ほんとどうしてこうなった
明和元年。日本八府十五億人は同じ物を見ていた。何故なら海底伝送路を通して色付き電子映像箱に全く同じ中継が繋がっていたからだ。
場所は赤道直下関門島。
先端の尖った全長百十五目取りのバカデケェ円筒。それが帯野だらけの板に運ばれて鉄塔の横に並んだ。
『ご覧下さい!! あちらに立つ宙船!! これより月の見聞に向かう人工衛星を打ち上げる初めての試みです!!』
ピッチリとした総髪に髪を結った男性報告員が興奮気味に集音器を握って語る。
『陛下も既に将軍と共に御臨席なされ鬼屋や万象館、各地の研究者達が集い見物人は現地で十万にも登ります!!
今から凡そ一時間後に発射されるとの事です!!! 楽しみでなりません!!!!!』
画面が移り変わり小枠に宙船を映しながら撮影場に切り替わった。
『私は幼い頃から起動戦士巌打武など夢想未来物を好んでいましたが、まさか本当に宇宙がるとは思いませんでしたよ』
『先生は生粋の巌打武数奇でしたね』
『ええ。万象館の門を叩いた理由もそれですからね。ははは。
今回の宙船初号機は五つの推進器を搭載しており乗せている人工衛星には電算機奉行の通止回路組頭職のないとう電三郎様の——』
朗々と語るのは国がお墨付きを与えた特急放映局の一つである黒鬼電波、通称鬼電の論話者だ。情報屋として発する情報は信頼できる物で少なくとも間違いが合ったとしても悪意ある物ではなく訂正を徹底している。低級放映局のような斬首刑を受ける局とは隔絶した精度と言葉選びで解説を始めた。
今やってるのは月に人工衛星をブチ上げる実験だ。早い話が宇宙の情報収集である。これは最初の目玉だ。
この後に普通の人工衛星を打ち上げて研究を続け、最終的には月に行こーぜってのが織田幕府の今だった。
そしてカウントダウン。零の言葉を最後に重い重い宙船が轟音と共に空へ飛ぶ。
この日、日本は電波を通して地球を見、月の地表を見る事になる。
だから未だ18世紀だっつってんだろ。
コンバウン王朝によってアユタヤ王朝が滅亡した。それを聞いた今代のオークヤー・リゴールは天を仰ぐ。
「あー宇宙行ってみてーなー」
思いっきり現実逃避である。リゴールは繁栄していた。当たり前だ。
地政良し、軍事良し、政治良し。反映しない訳が無い。また弱体化が凄いがアチェ王国とカンボジア王国を海路で繋ぎ保たせている一大拠点だった。同時にパタニ王国とも融和的に関わっていてジョホール王国などとも遣り取りをしている。
もう既にマラッカ海峡を管理する織田幕府の拠点なのだ。で、そんな場所が情勢不安になったらどうなるでしょうか。
答え。だるい。マジだるい。
先ずはオークヤー・リゴールは敢えて言えば日系アユタヤ人でノリは日本人である。と言うかもうリゴール一帯が日本のノリに染まりつつある。ただ住民のアユタヤ王朝への想いはやっぱし強い。
じゃあコンバウン王朝と戦うかと言われればまた難しい話となる。それは心地良い響きを齎すかもしれないが現実的な話としては無理である。三回くらいなら蹴散らせるだろうが普通に数で負けるのが目に見えてた。アユタヤ王朝を下した国と商業都市リゴールでは規模が違う。そも戦うと言う事自体リスク。
例えば三回でコンバウン王朝を壊滅させられるかもしれんけど、じゃあ廃墟になったアユタヤを治めるか? むり。
何よりギリギリで保っている各国は? 欧州勢力は? 清は? これらの国々はリゴールで戦争が起きた場合、現状維持などと言う甘い話はないと断言できる。
勿論だが最終的には幕府が出てきて最悪は回避されるだろう。だがそうなると高祖父からの努力は如何なるのか。
初代オークヤー・リゴール山田仁左衛門尉長政の孫の日本名は山田仁左衛門休長の孫、即ち曽孫の山田仁左衛門一長は決断した。
「……ベンガル府の感じで幕府に何とかしてもらお」
当時の将軍と大老は呂宋でリゴールからの使者を出迎えてから誰もいない部屋へ籠ったと言う。泊まる人間の身分的に非常に確りした作りの宿所だったが「「何だよぉおもおおお! またかよぉおぉぉおおおお!」」って聞こえたとか何とか。
てな訳で南洋府、設立。ただ既存の八府やベンガル府とも違う物となった。もう府と言う言葉が便利使いされ過ぎだ。
