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第四話 魔女と兄妹と配達妖精

 祭りの日の前日。

 太陽が照る青空の下、森の中を手のひらサイズの物体が、飛び回っていました。

 それは小さな、蝶の羽の生えた少女のような見た目でした。それは妖精と呼ばれる存在でした。

「イヤー!!」

 妖精は追われていました。

 木々を飛び回る兄妹に追われていました。

「お兄さん、右に飛んだわ!」

「任せろ!」

「!? 違う! あれは幻覚、お兄さん、逆だわ!」

「わかってる! 本物を追っている!」

 木の枝から枝を、ジャンプで軽々と飛び渡り、兄妹は徐々に妖精に追いついていきます。


「キャー! イヤー!? ナンデ追イカケルノー!?」

 逃げ回る妖精のその言葉に、兄妹は目がギラリと光りました。

「妖精は人里近くでは希少、滅多に見ない!」

「つまり高値で取引されてる、例え死体でも高額で売れる!」

「羽根から落ちる鱗粉も、貴族の女たちの間で幻の化粧品として売られている!」

「見世物小屋にすれば、高い料金とっても毎日大賑わい間違いなし!」

「イヤアアア!!?」

 妖精は身の危険を感じ、全力で飛びます。ですが兄妹の方が早く、もう少しの距離です。

「お兄さんは右に、私は左から!」

「ああ、できれば生け捕りが良い!」

「ヤー! 誰カ、誰カー!!」

 泣き叫びながら飛ぶ妖精に呼応するように、拳ほどの大きさの石が飛んできました。

 二つの石は木々からジャンプしている途中の兄妹を撃墜し、地面に落としました。

「……何やってるんだい、全く」

 頭をさする兄妹の前に、呆れた顔の老婆の魔女が現れました。




 魔女の家。

 テーブルの周りを魔女、兄妹、そして妖精が囲みます。

 妖精はさきほどの恐怖からか、兄妹から距離を取りびくついていました。

「……ヤダ、人間ノ子供、怖イ」

「人を怖がるのは正しいけれど、その二人は格別だからね」

 魔女は紅茶を飲みながら、兄妹を睨みます。兄妹はバツが悪そうに目をそらしました。


 妖精は魔女に光る石を渡します。

 魔女が光る石をテーブルの上に置くと、より輝く、文字が空中に浮かび上がります。

「ええ、その石、お手紙なんだ」「面白い!」

 兄妹が目を輝かせて、身を乗り出します。魔女は黙って文字を目で追いました。


「ええと何々?」

『……両者の友好の為、あなたにもう一度、お越ししていただきたい。返事を待つ。あなたのま……』

 兄妹が魔女の背中に回り文字を読んでいると、途端に石が割れ砕け文字も消滅しました。

「あー!?」「おばあさん!?」

 兄妹が驚いて老婆を見ます。老婆の魔女は、冷めた表情でした。妖精が呟くように言いました。

「……ヤハリ、来テクダサレナイノデスネ」

「分かってたなら、危険を冒してまで、ここに来る必要はないでしょうに」

「我ガ国ト、アノ国ハ、一触即発ノ状態、止メラレルノハ……」

「言っておくけどねえ」

 魔女は妖精に顔を近づけて言います。

「縄張りを争い殺しあうなんてのは、生物として当たり前の事さ。それこそ微生物から神々までやってる常識だよ」

「……タクサンノモノガ、死ニマスヨ?」

「だから、なんだい? わかってるだろうに」

 魔女の嘲笑に、妖精は沈黙。しばらくして背を向け振り返りました。

「なんなら、魔法で送り返してあげてもかまわないけれど?」

「イエ、結構デス。自分デ、飛ンデ帰リマスカラ」

 そう言って、妖精は飛んで、開いた扉から魔女の家を出て行きました。



 魔女の家を少し離れ、妖精は一人考える。

「サテ、コレカラドウシマショウ」

「なにが?」

 妖精の後ろに兄妹がいました。妖精は驚き、飛び跳ねました。

「ギャアアアアア!?」

「あ、もう、驚かなくてもいいよ。捕まえたり売るとかしないから」

「ごめんなさい。妖精さん」

 ニコニコ笑顔の兄妹に、妖精は少しだけ距離を取り続けます。

「……本当デスカ?」

「うん、ごめん」「うん、本当にごめんなさい」

「……私ニナニカ?」

 兄妹は笑顔で一歩近づきました。

「何があったのか」「僕たちも知りたいんだ」

「……」

 人間の子供に何が出来るのか。妖精は呆れ気味に二人を見ました。

 兄妹はまた一歩と近づきました。

「だから」「教えてほしいな」

「……!?」

 そしてすぐに失敗した事に妖精は気付きました。

 今、ここで逃げてもすぐにとらえられる距離に自分がいる事に気づいたのです。




「つまり妖精さんのいる妖精の国と、隣にある人間の国が戦争しそうだと?」

