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希少鉱石

 目を覚ました。

 体を起こしてみるが、どうやら死んではいないようだ。

 だが、なぜかとても体がだるく感じている。

 おかしいな、人形の体に疲れなんかないはずなんだが……まぁ、別にいいんだけど。


 一応、時計機能で現在の時間を確認する。

 午前7時。この辺は前の世界基準なんだろうか。

 だが、日付がかなり進んでいた。

 一日二日なんてものではなく、半年も進んでいたのだ。一体、俺が寝ている間に何があったのだ……。


 俺はなぜか重くなった体を引っ張り、何とかベッドに腰掛けた状態に移る。

 部屋の中に置いてあった財宝も、いつの間にやらどこかに消えている。まぁ、ヴェイグさんかヒメユキが使ったならば、文句はないけど。

 そのまま腰掛けた状態で、だるい体に慣れようとしていると、扉がノックもなしにいきなり開かれた。


「何してるです。さっさと降りてこいです」


 現れたのは、ヒメユキだった。

 半年も経ったせいか、少し身長が伸びただろうか? こどもの成長って早いねぇ。


「ああ、悪い。すぐに行く」


「……調子悪いです?」


「人形に調子も何もない。ちょっと重く感じているだけだ」


 ヒメユキに心配されるようになるなんて……マジでこの半年、何があった?

 ヴェイグさんが説得してくれたのか、はたまた俺の記憶が綺麗に消されているのか。

 ……人形に限って、後者はないな。まぁ、あとでヴェイグに訊けばいいか。


「人形なら、ご飯は食わねえです?」


「ああ。必要ない。どこか行くのか?」


 ようやく、なぜヒメユキが部屋に来たのかわかった。

 ヒメユキの装備は、初めて見たときと同じオーバーオールだが、その手にはつるはしが握られている。

 採掘にでも行くのだろう。それで、俺を呼びに来た、と。


「アダマンタイトを取りに行くです。ヴェイグさんからようやく許可が出たです」


「ん、了解」


 アダマンタイトねぇ。さすが鍛冶屋……というよりかは、異世界だろうか?

 まぁいい。ついて来いと言われて拒む理由はない。

 仮に置いて行かれたとしても、後を付ける所存ではあったが。

 立ち上がり、ふらつく足に注意しながら歩く。


「つるはし、持つよ」


「ありがとです」


 随分と丸くなってくれたよう?

