目を覚ました。
「あ、あれ?俺、寝てしまってたのか。あ、真助からだ。何だろう?はい、何だよ、真助、お前も残業中じゃないのか?」
「ば、バカ野郎、何、呑気なこと言ってるんだよ。お前、何てことしてくれたんだよ」
「え、何が?」
「何がじゃねーよ。お前、四人のラインに何てことを入れてるんだ。見てみろよ」
俺はそのラインを見て一発で眠気が覚めた。
「うわあ、何だよこれ、やばい、やばいよ。これは、もしもし、真助」
「お前、何だよ、どうしたんだよ」
「ゴメン、今更謝っても遅いけど、疲れが溜まっててちょっと寝ぼけてた。お前に直接メールを送るつもりが、何でだ、四人のラインに入れてた。やばいな、完全にゆきもしずも気にしちゃってるな」
「当たり前だ。不審がるに決まってるだろ」
「な、真助、どうする?」
「どうするって言ったって、もう、完全にあの真夜中って言ったら、多分二人も温泉の時のことだって勘付いてるだろうからな」
「本当にゴメン、真助。なあ、どうしたらいい?」
「いやあ、もうこれは帰ってからの二人の追及をひたすら突っぱねるしかないだろ。それで何とかあの内容は隠して、何か、そうだな、二人にサプライズを考えてたってことに持っていこう。バレタからサプライズにはならないけど、楽しみに待っててって、誤魔化す。いいか、経幸、そういうことで突き通すぞ、いいな」
「ああ、分かった。本当にゴメン、こういう不測の事態には本当に頼りになるよな」
「よし、そう言うことで、いいな。やっちまったものは仕方ない。何とか悟られないようにふるまうんだぞ」
そして俺と真助残業を終えてほぼ同時に家に着いた。
「ただいま」
「ただいま」
父と母はもう先に寝ていた。出迎えてくれたのは、ゆきとしずだった。そうすると二人していきなりあのラインのことを聞いてきた。
「ねえ、経幸、何でラインしてくれないの?残業で忙しかったのかもしれないけど、あの意味深な内容、ずっと姉さんと気になってたのよ」
「あ、ああ」
俺が対応に困ってると真助が助けてくれた。
「ああ、それはしず、ゆき、俺から話すよ。あの内容は本当は俺だけに送るつもりだった内容なんだ。経幸、疲れがたまってて寝ぼけて四人のグループラインに入れてしまったみたいなんだ。とにかく、なあ、家に入れてくれよ。お腹も空いてるし」
「そうだね、ごめんね」
そして俺と真助はゆきとしずが用意してくれていた晩御飯を食べながら、俺がしでかしたミスについて、真助が上手く誤魔化してくれた。
「ねえ、何、あの経幸のライン?」
「そうよ、あの真夜中の話って?多分、あの温泉でのことでしょ。あの時、朝、ゆきが聞いた時、真助が上手く言ってあやふやにしたでしょ?」
「やっぱり、そこまで勘付いちゃったか?バカ、経幸、せっかくここまで隠して来たのに、台無しじゃねーかよ」
俺はそう言った真助に軽く頭を叩かれた。真助は芝居をしていた。俺は思っていた。やっぱりこいつはこんなことに関しては本当に上手い、芝居もさりげなくて感心していた。
「ゴメン、疲れててさ、寝ぼけてて」
「あのな、しず、ゆき、実はね、あの温泉で部屋、俺と経幸、別々だっただろ。その時、部屋に夜もどったときに話してたんだ」
「何を?」
「今度は俺がしずとゆきにサプライズしてやるって。だって、あの温泉旅行は全部、経幸の企画だっただろ。あれで俺の株は親父とお袋の中でも、それにしずとゆきの中でも完全に地に落ちたと思ってな。それで、経幸と部屋で二人になった時に宣言したんだ。今度は俺がしずとゆきを喜ばせられる何かを考えるからな、手を出すなよって。それなのによ、こいつ手を出さずに変な所で口を出して、俺の行動を台無しにしやがってよ」
