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第三話 魔女と兄妹と火吹き男

 村に一人の大男がいました。

「だめだあ、俺はもうだめだあ」

 夜の酒場で泣きながら、酒を飲んでいます。

「女将さん! 酒をもっとくれよお!」

「悪いけど、もう店仕舞いだよ。帰んな!」

「なんだとお!」

 大男は立ち上がり、女将に怒鳴ります。

「俺は火吹きの男だぞ! 火を吹くぞ、いいのか!」

 女将に顔を近づけ、男は脅かしました。

 しかし、女将はふっとわらい、言い放ちます。

「そんな子供でも出来るようなことで、脅かさないで頂戴」


「う、うわあああ!!?」

 大男はお金をテーブルに置くと、泣きながら逃げて行きました。




 昼の魔女の家。

「おばあさん」「人助けにご協力をお願いします」

「嫌だね」

 魔女の家の部屋の一室で、椅子に座った老婆に兄妹は頭を下げていました。

「そんな」「話ぐらい聞いてください!」

「どうせ誰かに迷惑をかけて、そのせいでお小遣いをカットされたから助けてほしいとか、そんなんだろう?」

「話を聞く前から疑うだなんて」「僕たちは悲しいよ!」

「じゃあ、人助けのお礼としてお前たちの小遣い半分貰うとかでもいいのかい?」

「ふざけないで!」「それじゃあ、何も変わらないじゃないか!?」

「お前ら」


 とにかく、お小遣いの話は別に何があったのかを兄妹は、魔女に話す事になりました。

「村に油を販売している大人の男の人がいるんです」

「町で一番でっかい人、熊みたいな大きさ」

「その人は祭りの大道芸として、火吹きをするんです」

「やり方は口の中に油を含んで、唇に火打石をセットして、火を吐き出すんだって」

「油屋のおじさんは先祖代々からやっていて。火吹き芸は失敗すれば大火傷する危ない技だって」

「おじさんも技を習得するのに、十年をかけたって笑ってた」

「でもお兄さんが、試しにやってみると……」


「簡単にできちまったと」

 しょんぼり顔で椅子に座り話す兄妹。神妙な顔で紅茶を飲み、老婆は話を聞いていました。

「それだけじゃないんです。お兄さん面白がって、バク転しながら火を噴いたり、逆立ちしながら火を噴いたり」

「お前だって試しにやってみて、さらにお手玉しながら火を噴いたりしてたじゃないか!」

「……私たち、調子に乗って村の真ん中でそれをやってて、村人たちも皆が見ていて」

「油のおじさんも僕たちを見て、『俺にはあんなの無理だぁあああ!!』って叫びながら走って行ってしまって」

「それ以来この一週間、仕事もせずに酒浸りの毎日の様で」


 魔女は過去の出来事を、祭りの日を思い出します。

「……この五百年間、確かにずっと火を噴き続ける一族がいたね。昔はもうひとひねり芸を進歩させるつもりはないかと思っていたが、途中からどうでもよくなって」

「確かに父と母から聞いた限り、おじさんの火吹き芸はずっと進歩していません。先祖代々、火を噴くだけです」

「でも祭りに火を使った芸は一つは必要なんです、祭りにハリを与えるためにも」

「このままじゃあ来週のお祭りで、僕達が代わりに火吹き芸をやらないといけなくなる!」

「そんなことしたらおじさんの居場所がますますなくなるわ!」

「そんなことになったら、おじさんが自分の体に油をかけだすかもしれない!?」

「あるいは村中に油をかけてまわるかも!?」

「お前たちは油屋の主人をどう思っているんだい」


「ともかく、おじさんの今後と僕たちの小遣いの為にも、おばあさんに協力してほしいんです」

「私達はまだお祭りを見てる側でいるべきよ、火吹き芸なんてやってたらおやつを食べながら歩き回れない。何とかおじさんにはヤル気を出してもらわないと」

 相変わらず兄妹の自分達の欲望に忠実な姿に、呆れる老婆。

(だが……ある意味、火吹き芸の一族とは五百年前からの付き合いともいえる相手だね。こんな形で失うのも惜しいか)

 魔女は椅子から立ちあがると、コートと帽子を持ち出します。

「?」「どこ行くの、おばあさん」

「これと言って解決法が思いつかないからね。ちょっと村を見て回るよ」




 兄妹たちが住む村。

 そこでは来週のお祭りに向けて、村のそこかしこで人々が芸の練習をしていました。

 ナイフ投げの男が、板についた的に向かってナイフを次々と投げています。よく見れば男は両目を瞑ったり、片足立ちや後ろ向きで投げたりしています。

 玉乗りをしている丸い男が道を進みます。さらに相方がその玉乗りの男にボールを投げ渡し、キャッチボールをしています。

 弓を持った男が真上に矢を放ちます。矢は弓の男の頭の上のリンゴに刺さり、男の頭は無傷です。

 魔女は兄妹を連れて歩き、それらを見て回っていました。

(こうしてみると……)

 老婆はしわのある口を引きつらせます。

(火吹き男、本当に昔から何の進歩もしてないね! 他の者達の技は過去よりも進歩しているのに、あの火吹き、全く変化してないよ!?)

