18話
深呼吸を2度、切り替えた頭で思考を回す。
多目的個人戦術艤装:Personal Tactical Rig ——
通称P.T.Rを端末で格納する。
「俺が周りの警戒をする、メアリはヴィオラの側で近接防護だ」
カメラマウントからの情報をバーチャルビジョンへ投影。
最適なルートを選ぶ。
「空輸で良かったな、上空から視界がとれる」
独り言のつもりだったが
「空輸?やっぱりユウキは空を飛んできたのね?」
騎士団が加勢してるとはいえ、切迫した戦況でこの姫様は呑気である。
女騎士様は少しぎこちない。
怖がらせてしまった。
「おら、無駄話してるとバケモノが来るぞ、移動移動」
「むぅ…後で聞かせてね?」
「ヴィオラ、私の背中から出ないで、攻撃が飛んできたらすぐに隠れて」
お互いに声を掛けて前進する。
(1匹たりとも近づかせはしない)
空撮からの情報は市街撤退には最適だった。
時にはやり過ごし、どうしても接触が必要な場面では先制が出来る。
「布が邪魔だな……」
構えたPDWは消音効果を最大のセットに変更してある
視界を遮る布だけを狙って撃つ。
「本当に静かな武器ね?」
「隠れて撃たれたら私でもわからないかも」
「見つける方法はいくつか有るから無敵って訳でもないけどな」
「…………」
「どんな方法が有るの?」
戦いに従事するメアリは聞いてこない。
一方でヴィオラは無邪気に聞いてくる。
昨日までのメアリなら聞いてきただろうか。
努めて気付かないフリをする。
「阿呆か、教えねぇよ」
「あほう?……えー、いいじゃない」
「ユウキもヴィオラも緊張感が欠けてるわ?」
「お姫様と一緒にすんな、これは余裕ってヤツだ」
「そう?じゃあ止まってる足を動かして」
呆れ声のメアリに軽口で返す。
だんだんと調子が戻ってきた。
曲がりくねった裏道を通り、無事に城の前へ到着する。
「聖女様!ご無事でしたか」
帝国兵が合流した事で安全性がより確保される。
(俺ならこの弛緩した瞬間を狙う)
「どうしたの?ユウキ」
相変わらずぽわぽわとしたヴィオラを視界から離さず、メアリに警戒を促す。
「メアリ気をつけろ、何か仕掛けてくるぞ」
緊張のレベルを数段上げる。
そして
ヴィオラが地面に沈んだ
あっという間の出来事に反応が追いつかない、何が起こったのか脳が処理する前にヴィオラが消えた。
この事態に即応したのはメアリ、一瞬のアイコンタクト。
そしてヴィオラを飲み込んだ影に自身も滑り込ませた。
「影、あぁクソッ!そうだ影だ!!」
固定概念が邪魔をして敵は強襲をかけてくるモノと思い込んでいた。
「最初からタイミングを狙ってやがったな!」
ダメ押しとばかりに建物から這い出す異形達。
P.T.Rはクールタイムで使えない、電磁爆雷銃も単体には強いが複数だと撃ち漏らしと反動が怖い。
「仕方ねぇ、おいお前!名前は?」
近くの隊長っぽい帝国兵に尋ねる。
「え?あっ…ハイ!自分はニコルといいます」
声が若過ぎて一瞬間違えたと思ったが、横から歴戦の兵士みたいなヤツが名乗り出る。
「ニコル隊長は魔道士です、作戦指揮も取られる方であります」
「ヨシ!お前は軍曹、ニコルは隊長な?魔道士は何が出来る」
「ハッ!隊長は我々の身体強化の術を使われます」
「効果は?」
「最大で15分です」
頭の中で素早く作戦をまとめて伝える。
「今から剣を出す、雷を纏った武器だ、隊長は軍曹達に強化を、バケモノの動きは俺が止める」
「わかりました!」
「了解であります!!」
デバイスを操作、ゲーム内武器のサンダーエッジを7本、使った事は無いが魔法使いの杖を一本出した。
「こ、これは?」
「これを使え、魔力の増幅ぐらいにはなるだろ、軍曹!隊長を囲む陣形で1匹づつ確実に」