「なるほど、そうだったの?でもそんな風に真助のこと、私たち見てないよ」
「そうだよ。でも何?真助はどんなことしてくれようとしてたの?」
「それが、ごめーん、まだ、何するか、何も考えてなかったんだよな」
この一言に俺もしずもゆきも三人でズッコケた。この上手い話に俺も得意じゃないけど真助の芝居に俺も乗っかった。
「な、何だよ、まだ何も考えてなかったのかよ。だったらそんなに俺のこと責めることねーだろーが」
「バカ、これから考えるにしても、もうしずもゆきもずっと期待しちゃってるだろ。だからこれから何するにしてもサプライズにならねーじゃねーかよ」
「そ、そうか、本当にゴメン」
「な、しず、ゆき、そう言うことだから。あの経幸の寝ぼけラインは」
「そうだったんだ」
「ごめんな、ゆき、しず。変な気を揉ませちゃって」
「そうか、じゃあ、姉さん、ずっと期待して待っていようね」
「そうだね、真助が何してくれるか、楽しみだね」
「参ったな、これじゃあ、サプライズよりハードルが高くなっちまったな。さあ、スイーツの新作のことも考えないといけないし、また、大変な作業が増えたな」
「真助、大丈夫だよ。楽しみにはしてるけど、無理しなくていいからね。それは後回しでいいからね。今は新作づくりを優先しないと」
「ありがとう、無理せず、考えるよ。じゃあ、経幸、俺たちも風呂に入って寝ようぜ。しず、ゆき、晩御飯ご馳走様、それからこんな時間まで起きて待っててくれてありがとう。いいよ、後は俺たちもお風呂に入って寝るから。おやすみ」
「ゆき、しず、ありがとう」
「うん。じゃあ私たち寝るね。おやすみ」
「おやすみ、経幸、真助」
そして俺たちは風呂に入って自分たちの部屋で布団に入った。
「はあ、良かった。何とか乗り切れた。ありがとう、真助、お前のおかげだ」
「ああ、何とかな。でも本当に気を付けろよ。もう二回目はないぞ。今度、こんなことがあったら俺だってハッタリかます自信ないからな。あ、でも今回のことはハッタリにしたらダメだな。本当に俺なりにしずとゆきのために何か考えないとな。二人の前で公言して期待もたせちゃったしな」
「ああ、そうだな。悪いな、余計な作業を増やしちゃって」
「まあ、それはいいんじゃないか?結局良かったのかもな。俺だって温泉から帰った後、ずっと思ってたんだ。俺も経幸みたいに、何かしずとゆきにしてやらないとなってさ。夜中にあんなことを言われたしな。あのお願いを鵜呑みにすると、時間がないことになるからな」
「まさか!真助、お前、しずとゆきに言うつもりなのか?そう決めたのか?」
「ち、違う違う。二人のために何かしてやろうと思ったことの理由の例えだよ。いや、例えでも、ダメだな。しちゃいけない例えだったな。悪い」
「はあ、本当にどうする?真助。本当のあの話、二人に言うのか?」
「言える訳ないだろ。でも本当に本当なのか?あの話、一年後、俺たちの生命力を吸ってしずとゆきは生きないといけないっていうのは?」
「ううーん、そうだな。でもあんな俺たちの枕元にまで出てきて、わざわざ嘘は言わないだろう」
「そうだよな。でもそれでも二人に自分たちの寿命が縮まるから、また滝に入ってくれ・・・なんて言えないよな。だろ、経幸」
「うん、・・・ああ、もうダメだ、このことを考えると頭が痛くなってくる。もう俺、寝る」
