第15話 ミルクティー 2杯目。
「ねえ、、ルーカス、あなた、、時々、お砂糖なしで飲むわよね?」
聞こう聞こうと思いながら、なかなか聞けなかったことを口にする。
「・・・・え?」
「あ、、、いや、、いつもはお砂糖3つでしょう?時々、、、要らないって、言うわよね?なぜ?いや、、、まあ、、好みなんだから良いんだけどね、、、お砂糖要らないルーカスは、なんか、、、違う人みたいで、、、」
「き、、、来たんですか?ここに?」
「え?」
質問の意味が、いまひとつわからない。
ルーカスは黙って、考え込んでしまった。手を、、、握りしめている。
「今日は寒いからミルクティーなの。お砂糖入れていい?」
「・・・・・」
「あ、、、」
急に立ち上がったルーカスにお盆がぶつかってしまった。
こぼれた紅茶が、スカートを伝って、左足に落ちる。
「・・・・!!」
慌てたルーカスが、私を横抱きにして、風呂場に走る。溜めてあるたらいの水に、靴も靴下も脱がせて突っ込まれる。スカートも綺麗に拭いてくれた。
「大丈夫よ?びっくりしただけ。」
「・・・あ、、跡が、残ったら、、、」
しばらく横抱きのまま足を冷やし、、、それからゆっくり、席に連れていかれる。
慣れた手つきで、こぼれた紅茶とカップを片づけて、タオルを持って戻った。
足の下に一枚。窓を開けて、雪を掬ってタオルで包んで、足の甲にあげてくれた。
濡れた足を拭いてくれる、、、、結構、恥ずかしい、、、
「もう、大丈夫よ?」
「・・・・・」
「・・・ルーカス?」
「・・・なんで、、、あなたの、、、踵に、、、」
「ああ、やけどじゃないわよ?小さい頃からある痣なの。気にしないでね。」
「・・・なんで?この、、、、飛び立つ鳥、、、、?」
「え?」
「あ、、、あなたは、、、、誰ですか?」
顔を上げたルーカスは、、、困ったような、、、泣きそうな顔だった。
*****
「帰るんですって?急ね?国元で何かあった?あら、今日はこげ茶の髪なのねえ、、、随分、雰囲気替えたわね、、、下町の女の子風、ね?」
クローズの看板を出したまま、荷物を片づけているとマリエスが来てくれた。
こげ茶の髪に、ワンピース。動きやすいから。ほぼ、、、すっぴん。どうせ汚れるから。
「ええ、、、ちょっとね、、、」
「ははーーーん、、、痴情のもつれ?とか?あの年下彼氏?」
「・・・・・」
「え?図星なの?そうかあ、、、、ルーカス君、って言ったっけ?その年頃の貴族令息に、銀髪のルーカスって子は、いないのよ。庶民かもよ?」
さすがの私にもわかる。所作が、違う。
「まあ、あなただって、庶民を語るには、美しすぎる所作だわよ?自覚ある?」
「・・・・・」
「あら、ブルクハルト卿直々に、いらしたわ。引っ越しのお手伝いかしら?うふふっ、、、」
いかめしい顔とは裏腹に、そっとドアを開けて入ってきた彼は、マリエスに気が付くと、深々と挨拶した。マリエスもにこやかに返す。
「いつも、、、これを気にかけてくださって、、、感謝しております。」
「まあ、、、だって友人ですもの。」
そう言って、マリエスが笑う。
向き直ったブルクハルト卿が言いにくそうに言う。
「マリー、、、帰れなくなった、、、ルーが、、、お前を探している。王城に私と行こう、、、少し、、、、錯乱している、、、、」
「・・・・・!!」
「あら、、、早く行きなさい、ローズマリー、、、、かつらは取っていきなさい。いい?何があっても、私はあなたの友達よ?」
*****
僕は、、、困惑していた。
あの、ミュールを履いた侍女、、、、
キンモクセイの香りをまとった少女、、、
探していた踵を持った、のは、、、、ローズ、、、、?
あの別荘、、、あの花、、、、いつも冷たかった僕の手を温めたのは、、、、
あの木から降りてくる、白い踵に、飛び立つ鳥、、、
誰だったの?
僕の手に鞭を下ろしたのは、、、誰?
痛い、、、暗い、、、寒い、、、、もう、、、無理だ、、、、、
完璧ならいいの?そうしたら、、、許されるの?
僕の髪がいけないの?切ればいいの?そうしたら、、、許されるの?
もう、、、、無理だ、、、、
誰も、、僕を、、、、許してくれない、、、、