「ハイ、ソウデス」

 逃げ出そうとした妖精を捕らえた兄妹は、そのまま家へと帰りました。

 自宅の二階の一室は兄妹の部屋になっていました。

 ちなみに妖精はテーブルの上の、布の上に座っています。妖精の鱗粉を集めるためだと妖精は察しました。


「デスノデ、メガ……魔女サマニ、第三者トシテ入ッテモライ、仲介シテ、止メテモライタイト」

「おばあさんに?」

「ああ、おばあさん、凄く強いもんね。二年前も女戦士さんが挑戦しに行って、コテンパンにのされて戻ってきたから。今はここで酒屋を開いてチャンスを待ってるけど」

「……魔女様ハ、人間ノ、弱イ肉体ニナラレマシタガ、ソレデモ、圧倒的ナ力ヲ、モッテイマスカラ」

「そもそも何で戦争しているの?」

「ソレハ」

 妖精は少し黙りました。

「国境ノ、縄張リノ奪イアイデス。ソレニ、アナタタチミタイニ、妖精ヲ売リトバスモノモ、イマスカラ」

 妖精は嘘をついていませんが、嘘をつきました。

 真実を全て言いませんでした。




 家から解放された妖精は、夜空を飛びます。

「アア、危ナイ、危ナイ」

 妖精は月の光をなぞるように、飛び回ります。

「今ハ、私ハ、配達ノ妖精、必要外ノ、事ハシテハイケナイ」

 その目は赤く光っています。

「人間ヲ、マドワセ、マヨワセ、クルワセ、死ニイタラシメル、ソレガ妖精」


「デモ、今ソンナコトシタラ、魔女様ニ、殺サレテシマウ。我慢、我慢」


「魔女様ハ、戦争ニハ、介入シナイ。ソレダケノ、手土産ガアレバ、十分」


「アア、コレデ殺シアイダ、自由ダ、奪イアイダ、嬉シイナァ!」

 クスクスと笑いながら、夜の中を妖精は鱗粉をまき散らし飛んで帰りました。










 次の日。村は朝からお祭りで騒いでいました。

 楽団の集団が、ドラムや笛を打ち鳴らしております。

 様々な食べ物屋が、軒を連ねて料理の匂いや音で客を呼びます。

 ナイフ投げが、壁にくくられ立っている人のすぐ横に、次々とナイフを刺していきます。

 弓を持った男が、同時に三本の矢を放ち的を当てます。

 馬の上で女が逆立ちし、槍を振り回しております。

 火吹き芸の男が、全身から火を放ち最後に爆発しました。しかし無傷で立っています。

 玉乗りが交互に玉を、ジャンプして乗りあいます。

 今日から三日間お祭りの日。城下町や、隣の国からも観光客が遊びに来ております。


 そんな様子を離れた椅子に座り、ぼんやりと眺める老婆がいました。

 森の魔女です。

「……騒がしいのを聞いていれば、多少は眠気もとれると思ったが、年に六回もしているとなるとさすがになれるね」

 魔女は何度目かの欠伸をしておりました。


 兄妹が近づいてきました。

「おばあさん、こんにちは!」「こんにちは!」

「ああ、お前たち。家の手伝いはどうした?」

「食堂? 今は昼のピークも過ぎたから」「祭りを見に行って良いって言われた」

「そうかい、……悪いけど」

「うん、眠たそうだから、二人で回るね」「じゃあ、また今度ね、おばあさん」

「あいよ」

 兄妹が手を振って去っていくのを、魔女は見送りました。



 祭りの音が騒がしく。隅っこでボケっとした老婆を、皆、気にしておりません。

「アノ」

 ゆえにその小さな存在に、手のひらサイズのぬいぐるみが老婆の横にあったとしても、気にする者はいません。

 会話していたとしても気にする者はいませんでした。

「どうしたんだい?」

「……」

 それは昨日の妖精でした。妖精は老婆に呟くように言いました。

 極めて冷静に、込めた感情に気づかれないように。


「昨日ノ夜、我ガ国ノ妖精ノ王ト、人間ノ姫ノ、結婚ガ、キマリマシタ」

「ほーう」

「互イニ行方不明ダッタノデスガ、発見サレタヨウデス」

「へーえ」

「ソシテ、私ノ同士、結婚反対ノ同士タチハ、マトメテ捕ラエラレ、マシタ」

「ふーん」


「ナゼ、介入シタ」


 強い殺意が、その妖精の赤い目に宿っていました。

 しかし妖精は、勝てない事も重々承知でした。

 老婆は欠伸を噛み殺しながら、答えます。


「あんたのミスはね。まず、あの兄妹に話した事だ」

「……ナニ?」

「あんた幻覚を見破られたんだろ? あの子たちに恐怖を感じたんだろ? あの子の、妹の方ね。嘘を見抜けるんだよ」

「……」

「私にもそんな能力があるのではと疑ってただろ? だから、私に対しては争いを止めてほしいと断言しなかった」

「……ア」

「でも妹の方には嘘をついてしまったね。妹の方がすぐに私の家に飛び込んできて、あんたが嘘をついているから、見に行ったほうがいいと言ったよ」