俺は今日のこの出来事をキッカケに、あれからずっと答えが出せないこの話のことを考えないように、頭の片隅で蓋をした。
仕事が多忙を極めた三月を乗り切り、俺は新年度を迎えていた。仕事も年度末に比べれば完全に落ち着き、俺は最近は毎日、定時で会社を後にしていた。
「ただいま」
「おかえり、経幸」
「おかえりなさい、経幸」
「ただいま、ゆき、しず」
「あら、私にはないの?」
「もう、母さんにはいいだろ。もう、散々言ってるだろ」
「あら、経幸、あなたはいつもは母さんにそんなこと言わなかったのに。まるで真助みたい」
「やめてくれよ」
そこへ真助も帰ってきた。
「ただいま、お袋、しず、ゆき」
「おかえりなさい、真助」
「あら、真助の方が今は私のことも見てくれてるわね」
「え、何のこと?」
「いえね、最近、経幸の方が何か私に冷たいのよ」
「そんなことないよ、母さん」
「だって、何かゆきちゃんとしずちゃんのことばかり気にしてて、私のことは最近、全く目に入ってないような気がするの」
「そんなことないよ」
「気のせいだよ、お袋。いつもと変わらないだろ。なあ、経幸」
「ああ、俺はいつも通りだよ」
そう言いながらも俺は仕事のストレスから少しは解放されたと言うのに、何かしら気持ちに余裕がなかった。それはやっぱりあのことがあった。頭の片隅で蓋をしたと言いきかせていたけど、どうしても蓋がふとした時に開いてしまうのだ。
その点、最近の真助は何かを吹っ切ったようにいつも以上に明るく周りへの気遣いもさりげなくなっていた。そんな真助を見て、俺は何かあのことについて、覚悟を決めたような強さを感じていた。
「はい、お袋、しず、ゆき、今日は持ってきたよ。今日から販売が始まったから。俺の作った新作スイーツ、宮崎名産の日向夏とマンゴーを使ったチーズケーキ、“宮崎の酸も甘いも楽しんで”と命名した俺の自信作なんだ。食べてみてよ」
「うわあ、綺麗な色のケーキ、美味しそう。ありがとう、真助」
「本当に美味しそうだね、姉さん、ママ。何か最近の真助って、凄く優しいね」
「本当に。何か私にまで最近、別人になったみたいに優しいもん」
「な、何だよそれ、お袋。褒められてるのかディスられてるのか分からねーじゃないかよ。ほら、経幸の分もあるから食べてくれ。みんなの率直な感想が欲しいしな」
「さあ、みんな座って。真助も経幸もお茶でいいわよね」
「ああ」
「いや、俺はコーヒーがいいな」
「おい、経幸、お茶でいいだろ。お袋も面倒だし、それにしずとゆきのことを考えてやれよ。しずとゆきはコーヒー苦手なんだからよ」
「そ、そうだった、ゴメン」
「何かやっぱりお前、少し可笑しいぞ。さっきは俺もいつも通りの経幸だって、お袋に言ったけど。いつものお前だったらこれくらいの気遣い、俺より当たり前のようにできるだろ」
「ゴメン、俺、まだ年度末の疲れが取れてないのかな?ゴメン、真助、俺、お前の新作、明日もらうよ。俺、今日はもう寝るわ」
「経幸、ご飯も食べないの?」
「ああ、今日はいいや。ありがとう、母さん」
「大丈夫?熱でもあるんじゃないの?」
そう言ってゆきは俺のおでこに手を当てた。
「熱はないみたいだね」
「大丈夫だよ。ありがとうゆき。俺のことは心配しないで、真助の新作をみんなで楽しんで。みんな、おやすみ」
そう言って俺は晩御飯も真助の新作も口にせずに部屋に上がり、布団の中に入った。
「ダメだ、ドンドンドンドン、今年のおゆき祭りの日が近づいてくると、あの言葉が出てきてしまう。ああ、どうしたらいいんだ。どうしたら真助みたいにあんなに平然としていられるんだ」