「おばあさん」「おばあさん」

 押し黙って歩く老婆に、ついていった兄妹は何か思いついたか聞いてみます。老婆はいくらか歩いて口を開きました。

「……あの火吹き芸人、ここらで消えるのも時代の定めなのかもしれないねぇ」

「そんな、おばあさん諦めないで!?」「このままおじさんがやる気を出さないと、僕達がこれから火吹き芸をやらないといけなくなる!」

「それもまた時代だよ」

「えー?」「うーん、じゃあ仕方ないのかな?」

 油屋の火吹き芸の終了のカウントダウンが鳴り響きます。


 村を進んでいくと逆さまの家がありました。

 その家の前で、一人のおじいさんがキセルを吸っていました。

「あ」「靴屋のおじいさん、こんにちわ」

 兄妹は元気よくお爺さんに挨拶します。

「おや、靴屋の棟梁」

 魔女も笑みを向けました。

「まだ家が昨日のまま逆様なんだね」

「テメェがやったんだろうがぁ!!」

 靴屋のおじいさんが、魔女に殴りかかります。

 それを兄妹が抱き着いて止めました。

「おじいさん、やめて!」

「止めんな、このババアはぶっ殺す!」

「おじいさん、昨日も殴りかかって全身靴墨まみれになってたじゃん、あれ落とすのに時間がかかったじゃないか!」

「うるせえ、離せぇ!!」

 両腕の兄妹を振り回しながら怒る、靴屋のおじいさん。その様子を魔女のおばあさんは笑いながら見ております。

「やだねえ、この暴力ジジイは。ただ一言『きちんと靴を磨けませんでした、すみません』と言えば家は元に戻ると言ったのに」

「やかましいわ! ワシはきちんと仕事しているわ! 貴様の目が腐ってるだけだろう、このクソ魔女が!」

「はん」

 魔女は嘲笑いながら、言いました。

「あんたの仕事がヘボだったからでしょ。思えば、あんたは昔からどんな仕事も中途半端だったわね、ねえ勇敢なる戦士様?」

 その魔女の言葉に、老人はブチりとキレました。


「……殺す」

 両腕の兄妹からするりと、たやすく抜け出すと、おじいさんは下がります。

 そして逆さまの自分の家の壁を殴り、一撃で大穴をあけました。

 家の内側の壁に立てかけていたのであろう、その物体をおじいさんは取り出しました。

 それはおじいさんより大きい、見事な大剣でした。

 その剣をよろめくことなく、背中に背負うように構えると、おじいさんは走り出します。

「!」「!?」 、

 兄妹は二人の間に入って、止めようとします。

 ですがおじいさんは、次の瞬間には姿を消し、おばあさんの目の前に現れました。

 おじいさんは大剣を振らんとします。

 おばあさんはそれを見て、いまだに微動だにせず、笑っています。


 遠くで爆発が起こりました。

 驚き、おじいさんは飛びのいてしまいます。

「はん」

 その様子を見て、おばあさんはおじいさんをますます嘲笑いました。

「剣を振るうと決めたら、何が起こっても振るうべきでは? だからあんたはジジイになっても中途半端なんだよ」

「……だまれ」

 おばあさんは両の掌を叩きます。

 すると逆様だった家が回転し、元に戻りました。中にある物も一切壊れず、そのままです。

 閉まっていた食料品も時が止まっていたかのように、昨日のままでした。

「言っておくけど、あんたが今、殴り壊した壁は直さないからね」

「……」

 手を振るい、おばあさんは爆発の方へと歩きだしました。

 兄妹もおじいさんにぺこりと頭を下げると、おばあさんについていきました。

「……くそっ!」

 おじいさんはその後姿を、ただ見送る事しかできませんでした。




 爆発があった広場に行ってみると、村人たちが集まり騒いでおります。

 その中央には、爆発により起きた煙の中に男が一人立っていました。

 兄妹も人だかりの前の方に行き、様子を見ます。

「あれ?」「油屋のおじさん?」

「……よう、兄妹」

 煙の中には、例の油屋の大男のおじさんがいました。 

 その目にはクマがありました。どうやら一晩中、色々とやっていたようです。


「見ていくがいい、これが俺の」


「進化した火吹き芸だ!!」


 おじさんは両手に2本の木の棒を持っていました。

 口から吹いた火で、その木の棒の先に火をつけ、ぐるぐると振り回します。

 さらに頭に角のついた兜をかぶっており、その角の先にも火が付きました。

 さらにさらに胴体に何本のロープが付いており、その先端にも火が付きました。

 おじさんがぐるぐるとスピンすると、火のついたロープもおじさんを中心に円を描き回りました。

 さらにさらにさらに、地面に埋められていた棒にも火がつき、おじさんを中心に火が立ち上りました。

 おじさんはそれらをしながら、火を口から吹き続けていました。


「これが俺の、先祖代々から伝わる、火吹きの芸だぁああああ!!」


 突然、地面に埋まっていただろう爆弾が爆発しました。

 おじさんを中心に火花が放たれました。

 何もかもが燃え上がり、煙が巻き起こりました。



 数分後、ただ色々と燃え尽きていたおじさんがいました。

「どうだ」


「おじさんは、凄いだろう?」


 その言葉を聞いた兄妹は、つばを飲み込みました。

「うん」「すごい」


 その言葉を聞き、おじさんは不敵な笑みを浮かべた後、地面に倒れました。



「でも」「出来るか出来ないかで言えば」

「お黙りなさい」

 何かを喋ろうとした兄妹の口に、おばあさんの着ていたコートが伸びて口をふさぎました。

(ん!?)(何するんだ、おばあさん!)

「そういえば、事態が解決したら小遣いの半分をくれるんだったかねえ?」

「んー!?」「んん、んんっ!?」

 抗議の声を出そうと、おばあさんのコートを口から外そうとする兄妹。

 その横をおじさんを乗せたタンカが運ばれます。おじさんは安らかな寝息を立てていました。


 一週間後の、油屋のおじさんのパフォーマンスは、観光客も大盛り上がりだったそうです。



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