「……アア」

「あんた夜まで、私の家を遠くから見張ってたそうだね。まあ、私も幻覚で騙してたがね。後はワープしてあんたらの国に邪魔をした」


「半端ナ、平和ハヨリフカイ憎シミガ、ウマレル」


 妖精は鬱屈した表情で語りました。

「今マデドレダケ、人間ガ我ラヲ殺シタ。今マデドレダケ、我ラガ人間ヲ死ニオイヤッタ」

「そんな事、微生物から神々までやってるよ」

「柵ヲ作ルベキナノダ、距離ヲトルベキダ、互イニ殺シアエル事ヲ、理解シテカラデナイト」

「あんた、無駄に考え過ぎだよ。世界が滅びるわけでもあるまいし」

「互イノ上位ノ、結婚ニヨル和平? 行方不明ニナッタダケデ、壊レルヨウナ平和デ、ナニガ守レル」

「守れなくてもいいじゃない? その時こそ戦争でもなんでもすれば」

「アナタモダ、魔女ヨ!」


「ナゼ、アノ国ノ隣国ノ、味方ヲシタ! アソコニハ、アナタヲ追イダシタ者達ガ、ソシテ、アナタノ血筋ノモノガ!」

「だから、どうでもいいと言っているだろう」

「ナゼダ、妖精ト人間ノ、異種結婚ニ、自身ヲ重ネタカ?」

「だから」

 ヒートアップする老婆と妖精。だが周りには気にされない程度の音声で言い合っていました。

「アソコノ国カラノ、手紙ナラ、アナタハ拒否シテクレルト、思ッテイタノニ……」

「あなた、よくあそこの国から手紙を受け取れたね」

「私ハ、表面上ハ、人間ノ、味方ヲシテイタカラナ。最モ、同士ガ捕マッタ今、バレテイルダロウガ」

「……あんた、これからどうするんだい」

「故国ニハ戻レナイ。ドウシタモノカ」

「ふらふらしてたら、人に捕まるよ」

「コレデモ、一年前マデハ妖精ノ戦士長ダッタ。最モ和平交渉ノ際、解任サセラレタガ。人間ヲ殺シスギダト」

「人間を嫌いなのかい?」

「仕事ダ。個人的ナ嫌悪感ハナイヨ」

「あんた妖精のくせに真面目過ぎるよ」

「ドウカナ? 妖精トシテノ気楽サモ持ッテイルツモリダ。ソノ気楽ヲ守ルタメニ尽力ヲツクスダケダ」

「そんなあなたに新しい、仕事先がの提案があるんだがね」

「?」


「……少シ、考エテミル」

「ええ、どうぞ。強欲だけど、根は優しい子たちだからね」

「デモ強欲ナンデショ?」

 そう言って妖精は姿を消しました。


「さて、帰ってひと眠りするかね」

 老婆は立ちあがります。

(早い!)

 老婆は殺気を感じ、そしてすぐに椅子に座り直しました。

「やれやれ、ご老体が、あまり無理を為さないように」

 老婆の目の前に鎧姿の髭の男の騎士と、魔導士姿の女性が並んで立っていました。

「足が悪いのですかな? 立ったと思ったら突然、すぐに座って」

「いやあね、どこぞの手癖の悪い女が、ちょっかいを出してきたようで驚いてねえ」

「それはそれは、災難でしたな」

 さきほど感じた殺気は騎士と魔導士の物ではありませんでした、どうやらもう一人遠距離から狙っていたようです。

 老婆はため息をつきました。

「それで、今から私とあそんでくれるのかね?」

「いやいや、ここでは人の目が多い」

 騎士は辺りを見渡した。

「この村にはあなたを殺したがっている村人が多いようですな。ここでやれば私ごと殺されかねない」

 そういって髭の騎士は右腕を胸に頭を下げました。

「いずれ、あなたとはまた後日」

「そう」

「しかし妖精まで見かけるとは、妖精は吉兆の証ですから、今日は何か良い事がありそうです」

 ハハハと笑い、騎士と魔導士は祭りの村に去って行きました。


 その後、兄妹が老婆の元に戻りました。

 老婆は疲れた顔で二人を出迎えます。

「……もう、家に帰りたい」

「じゃあ、ぱぱっと魔法で帰ればいいじゃん」「そう」

「はん、魔力使うのも疲れるんだよ」

「じゃあ、僕達が家に連れて行ってあげるよ」「うん」

「何が狙いだい?」

「別にタダでいいよ。じゃあ、僕が両腕」「私が両足を持つね」

「別にいい」

「じゃあ僕が両足」「私が両腕を持つね」

「歩いて帰る」








 この国の城は、湖に囲まれた大きなお城です。

 その城で女王は、不敵な笑みを浮かべておりました。

「報告を」

「ハッ」

 髭の男の騎士が、玉座の女王に向かって言葉を並べていきます。

「魔導士や研究者、それらの話を総合するに」


「魔女が弱体化しているのは、確実かと」


 女王は立ち上がり、高笑いをします。

「くくくっ、復讐の時は来た。我が祖先の恥辱を晴らす時だ!!」


これ童話か?

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