俺はいつの間にか眠りに就いていた。
そんな自分の気持ちがスッキリしない中、ゴールデンウィーク初日を三日後に控えたある日の父、俺、真助が仕事に出かけた後の午前中、ゆきとしずは俺たちの部屋をチラッと除いた。
「ねえ、姉さん、経幸と真助、お部屋綺麗にしてるかな?仕事が忙しい時期が過ぎてからも経幸は仕事の疲れが溜まってたみたいだし、真助は新作の売れ行きがかなりいいみたいだから、ずっと忙しいのが続いてるでしょ。中々、自分のことまで手が回ってないんじゃないかな?ああ、やっぱりだ。姉さん、見て、机の上も下もかなり散らかってるよ」
「うわあ、本当だ。ゆきの言う通り、二人とも自分のことまで手が回ってないね。そうだよね、私たちのこともあるから。慣れてきたって言ってもまだまだ、私たち、真助と経幸にもたれ掛ってないと立っていられない時が多いもんね。よし!ゆき、私たちでお片付けしよう」
「そ、そうだね。私たちでもこれならできることだもんね。お掃除しよう」
そして二人は俺たちの部屋の掃除を始めた。そして俺の机を片づけていた時、ゆきはついにそれを見つけてしまった。二人はその中身を確認した後、お互い見つめ合っていた。その時、一階から母の声がした。
「しずちゃーん、ゆきちゃーん、お昼よ。降りてらっしゃーい」
「グスン、は、はーい、ママ、今、行きまーす」
二人は涙を拭いてから、それを元に戻して俺たちの部屋を後にした。
その日、家に戻った俺はその部屋の状況を見て、少し焦った。そして、すぐに机の引き出しの奥にしまっておいたあれを確認した。
「あ、はあ、あった。良かった。見られてないみたいだ」
「どう?経幸、お部屋、ビックリした?」
「あ、ああ、ビックリしたよ。いいのに、掃除なんてしなくて。大変だっただろ。かなり、散らかってたからさ」
「ううん、だって、経幸も真助もお仕事大変でしょ。二人とも私たちのためにしてくれることも増えて大変でしょ。これくらい私たちができることだもん」
「ありがとう、ゆき、しず」
俺はホッとした。いつも通りのゆきとしずだと確認できたからだ。あれを見られていたらきっと二人の異変に俺も気付くと思っていたからだ。
そしてゴールデンウィーク初日、突然、真助から発表があった。
「しず、ゆき、それから経幸、親父、お袋も聞いてくれ。明後日、海に行くぞ」
「な、何だよ、突然」
「いいから」
「まさか、真助、お前、自分の欲望をまた爆発させるのか?お前、ゆきとしずが嫌だってあれほど言ってた水着姿に!お前、いくら・・」
「違うわ。勘違いするな。その気持ちはあるけど、もうそれはいいんだ。それより、俺はこれだよ。最近、お前ともやってないだろ、サーフィン。しずとゆきにも俺たちの趣味、楽しんでもらいたいだろ。そう思ってな。だから明日は二人の板とボディスーツを買いに行くぞ。それから中に着る水着もな。だからこれだけは言っておく。水着は買うけど、あくまでボディスーツの中に着るインナーとしてだ。安心しろ、しず、ゆき」
「ああ、真助、あの二人の部屋に飾ってあったあの板のことね。何か海の上に浮いてそれに乗って楽しむって言ってた」
「そうだよ、これなら大丈夫だろ。二人が嫌がってた水着は着るけど、見せるものじゃないからね。これならいいだろ。それにサーフィンには二人も少し興味を持ってただろ」
「う、うん、何か海の上に浮かぶって、どんな感覚なのか?凄く興味があるもん。だって私たち、船にも乗ったことがないから」
