ド田舎乙女の夏
この世の果てとでも言いたい田舎に生まれた私。都会への憧れを持ちつつ行くことはないと思っていた。
まさか、都会のほうがやってくるなんて!
最初は領主様のお嫁さんだった。これぞお姫様という麗しき白い肌。扇の扱いも手慣れたもの。笑い方も清楚から豪快まで使い分ける。
とんでもないお姉様がやってきた。すぐに女の子で集まって、お姉様にどうやって近づくか会議した。
幸いお姉様は気安く私たちにも声をかけてくれ、オババたちや母たちともぎこちないながらも交流してくれた。
領主様はお姉様にあまり興味がないように見えたのだけど、恋愛の専門化を自称する従姉のお姉ちゃんはあれは脈アリよ! と興奮気味に言っていた。
大人、よくわかんない。
まあ、おめぇらがそうやって騒ぐから領主どんも困ってんだぞと釘刺されてたけど。
お嫁様も新しいところに来て大変なんだから余計なことすんなよと私も流れ弾を食らった。
老人会もなぁとぼやいていた先は聞こえなかった。
まあ、ジジババは、ね。ここには超絶わがままで超絶技巧を持ち合わせた中高年がいる。温泉療養にきて居座った。人数制限でもあるのか、30人は超えない。
時々定住したいという人もいるが、入村したい? 誰かがぽっくり逝ったらというブラックジョークで追い返される。当事者が言うのだから微妙な顔で愛想笑いするしかない。
冗談、だよね。という確認はとれない。
もちろん普通のジジババもいる。私の祖母はまだ猟師しているし、私の師匠だし。
さて、お嫁様がやってきて、ドレスブームが始まり、淑女の振る舞いとは講座が開かれるようになった。このド田舎で淑女とは、という一部親父どもには不評だった。
それも自分の娘が可愛いドレスを着ておとうしゃま、とにこにこと笑うまでのこと。ちょろい。
こ、この可愛い子を絵にしてくれと画家の家には長蛇の列ができたとか……。親ばかか。
そこに自分のところの父親がいた、というのは見なかったことにした。親ばかだな……。
それにしても肖像画とは、都会だ。普通こんな辺境に画家なんていない。まあ、いるけど。
当の画家は落書きだよと書き散らしていた。そこにいたのは私史上、一番可愛い私だった。衝撃を受ける女子。
以後、画家は崇められることに。だから、人物画は嫌なんだよっ! って騒いでたけど。
それから結婚式のドレスの選考会があったり、会場はどのようにするか、出し物はいるのか等忙しく決める。その隙間にあるのは収獲準備だ。
いつもは猟師している私だけど、この時期だけは畑仕事に駆り出される。
冬に植えた小麦が収獲されるのがこの時期だ。ついでにカブも抜かされる。なんでも同じ植物を続けて植えるとうまく育たないので別のものを植えるんだそうだ。
他にもかぼちゃやイモ類もあるんだけどこっちは越冬のための備えだ。夏の夏っぽい野菜も同時期にやる気を出すし、それの加工もして冬に備えなきゃいけないし。
さすがにこれにお姉様は駆り出されないと思ったんだけど、しっかり、労働させていた。いいの? お姫様だよ? と思ったけど、鎌の使い方が手練だった。領主様には初めてなのですけどぉと言っていたが、絶対違う。少々視線が泳いでいたし。
そういえば、私の猟銃も少し古いですけどいいものですわねと言っていたような? 祖母と山に設置してた罠について話していたな。物珍しいのかと思ってたけど、専門的な話だったような……?
……。
お姉様は淑女ですし。淑女はなんでもできますし。
そういうことで!
収獲に追われるままに過ごしている、そんなときに援軍がやってきた。
お姉様の弟が予定を前倒しでやってきてくれたのだ。収獲の手助けとして!
一人ではなく、ご同僚とも一緒でそれは快哉で迎えられた。さらにお姉様のご友人からの手助けもやってきて、例年よりもずっと楽にこの夏の収獲は終わりを迎えそうだった。
問題なく過ぎ去ったように思えるこの収獲だったけど、一つだけ問題があった。
お姉様が、結婚式の主役が、めっちゃ日焼けしていたのである……。
ド田舎のドはドラゴン級のド。