「貴様達!隊長を囲むように並べ!私が先頭だ、わかったか!」
「「「ハイ!わかりました」」」
流石の練度なのか、よく通る軍曹の声のお陰か、混乱は最小限で連携がとれた。
「軍曹、俺の事は気にせず堅実に頼む」
「了解であります!」
言うとPDWを消し新たに銃を出す、PDWと違いこちらはファンタジー感満載のデザイン。
「ファンタジーの銃は苦手なんだが!」
銃の下側に取り付けられたグレネードを打ち出す。
狙ったのは異形達の足元。
弾頭が爆発すると異形の足は地面に固定された。
「アイスグレネードな〜、熱力学が気になるな釣り合ってんのか?」
矢継ぎ早に迫る異形を止める
「氷は効いたもんなぁ?軍曹、コイツらには核が有るらしい切るより突いて雷撃を浴びせろ」
剣で異形の身体を通過させるより、複数人で電極のように使わせる。
「効果あり!効果ありです」
ニコルの言葉に企みが上手くいった事を確信する。
「数は多いが集中をきらすなよ!」
檄を飛ばす軍曹に一瞬の懐かしさを感じた。
そうこうしているうちに、騎士団が合流。
熊こと聖騎士テオによって瞬く間に駆逐された異形達。
光を纏う大剣は文字通り異形を塵にしていく。
「あんなに苦戦した化け物があっさり……」
騎士団にも強化魔法をかけたニコルは地面に倒れ込む
「あんたの所の隊長は偉く優秀だな?」
都合、十数名に強化魔法をかけて喋れるとは思わなかった。
「いえ、隊長殿は普段、我々に強化をすると寝込まれます」
不思議そうに言う軍曹。
「確かに、強化魔法は我々でも使い手の少ない希少な存在、皇帝陛下がこのような奥の手を持っておられたとは」
熊も感心している。
「さて、姫様をどうやって救い出すか…メアリが無事なら何かしらの反応があるはず」
「この影は現実世界と隔絶した言わば別次元、お互いに干渉できません」
「????パ、パメーラ!?何でここに、いやいつから」
「ほほほ、最初からいましたよ?それよりユウキ様何か便利アイテムはありますか」
上品に口に手を当て笑うパメーラ。
「くそっ、今は後回しだ、別次元……次元か!!」
ユウキの世界でも次元を超える手段はない、しかしファンタジーモノのゲームであればポピュラーな設定。
あの胡散臭いヒゲもゲーム内のモノを現実にする力だと言っていた。
デバイスを操作し一振りの刀を召喚する。
「アレ?これって……」
「おい、何で知ってやがる」
「おほほほほ」
「こいつ…まぁいい、[蒼月刀]確か技の中に次元斬が……」
しかしユウキがいくら振っても効果が無い。
「ユウキ様、もしやMPが足りないのでは?」
「遂にMPとか言い出しやがった、隠す気あんのか?」
「貸してください」
「…………ほらよ」
「重さも感触もホンモノみたい……では!」
自分で振った時と違う、明らかにエフェクトのようなモノが出現し空間に裂け目ができる。
「ユウキ様が来た世界の住人には魔素を扱う素養がありません」
「ほう?詳しいじゃねーか、今すぐ尋問したって良いんだぜ?」
「そんな時間はありません、でしょう?」
「………………他に情報はあるか」
「魔素を扱う素養……めんどくさいので魔力とします、がユウキ様にはありません、本来ならこの世界にも存在していられない」
「ヒゲのやつが何かしたって事か」
「別次元でも[それ]は発動するでしょう」
「おい、それってヴィオラ達は」
「ヴィオラ様は聖女、神に1番手厚く防護されています、むしろ心配なのはメアリス様だけ」
「チッ…後でこってり絞ってやるからな」
まるで捨て台詞のようだと自分でも思いながら急ぎ裂け目へ飛び込むユウキ。
裂け目は音も無く閉じてしまうのだった
非常にスローペースでの更新になります
申し訳ありません