「そうか、良かった。でも疲れるぞー。結構、サーフィンは体力使うからな」
「大丈夫だよ。私もゆきも体力には自信あるんだから。真助の方こそ、最近やってないから、大丈夫なの?仕事も忙しいみたいだし、私たちのために無理してない?」
「大丈夫だよ。ありがとう、しず。それに俺が元気なうちにしずとゆきにサーフィンの楽しさを知っておいてほしいからさ。だから二人の水着選び、お袋、頼むよ」
「分かったわ。でも真助、今の言い方、何?いつもポジティブなあなたらしくない。元気なうちにって何よ、まるでもうすぐ元気がなくなるみたいな」
「ああ、言い方が悪かったな。違うよ、別に大きな意味はないよ。誰だっていつ死ぬか分からないだろ、今、この時を大事にって意味だよ。俺は親父、お袋、経幸、それとしずとゆきがいる今この時を一生懸命楽しみたいんだ」
俺はこの一言で真助の覚悟を確信した。真助はこのまま、しずとゆきには何も言わずに、二人のために最後まで生き続けることを。もう迷っていないことが痛いほど伝わった。
そしてその真助の言葉の真意をゆきとしずが分かってたことを俺たちは知る由もなかった。
そして二日後、俺たち家族は県内のサーフィンのメッカ、日向市の金ヶ浜に来ていた。
【金ヶ浜】は宮崎県の北東部に位置する日向市の全国的にも有名なサーフスポットで、全国各地のサーファーが高い波を求めてやってくる。国道10号線沿いにあるため、車を降りるとすぐにサーフィンができるアクセスの良さも魅力である。近くにサーフショップ、コンビニ、レストランなどもあり、利便性の高さも魅力の一つである。
「わあ、綺麗ね。真助、天気も良くて本当に気持ちいいわ、ね、ゆき」
「うん、経幸、私たちサーフィン?初めてだから我慢強く教えてよ。私と姉さんも早く上達するように頑張るけど、見捨てないでよ」
「バカだな、ゆき、そんなことする訳ないだろ。今日は俺たちが楽しむためにここに来たんじゃないんだぞ。今日の主役はあくまでゆきとしずなんだから。二人にサーフィンの楽しさを知ってもらうために真助が企画したんだから。なあ、真助」
「そうだぞ、だから、二人が納得するまでいくらでも手取り足取り教えてやるからな。覚悟しておけよ、俺の指導は厳しいぞ」
「おー怖い。って、嘘、全然、怖くないよ、真助。だってそんなこと言って、顔が思い切り笑顔なんだもん。何でそんなに笑顔なのよ」
「だってよ、俺たちサーファーだからさ、二人のサーフィンする姿を想像すると何か嬉しくてな。凄く可愛くて綺麗でカッコいいだろうなと容易に想像できるからな。しずとゆきのボディスーツ姿を想像すると・・・ムフフ」
そう言っていやらしい笑みを浮かべる真助は母に丸めた雑誌で頭を叩かれた。
「い、痛って。な、何するんだよ、お袋」
「もう、そう言うことだったのね。しずちゃんとゆきちゃんの水着姿を諦めたと思ったら、結局あなたはそう言う邪な考えでこの旅行を企画したのね」
「ち、違う違う、今のも俺の正直な気持ちではあるけど、今のはあくまで俺の気持ちのサブ情報だよ。もちろん、メインはしずとゆきにサーフィンを教えることに決まってるだろ」
「どうだか?今のあなたのいやらしい顔を見てたら信用できないわ」
「おい、経幸、お前も一緒だろ。俺の弁護しろよ」
「バカ野郎、勝手に俺を巻き込むな。いくら双子だからって、そこまでお前と一緒にするな。俺は違うからね、信用してよ、母さん、ゆき、しず」
「って、そう言ってるのに、おい、経幸、何だよそのにやけ面は?な、やっぱり、お前だって、なあ、そうだろ?」
