39.救出作戦
夜。宿屋の中はしんみりとしていました。いつもなら3つある華が一つ欠けてしまったから。
ラプちゃんはベッドに座って俯き、フェネは壁にもたれて腕を組んだままです。
「モノコを助けに行きましょう」
モノコが連れていかれてから何度目かになる言葉。フェネがこっちを見た。
「ダメだ」
これも何度目かの注意。このやり取りだけで今日の半日は終わったと思う。
「フェネ、どうしてそんなに止めるんですか?」
「ここでヴィヴィを行かせたら最悪の事態になる。それだけは避けたい」
「モノコが連れられた時点でその最悪が起こってるんですよ。お願いします」
それでもフェネは頑なだった。フェネならこういう時になったら私がどうするかも分かってるはずなのにどうしてだろう?
するとラプちゃんが顔をあげた。珍しく蝙蝠の羽が揺れてる。
「……ヴィの言う通り今のフェーは少しおかしい。いつものヴィみたい」
ラプちゃん!? フォローしてくれたと思ったら流れ弾飛んでるんですけど!
するとフェネは軽くため息を吐いて一枚の紙を取り出した。
「以前、砂浜で私がモノコ様と話していたのは覚えている?」
「覚えてますよー。そうです、モノコと先約しているのにフェネはいいんですか!」
確かサインまでしていたのをしっかり覚えている。フェネはどうでもよさそうに紙を机に置いた。さすがに気になったのでラプちゃんと仲良く内容チェック。
「あれ、これって」
「……モノのサイン?」
綺麗な字で私達の名前が書かれていた。
「いずれこういう事態になると思ってモノコ様のサインを頂戴しておいたんだ。もちろん私達の名前を添えてもらってね。そうすればモノコ様に何かあった時、面倒な手続きをこれがあればある程度融通が利く。特に今回の一件はモノコ様の父君が関わっているならばその真意を確かめるべきだ。彼のあの様子だとあの書面も正式の手続きで得たのかも怪しいからね」
フェネー!!!
あなたはいつからそんなにてぇてぇな子に育っていたんですかぁ! 私感動のあまりにフェネの胸に飛びこもうとしたけど軽く流されてベッドにドーン。
「……じゃああの時ヴィを止めたのも?」
「あの場で問題を起こせばどうにもならないからね。だから少しだけ演じさせてもらったよ」
フェネは淡々と言うけど、本当にそれだけなのかな。あの時の表情は鬼気迫るというか、本当に何かを訴える目に見えたけど……。
今はいっか。ともかくこれでモノコ救出の手がかりを得たんだし。
「だったら今すぐ向かいましょう。あの野郎、モノコに何するか分かりませんよ!」
清廉潔白な乙女に手でも出したら天使ヴィヴィエルの逆鱗に触れると思え。
「何事にも機というのがある。こんな紙切れ一枚でできるのはたかが知れる。だからその場になって行動を起こすのが一番早い」
「というのは?」
「アッシュ、という男はどうにもモノコ様との結婚を急いてるように見えた。あの様子なら明日にでも式を無理にでもあげるだろう」
「だったら尚更急がないと!」
「今私達は誰かさんのせいで天界から目を付けられているんだよ? 人界の首都は他種族が多く集まる。そんな中でゆっくりしていたらそれこそ面倒になる。だから明日の朝一番にここを出て首都へ行って行動を起こすべきだと私は考える」
わー。フェネがこんなにも誰かのことを考えていて私感動のあまり泣きそう。泣いてる。尊い。
じゃあずっとここで待機してたのもフェネに考えがあってだったんだ~。
でも。
「けれどそれは仮説でしょう? あの野郎の気が触れたら何が起こるか分かりませんし、それにモノコだってあの様子だと何するか分かりません。フェネ、この紙を借りて行きます」
「まさか一人で行く気?」
「この時間だと船はもう出ていないですし、私の翼ならすぐに着くはずです。最悪問題があっても悪者にされるのは私だけなので何も問題ありません」
さすがに人界の揉め事にまで二人を付き合わせるのは悪いよね。そしたらラプちゃんに紙を取られた。
「……わたしは百合信仰旅団に入った。だったらリーダーにだけ任せるのはおかしい」
「ラプちゃん、気持ちは嬉しいですけど今回は本当に危険ですよ?」
「その時は魔界にでも帰る。それにモノには一杯お世話になったし、なによりあいつが嫌い」
「ラプぢゃぁぁぁん! あなたはいつからそんなにいい子になったんですかぁぁぁ!」
全力のハグ~。やっぱり幼女は柔らかい~。えへへ~。
「……死ぬからやめて」
私のソフトのタッチがダメだった!?
仕方ないから手だけ握ります。これならきっとセーフ。
「ラプスはもう少し理性的な判断ができると思ったけど」
「……理屈だけだときっと退屈。感情も大事な判断材料だよ」
「君も相当影響されてるみたいだ」
「……フェーに言われたくないよ」
あれ? 何やらてぇてぇな雰囲気です? 祈ります?
「仕方ない。モノコ様と約束した手前だし、私だけ抜けるわけにはいかない。やぶさかだけど付いて行くよ」
「それでこそフェネです」
善は急げ、百合は最速と言うように宿屋を後にしました。外は真っ暗で海も荒れているのか波が結構激しい気がする。なんとなく2人を見たけど、何も言わない。とりあえず手を差し伸べてみます。
「その手は?」
「えっと。海に落ちたら大変でしょう?」
私は翼があるので当然飛べます。ラプちゃんは一応羽があるけどまだ長時間飛べないだろうし、フェネに至っては絶対無理だと思う。こんな時間にボートでも貸してくれるところがあったらいいけど。
ラプちゃんが私を追い越して海にジャンプした。そしたらなんと海面に立ったのです!
「……水の魔力を調整すれば乗れる」
末恐ろしい子!
残るはフェネだけど……。
軽く靴をトントンとして軽く準備運動してます。いやー、それはないと思うけど。ないよね?
フェネが地面を蹴って走り出した。そしたら海面を……走ってる。うん、走ってる。
思わず目を疑う。フェネは疑わないけど自分の目を疑う。マジ?
「獣人って皆こんなことできるの?」
「私も気になります。ラプちゃん聞いてくださいよ」
「ちょっと待って。フェーもうあんなところにいるよ。急がないと」
「フェネー! 待ってくださいー!」
まるで振り返れないと言わんばかりに全力疾走しています。これ絶対に足を止めたらドボンするやつ。とにかくこれで行けそう、なのかな?
モノコ、すぐに迎えに行くので待っていてください。




