表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【日刊上位ランクイン】チャネリングしたら宇宙船の美少女艦長に繋がったので、ブラック企業を辞めて人生を取り戻すことにした  作者: ハイカラな人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/76

34

 深夜。


 恒一はベッドの上で、スマホのメモに今日の整理を書いていた。

•先輩案件継続 2万円

•会計事務所案件 新規 4万円

•同時二件進行開始

•稼働上限の管理が必要

•紹介経路が有効


 数字にすると、まだ小さい。

 だが、ゼロではない。

 しかも連続している。


「……短期間で成功の兆しって、こういう感じかもな」

『現時点では、妥当』

 ルイゼが言う。

「不確実な点は?」

『再現性。あなたの体力。品質の維持』

「うん」

『不明な点は、外部からどう見えるか』

「外部?」


 ルイゼは少しだけ黙った。


『紹介で仕事が増えるのは自然です』

「うん」

『ただし、増え方が速いと、元所属先や周辺が違和感を持つ可能性があります』

「……」


 元所属先。


 レグナント・ソリューションズ。


 堂本が落ちかけ、恒一が辞め、その直後に小さく仕事を取り始める。

 普通なら、別に変ではない。

 だが、早さと内容によっては引っかかる。


「まだ大丈夫じゃないか?」

『現時点ではそうです』

「でも?」

『成功が続けば、“あの相馬が?”という反応は出ます』

「……嫌な言い方だな」

『現実的な言い方です』


 たしかに、と思う。


 会社での自分は、消耗していた。

 目立たない。

 使い潰される側。

 そういう見え方をされていた。


 そんな人間が、辞めてすぐに複数案件を回し始める。

 それは、見る人によっては違和感になる。


「……まあ、まだ先の話だろ」

『はい。ですが、認識しておく価値はあります』

「分かった」


 そこで話が切れたかと思ったが、ルイゼの方から少しだけ別の波が来る。


 疲労。

 しかし、今日は少し違う。

 疲れてはいるが、張り詰め方が薄い。


「お前、今日は昨日よりましだな」

『分かりますか』

「なんとなく」

『補給配分の件が一段落しました』

「そっか」

『その代わり、別の問題が増えましたが』

「台無しだな」

『艦ですので』

「万能ワード!」


 思わず笑う。


 その笑いのあと、ふと、恒一は訊いた。


「お前の星の仕事観って、どんな感じなんだ」

『急ですね』

「いや、今日、会計事務所の人と話してて思った」

『何を』

「地球って、仕事で人を壊しすぎだなって」

『……』

「そっちはどうなんだ」


 少し間が空く。


『私たちの側では、“役割”はかなり強いです』

 ルイゼが言う。

『任務は重い。規律もある。失敗の代償も大きい』

「うん」

『ただし、損耗を放置することは無能の証明に近い』

「……」


 その一言は重かった。


『壊れるまで使うのは、効率ではなく、管理失敗です』

「……」

『少なくとも、私たちの艦ではそう扱います』


 静かな言い方だった。

 でも、強かった。


 恒一はしばらく天井を見つめる。


「……いいな、それ」

『良い面だけ見れば、です』

「悪い面もある?」

『もちろん』

「例えば?」

『役割から外れることへの恐怖は強いです。期待も重い』

「……ああ」

『あと、私たちはあなた方より、感情の共有が深い分、隠しきれない弱さもあります』

「それ、結構きついな」

『きついですね』


 その“きついですね”が妙に人間くさくて、恒一は少しだけ笑った。


「じゃあ、お互い別方向にしんどいんだな」

『そうなります』

「綺麗な理想郷じゃないのは、ちょっと安心した」

『幻滅ですか』

「いや、近くなった感じ」

『……』


 向こう側で、何かが少しだけ柔らかくなる。


『それは、良いこととして受け取ります』

「受け取っとけ」


 部屋は暗い。

 静かだ。

 でも、孤独ではなかった。


     ◇


 翌朝。

 恒一はコンビニへ行く途中、見覚えのある背中を見つけて足を止めた。


 三島だった。


 私服。

 コンビニの前で缶コーヒーを買っている。

 向こうも気づく。


「……相馬?」

「おはようございます」

「いや、もうおはようございますって感じじゃないか」

「無職です」

「個人事業準備中じゃなかったのかよ」

「なんでその言い方知ってるんですか」

「篠崎さん経由」


 狭い。

 本当に狭い。


 三島は少しだけ笑って、缶コーヒーを持ち上げた。


「元気そうでよかった」

「そっちは」

「堂本いないだけで空気違う」


 やっぱりか。


「正式処分は?」

「まだ。でも戻らないと思う」

「そうですか」

「あと」


 三島が少しだけ言いにくそうにした。


「お前、なんか仕事始めたんだって?」

「……小さいのを少し」

「早いな」

「紹介で、たまたま」

「へぇ」


 その“へぇ”が、少しだけ引っかかった。

 悪意ではない。

 でも、軽い驚き以上のものがある。


 違和感。

 たぶんそれだ。


「まあ、まだ全然です」

 恒一は先に言った。

「単発の整理仕事が少し来ただけで」

「……そうか」

「会社勤め向いてなかったのかもしれません」

「いや」


 三島はそこで言葉を切る。


「向いてなかった、だけでもない気がする」

「……」

「お前、潰れてただろ」


 その言い方は、妙に真っ直ぐだった。


 恒一は数秒、返事ができなかった。


「……まあ、そうですね」

「今の顔の方が、だいぶ普通だ」

「普通の基準ひどくないですか」

「前がひどかったからな」


 それは否定できない。


 三島はそこで話を切り上げた。

 だが、最後に一つだけ付け加える。


「会社の中でも、お前のことちょっと話題になってる」

「……は?」

「悪い意味だけじゃない。でも、“辞めてすぐ何やってんだ”って感じ」

「……」


 来た。


 まだ小さい。

 でも来た。


「別に変なことはしてないですけど」

「知ってる。ただ、急に元気になると、人は勝手に裏を想像する」

「最悪だな……」

「まあな。でも、気をつけろよ」


 三島はそう言って去っていった。


 恒一はその場で、缶コーヒーを持ったまま少しだけ立ち尽くす。


 妥当。

 不確実。

 不明。


 ルイゼの整理が頭に浮かぶ。


『判定しますか』

 ルイゼの声。

「してくれ」

『妥当。元勤務先であなたの変化が話題になること』

「うん」

『不確実。それが監視や介入に繋がるか』

「そうだな」

『不明。誰が、どの程度、興味を持つか』

「……」


 朝の空気が少し冷えた気がした。


 成功は、まだ小さい。

 小さいからこそ、露骨には見えない。

 だが、小さい異常の方が、身近な人間には気づかれやすい時もある。


「……気をつけるか」

『はい』

「でも、止まらない」

『それで良いと思います』


 その一言に、恒一はゆっくりと息を吐いた。


 怖さはある。

 でも、今はもう、前に進む方が大きい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