「う、うるさいな、だ・か・ら、違うって言ってるだろ」
「もう、どうしようもない息子たちね。はい、もう放っておこう。時間もなくなるから、私はあそこのサーフショップに二人を連れていくね。あそこでしずちゃんとゆきちゃんを着替えさせてくるから。行きましょう、しずちゃん、ゆきちゃん」
そしてゆきとしずは着替えてきた。その姿は俺と真助が想像していた以上に美しく、そして神々しさを感じるほどだった。サーファーの俺たちとしてはその姿に完全に心を持っていかれていた。
「ほら、真助、経幸、しずちゃんとゆきちゃん、着替えさせてきたわよ」
「どう?真助、変じゃない?」
「私も。どうかな?経幸」
俺たちはしばらくの間、何も言えなかった。それほど見惚れてしまっていて、二人の言葉が上の空だった。俺と真助は母に鼻先を指ではじかれた。
「こら、二人とも、見惚れ過ぎ。しずちゃんとゆきちゃんが聞いてるでしょ。」
「あ、ゴメン、何、何だった?」
「え?ゆき、何か言ったか」
「はあ、もういいわ。母である私が代弁しておいてあげる、しずちゃん、ゆきちゃん。うちの息子二人がこんな状態になってるから、もう何も言わなくてもいいんだけど、二人とも凄く似合ってるよ。誰がどう見ても素敵なサーファーに見えるよ。これで上手く波に乗れたら、他のサーファーからも絶対に声がかかっちゃうよ」
「よかった、そう思ってるの?ねえ、真助」
「そうなの、経幸も、そう思ってくれてる?」
「あ、ああ、でも絶対に他のサーファーなんかにしずは渡さないぞ」
「俺だって。ゆきのことを他の男になんて渡してたまるか。ゆきは誰にも渡さない」
俺と真助は同じ覚悟を決めていたが、近づくタイムリミットに焦りを感じていることは否めなかった。だから、母の言葉にムキになってしまった。
「ちょっと、何を二人してそんな怖い顔して。あくまでしずちゃんとゆきちゃんのボディスーツ姿の美しさを表すための言葉の綾でしょ。そんなにムキにならなくても」
「あ、ゴメン、つい」
「俺も、確かに母さんの言う通りだね。ゆきもしずもゴメン」
「うん、でも良かった。それなりにはらしく見えるんだね、私たち。ね、ゆき」
「うん、ホッとした」
「本当に真助も経幸も、もし、しずちゃんとゆきちゃんがいなくなったらどうなっちゃうのかしら?何か母親として怖くなってきたわ。ほら、二人ともしずちゃんとゆきちゃんに見惚れて続けてないで、早く教えてあげなさい」
「お!そうだった。お袋の言う通りだ。よし、しず、行こうか」
「よし、こっちもだ。ゆき、行こう。怖さもあると思うけど、まずは楽しむことだね」
そして俺たちはゆきとしずに夕暮れまで丁寧に教えた。驚くことにしずとゆきは運動神経もいいのか?そしてセンスもあったのか?もの凄いスピードで上達し、この短時間でボードに立ち波に乗る姿が様になっていた。
「はあ、疲れた。でも楽しい。どう、真助、私、上手になった?」
「ああ、凄いよ、しず。この短い時間でこんなに上達するなんて、思ってもみなかったよ。しずはサーフィンのセンスあるよ」
「やった、真助のお墨付きを貰えたね。嬉しい」
「ねえ、私は。私は、経幸のお墨付き貰えないの?」
「ゆきもしずと同じだよ。俺もビックリしてるよ。今日だけでこんなにも綺麗に波に乗れるようになるなんて。俺、自分のことより何か嬉しいよ。うん、ゆきもしずも本当にサーフィンの才能あるよ」
「良かった。私も経幸にお墨付き貰えた。ねえ、パパもママも見てくれてた」
「もちろん、見てたよ。二人とも凄いね」