早い話がティドレ国、テルナテ国、琉球国、これらの先例に則り軍事的な保護の代わりに外交権を織田幕府に渡す、独自裁量権が強い宿老国の集まりとなった。
各府の将軍に相当する権帥、大老に相当する大弐もある。だが此処は他の府とは違って各国のバランサー的な彩色が強くなった。また海漕株仲間も南洋府海漕奉行へ管轄される事となる。
リゴール国、カンボジア国、アチェ国が参加を表明して宿老となるが、行政区分ってより国際連盟とかのが近い何かだった。
太平洋赤嶺府田斐丁国はタヒティ諸島では緊張感に包まれていた。最前線のラパ・ヌイ島と言う顔面島で知られる島から所属不明船の存在を通達されたからだ。即座に蓬莱府管轄のモクプニ・オ・ハワイ諸島と連絡を取り合い軽空母と巡洋艦を出して探索を始めた。
めっけたのはタヒティ島出身の田七トウ小頭だ。バカゴツい零戦みたいな戦闘機の通信機を握る。
「こちら小頭田七トウ。件の船を発見。おそらくはイングランド船。先ず間違いなく帆船です。それも木造ですから個人の探索船かと」
『見つけたか!! しかしイングランド? なぜ東から? まぁ良い。帰投せよ。大手柄だぞ』
「有難う御座います! これより帰投します」
さて、このイングランド船舶は名をエンデバー号といった。このエンデバー号の対応をどうするか日本で紛糾する事になる。エスコートすべきかどうかと言う話だ。
何せ太平洋は民間船でさえ石炭を用いる蒸気船だった。なんか最近やたらと血の気が多いイングランドの蒸気船を見せて平気か不安だったのだ。日本には礼儀正しいし見習うべき所も大いにある。だが日本以外には急に武力を伴った対応ややり過ぎ感のある対応が増えてた。
例えとしてアレだが凄い仲良かった先輩の一人が急にタチの悪い不良になっちゃったみたいな。しかも自分への対応は変わんないけど自分以外への対応が急にエゲつな過ぎて若干引いちゃうみたいな感じ。
あと幾ら友好国とは言え秘密兵器とか見せ過ぎるのも如何なのって話である。飯盒船を欲しがるくらいだから出来てても蒸気船だろうが痛くも無い腹を探られるのはヤダ。
だが紛糾した評定にて将軍織田信貞は決然と言った。
「寧ろ欧州みたいに外交官置いた方が良く無い? ある程度腹割って情報交換した方がいいって。たぶんイングランドの自信の出どころ知りたいし」
と、要はコッチの情報を出す覚悟で向こうの情報を得ようと言う話だった。今までは距離や注力すべき事があった為に内側の時点だったが外にも視点を向けるべきだと考えたのである。てかそうしないとベンガル府とか南洋府とかの運営に支障をきたす段階に来てた。
フランシス・ドレーク、ホレーショ・ネルソンと並ぶだろうイングランドの偉大な船長エンデバー号指揮官ジェームズ・クックは白目を剥いていた。
目の前に鉄の城みてぇな何かが浮いていたからだ。第二次世界大戦頃の戦艦に詳しい人には伊勢型戦艦に似た駆逐艦である。ワシントン条約もクソも無いからね。船員もしっかり休めるし魚雷やレーダーいっぱい乗せたいし戦う船から大砲は外せないし。ホントしゃーない。
ただジェームズ・クック的には自分の乗ってる船の七倍近いデカさの鉄の塊が出てきてんだから堪んなかった。
『此方、日本赤嶺府所属艦赤風艦長トウパイア。イングランド船応答されたし』
しかも人がいねぇのに人の声がする。意味不明だった。もう壊血病に効果のある食べ物とか金星の天体観測どころじゃねぇ。
『敵対の意思なければ話し合いを望む』
こうしてジェームズ・クックは最終的に国書を交わす関係を維持していた日本の本土の土を踏む事になる。弾丸列車とか乗って天皇と大君に目通りを果たし日本とイングランドの外交の深化の端緒となった。
欧州では200年ぶりに将軍と、そして初めて簾越しの天皇と言葉を交わした第一人者となったのだ。
日本はイングランド、フランス、イスパノに特使を送り最終的には大使館を建てる事になる。その日本の死者がイングランドに到着するのはジュエームズ・ワットが蒸気機関を発明したあたりだ。
今回の連続更新は此処までです。
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