 こちらとしては、邪険にされないだけ嬉しいが。


「残念ながら、ワープ機能は『エルフ』にはない。歩いて半日ほどかな?」


「は? 何を言ってやがるです? アダマンタイトの取れる鉱山は、もっと遠くです」


「え? でも、この近くの鉱山でも掘れるらしいけど……」


「……それ、本当です?」


「人形の事前知識みたいなものだからな。嘘ではないと思うが……」


 マニュアルには一応、この世界についても書かれていた。

 希少鉱石に関しては、人形のアタッチメントの作成に必要だから載っていたのだが、間違ってはいないだろう。

 仮にもこの世界の神であるアテナが設定したマニュアルなんだろうし。


「……まぁいいです。そっちにも、必要な鉱石はあるですから」


「んじゃ、先にそっちに行こう」


 ヒメユキと一緒に一階におり、かまどの前で何かを作っていたヴェイグさんに一言言ってから店を出た。



☆☆☆



 やってきたのはマオリ鉱山。マリオネの町から一番近い鉱山で、馬車で片道6時間程度。

 マニュアル通りならば、この鉱山の少し深いところでアダマンタイトがとれるはずだ。


 坑道の入り口には、数多くの採掘者でにぎわっていた。

 その中には、スカーレインの向かいの店の店主もいた。あいつも採掘に来るのか。

 絡まれても面倒なので、気付かれないように認識遮断の外套のフードを深くかぶりながら坑道へ入る。


「なぁ、ヒメユキ」


「ヒメでいいです。ヴェイグさんもお父さんもそう呼ぶです」


「ありがと。……んで、ヒメ。俺の部屋にあった財宝はどうしたんだ?」


「あ、あれは……」


 部屋に出しておいた財宝について訊くと、途端にヒメが口ごもった。


「いや、ヒメやヴェイグさんが使ってくれたなら、別に文句ねえんだけど」


「そ、そうなのかです。使えそうにないものはすべて換金したです。鉱石類は、ヒメとヴェイグさんで使うです」


「わかった。盗られたとかじゃなくて安心した」


 仮にもクラウスが第一発見者だからな。盗ったら取り返さなければいけないところだ。

 俺はヒメのペースに合わせながら、坑道を進んでいく。


「そういや、アダマンタイト以外で欲しい鉱石ってのは、何なんだ?」


「ヒヒイロカネやミスリルです。どれも貴重です」


「ふぅん。在り処ってのは、どうやって見つけるんだ?」


「長年の勘です。こう見えても、ヒメは小さいころからヴェイグさんに連れられて――」


「あ、ヒメ。そこ掘ったら出てくるぞ」


「……本当です?」


 言葉を遮られたのが気に食わないのか、少し俺を睨み付けてきながらも、俺の指差した方へ近づいていく。

 ヒメにつるはしを渡すと、慣れた手つきで掘り始めた。

 数回たたくと、ガツッというような音が響いた。


「それがヒヒイロカネだろ?」


「ウソ……」


 出てきたのは、確かに少し赤色をした鉱石だ。鑑定スキルで見ても、ヒヒイロカネと出る。


「ど、どうやったです!?」


「どうやったって……これ、人形だから、いろいろとわかるんだよ」


「ず、ずるです! ずる使いやがったです!」


「なぁ!? ずるじゃねえよ! 俺の体だもん!」


「ずるです! ヒメの勘が負けるなんて認めねえです!」


 結局そこかよ。負けず嫌いだなぁ。

 ホントこの体は歩いているだけで必要以上の情報が視界に映るのだ。見るなって方が無理だ。

 それに今回の目的が鉱石の採掘で、一番の目的がアダマンタイトだと知っているのか、矢印まで出る始末。

 これじゃ、熟練者顔負けの成果をあげられる。




 その後、アダマンタイトの掘れる層まで潜り、いくつか採掘してから鉱山を出た。

 日はすっかり落ちてしまい、今日はここで野営することに。とはいえ、明日も採掘はするつもりらしいが。

 まぁ、こういうことがあるから、ヴェイグさんはヒメに俺を付き添わせたのだろう。

 テントを張り終え、中にヒメが入る。俺は外で見張りだ。


 この世界は、野営の際に気を付けるべきことは盗賊と野性動物だけだ。

 地上に魔物はいない。というのも、魔物は魔素を食って生きているようなもので、地上では魔素の濃度が薄すぎて生きていけないらしいのだ。

 唯一、地上でも魔物が動いているとするならば、それは十傑作の第7番『ズィーベン』の【魔物使役】によるもの。

 ズィーベンは契約者の魔力を分解して魔素に戻し、それを魔物の周りにだけ散布する。そうやって地上でも魔物が生きられる環境を作り上げるのだ。


 俺はテントの外で胡坐をかき、やはりすることがないのでマニュアルを読み返す。

 そうやって夜を明かした。




 翌日、まだ数が足りないとかでアダマンタイトの採掘できる層まで潜る。

 ここまで深く潜っても、本当に極一部からしか採掘できないため、人形の探索か熟練者の類稀なる勘がなければ、ここまでくる採掘者はいない。

 つまり、取り放題だ。


 ヒメは希少な鉱石が出るたびに目を輝かせ、掘れた鉱石はすべて俺の四次○ポケットへ。

 どういう仕様かは知らないが、アイテムボックスの上限が見えない。

 あまり詰め込みすぎると動きに支障が出るのかと思いきや、そういうわけでもない。

 本当に便利だ、人形の体。……一生童貞さえ認めてしまえば。


「ヒメ、今日帰るならそろそろ切り上げないと、馬車が出るぞ」


「わかったです」


 俺の指摘に、ヒメは渋々ながらも採掘をやめ、上へと目指す。

 その時、俺の気配察知に引っ掛かった。

 ……どうやら、騎士団長らしい。第5番『フュンフ』らしき人形の反応もみられる。


 認識遮断の装備のおかげで、人形の気配察知にはアテナの人形とは映らないはず。

 よくてちょっと出来のいい人形程度だろう。

 普通にしていればばれないはずだ。


 しかし、何が目的で騎士団長様がこんな鉱山に来ているんだ?

 王様からの命令とか? ……王様が鉱石欲しがるか? 普通。しかもそれに最大戦力である騎士団長を使うのか?

 俺を探しに? でも、気配察知には映らないだろうし……。


 ごちゃごちゃと考えている間に、騎士団の集団が見えた。

 そのうちの一つから、人形の反応が返ってくる。『フュンフ』だろう。


「こっちです。頭下げろです」


 ヒメに、坑道の脇に引っ張られ、頭を下げさせられる。

 騎士団が通るときは、必ずすることなのかもしれない。実際、他の採掘者も頭を下げている。


 正面から多くの規則正しい足音が響いてくる。

 が、そのうちの一つ。人形が足を止めてこちらを向いた。

 それに合わせ、騎士団の動きも止まる。


「……お前」


 人形に問いかけられるが、反応を返さない。


「名前、何?」


「……」


「製作者、誰?」


「……」


 質問には全部答えない。

 機械的な声が出るとは思えないし、普通の喋る人形の真似もできるわけがない。

 途中、この鉱山でも人形を連れている者はいたが、喋っているところを見たことがない。

 喋らなければ、その程度の人形ということになる。


 ヒメが助け船を出してくれるかとも思ったが、どうやら騎士団には話しかけてはいけないようだ。

 他の採掘者も、何事かと頭を下げたままこちらを見ている。


「……勘違い。進行止めて、すまない」


 やがて人形がそういうと、また騎士団が歩き出した。

 完全に去ったあと、頭をあげて騎士団の後ろ姿に舌を出す。バカめ。


「性格捻じ曲がってるです」


「これくらいいいだろ」


 ヒメのお小言をもらいながら、坑道を出た。

 そのままマリオネ行きの馬車に乗り込み、日が暮れるころ、ようやくスカーレインへと到着した。

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