「本当に凄いわ。二人の下手くそな指導でここまで上手になるなんて」
俺たちはこの母の一言にシンクロしてツッコんだ。
「お、おーい、俺たちの指導は聞いてないだろ。そんな遠目で見てただけの人に言われたくないわー」
「ぷっ!やっぱり双子ね。言うこと全く一緒。ツッコミでハモるなんて」
そんな母とのやり取りをゆきとしずは最高の笑顔で見ていた。俺たちもそんな二人の笑顔に癒されると同時に何だか切ない気持ちが募っていた。
「うわあ、でも、ここの夕陽、綺麗ね」
「本当に、凄く美しい。でも何かこうして見ていると、誰かに甘えたくなっちゃう」
そう言ってしずは真助の腕を組み、ゆきは俺の腕を組み、それぞれの肩に頭を擡げた。そんな二人の可愛さに俺たちは顔が真っ赤になっていたはずだけど、その色は金ヶ浜の夕陽の色に溶け込んだ。
俺たちは金ヶ浜を後にした。帰路の途中、晩御飯を何にするか、車内で話していた。
「どうだい、しずちゃん、ゆきちゃん、あれだけ体を動かしたからお腹空いたでしょ?」
「うん、パパ、もうお腹ペコペコ」
「私も、お腹空き過ぎて、ママのお料理が、いろいろ頭の中を駆け巡ってる。今なら、いっぱい食べられそう」
「そうか、二人ともずっと動きっぱなしだったもんね。なあ、真助、経幸、どうする?家に帰ってから栞に作らせるのもな、栞が大変だし」
「ごめんなさい、パパ、私がママのお料理がいっぱい頭の中を飛んでるみたいなこと言ったから」
「いいわよ、私は、帰ってから作っても。しずちゃんとゆきちゃんが喜んでくれるなら」
「大丈夫だよ、お袋。今日の晩御飯はもう行先も考えてあるから」
「そうなのか?」
「ああ、親父もお袋も、それから経幸も、しずとゆきには色々、宮崎名物、食べてもらったけど、まだ、一度も食べてない、けど、外せない名物が残ってるだろ?」
「な、何だよ、真助。何が残ってる?」
「分からねーか?これだよ、これ。宮崎名物でこの仕草と言ったら」
真助は麺を啜る仕草をした。俺と父、母は同時に叫んだ。
「辛麺かー!」
「そう、その通り。な、絶対に外せないだろ?」
「そうか、今まで何で気付かなかったんだよ」
「ねえ、経幸、何?カラメン?」
【辛麺】は宮崎発祥のご当地ラーメンで、辛さが自分で選べる。その特徴は大きく分けるとスープ、麺、カロリーの3つと言われる。
まずはスープ。スープには唐辛子とニンニクがとにかく大量に入っている。しかし、しっかり煮込んであるので、ただ辛いだけでなく、しっかりと旨みが出ていて美味しく、ニンニクは煮込むと匂いが減るので、強烈な香りが特徴のニンニクの匂いを気にすることも多少は減らせる。
他にもニラやミンチ肉、卵がたっぷり入っているので、麺を食べた後、雑炊にして食べる人も多い。
次に麺。冷麺に似た独特の食感がある麺で、透明で細いのにすごくコシがあるのが特徴である。中華麺とは違ってスープを吸っても伸びにくく最後まで美味しく食べられる。材料に使われていないが、その食感から“コンニャク麺”と呼ばれることもある。
最後にカロリー。スープの油が少なく麺自体のカロリーも低いので、食べ応えはあるけどカロリーは控えめになっている。唐辛子による発汗作用や脂肪燃焼作用もあるので、とてもヘルシーである。
「だからね、この先に日向市駅前にさ、桝元があるだろ。あそこに寄って食べようと思ってね。な、どうかな親父、お袋、経幸」
「異議なしだな。あそこなら間違いないからな」
そして俺たちは桝元日向店に入店した。
「どうする?俺は3辛にするけど。親父とお袋は1辛で良かったよな。二人とも辛いの苦手だったから」
「ああ、俺と栞はそれでいい。けど、しずちゃんとゆきちゃんはどうする?」
「ねえ、真助、どんな感じなの。普通でも辛いの?」
「ああ、1辛でも結構ね。まあ、しずとゆきは1辛でいいんじゃないかな。初めてでいきなりレベル高いのは止めた方がいいね。いいよ、俺が3辛だし、あとはこの超辛男が俺の遥か上をいくから、な、経幸」
「ああ、俺はここの辛麺だけは最低でも10辛以上じゃないとダメなんだよ。今日はしずとゆきも試しが必要だから、10辛にしておくよ」
「そうか。だからさ、しず、ゆき、最初、1辛を食べてみて、大丈夫かな?と思ったら、俺のも、経幸のも試してみていいからさ」
「うん、分かった」
そして注文してみんなの辛麺が運ばれて来た。
「うわあ、ねえ、姉さん、全部、真っ赤だよ。見て見て、経幸のなんて、唐辛子が器の真ん中で少し山になってるよ。凄く辛そうだよ」
「よし、しず、ゆき、食べようか。いただきます」
「いただきます」
そしてしずとゆきは恐る恐る自分の辛麺1辛に口をつけた。一口目を食べ終わった後、二人の反応はそれぞれ違った。
「か、辛い、うわあ、美味しいけど、凄く辛い。私はやっぱり辛いのダメだわ。少しずつ食べよう。ごめんね、真助、せっかく考えて連れてきてくれたのに、私、全部食べられないかもしれない。残しちゃダメだよね」
「そうか、しずは辛いのダメか。でも辛くても美味しいことは分かったんだね」
「うん、だから辛いのが我慢できるところまで食べる」
「いいよ、残ったら俺が食べるから、しずは無理しなくていいから」
「うん、ありがとう、真助」
「ゆき、君はどうだ?」
「うん、あれ?凄く美味しい。それにあれ?辛くないよ。見た目ほど、辛く感じないよ」
「ええ!まさか、ゆきは俺と一緒で辛いのOKなのか?」
「へえ、じゃあさ、ゆき、まずは俺の3辛、チャレンジしてみろよ」
「うん、じゃあ、貰うね、試してみる。うん、ああ、1辛よりはまあ辛いことは分かるけど、うん、こっちの方が美味しいね。辛さが増して、口の中がピリピリしていい感じかも」
「マジか!ゆき、それじゃあ、俺の10辛、食べてみる?」
「うん、貰っていい?」
そしてゆきは俺の10辛を食べた。
「どうだ、ゆき?いけそうか?」
「うわあ、これ、私、これがいい。辛くて凄く美味しい」
「嘘!ゆきちゃん、本気で言ってる?我慢してない?」
「うん、確かに辛くて口の中が何か痛いのか、痒いのか、良く分からないけど、それが何か凄く気持ちいいの。ねえ、経幸、私、こっちがいい。交換してくれる?」
「そうか、分かった。いいよ。良かったよ、しずとゆきの辛さの好みが分かったから。な、真助、姉さんのしずは辛いのは苦手と。妹のゆきは大の辛党ってことだな」
「いいね、本当に辛いの好き。私、この辛麺、大好きだよ」
その横では顔を真っ赤にしながら辛麺1辛を必死に食べるしずがいた。
「おい、しず、もういいから。止めておけよ。後は俺が食べるから。しずには後で何か甘いものでも買ってあげるよ」
「だって、真助が私たちのために考えてくれたお店でしょ。真助の気持ちを無碍にはできないわ、ふう、辛いよ」
「もう、いいよ。本当に。そのしずの気持ちだけでもう十分だから」
「姉さん、いいよ。それ私にちょうだい。私が食べるから、もう、辛麺、最高」
「おい、姉妹で両極端だな」
店を出た後、俺たちはコンビニに寄って、しずもゆきも大好きな甘いものを色々買ってから家に戻った。