表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/19

16話

雲一つ無い青空が、ヴィオラの晴れ舞台を祝福しているようだった。


「メアリお姉様!人が、街の外れまで集まってます!」

ラファーヌの祭り、その何倍もの人々が、帝都フォルンに集まった。

「ええ、でも貴女は主賓なのですから、はしゃぎ過ぎてはいけませんよ?」


皇帝の計らいで街を見渡せる尖塔のバルコニーから眺める景色は壮観で、世界中の人が、この子を祝福しているようだ。


「きっとフォノト様もこの光景を見たら、お喜びになるわ」

 支度を済ませたヴィオラはとっても愛らしい。

 ここの所、事件続きで久しく見せていなかった彼女の心からの笑顔が眩しい。


「そろそろお披露目のパレードですよ、下に降りましょう?」


「そうだった!教皇陛下と一緒に街を巡るのよね?」


急いで階段を降る。


――もう準備は出来ている。


「必ず…守る」


階段を降りた先。


白と金で統一された大広間の中央に、

一人の老人が立っていた。


年の頃は七十を越えているだろうか。

だが背筋は伸び、杖も持たず、まるで若者のように立っている。


純白の法衣。

胸元には巨大な聖印。


神聖フォノト教団 教皇。

ロワレー・ド・シニール1世。


「よくぞ参られました、聖女ヴィオラ」


穏やかな声。

柔らかな笑み。


だが――


(……何か、なにかが引っ掛かる)


メアリスは一瞬、眉をひそめた。


視線を合わせた瞬間、

ぞわり、と背筋が粟立つ。


威厳でも、信仰でもない。

人としての「芯」のようなものが、どこか希薄だった。


「この日を、どれほど待ち望んだことか……」


恭しく頭を下げる教皇。


完璧な所作。

完璧な声音。


なのに。


(……空洞)


胸の奥が、ざわつく。

不快感が込み上げてくる。



そして昨夜の悪夢がよぎる。


――似ている。


「どうかなさいましたか、騎士殿?」


不意に声をかけられ、はっとする。


「いえ……何でもありません」


反射的に答える。


だがその瞬間。


教皇の目が――


ほんの一瞬だけ。


“覗き込む”ように、細められた気がした。



帝都フォルンの大通り。


石畳の道は人で埋め尽くされ、

建物の屋根や窓にまで人影が溢れていた。


そして――


視界を覆うのは、色だ。


赤、青、金、白。


無数の布が、街の上空に張り巡らされている。


通りの両側から張られた長い布は、

風を受けて大きく波打ち、

まるで空そのものが祝祭に染められているかのようだった。


柱から柱へ。

窓から窓へ。

屋根から屋根へ。


幾重にも重ねられた布が、

陽光を透かして柔らかな光を落とす。


その光の下で、人々が歓声を上げていた。


鐘が鳴る。


ゴォォン――


その音を合図に、

ゆっくりと行進が始まった。


先頭は神詠騎士団。


白と金の鎧が陽光を反射し、

揺れる布の色彩の中で、

まるで光の刃のように進む。


続くのは聖歌隊。


澄んだ歌声が、

色とりどりの布の間をすり抜け、

空へと溶けていく。


さらに――


帝国軍の弓兵が空へ矢を放つ。


放たれた矢は途中でほどけ、

赤や青、金の布が花のように広がった。


空から降る、布と紙吹雪。


祝福の雨。


「聖女様に祝福を!」


「フォノト神に栄光を!」


歓声は波となり、

揺れる布と共に街全体を包み込む。


そして――中央。


白い装飾馬車の上に立つヴィオラ。


純白のドレス。

金の刺繍。


その姿は、

頭上にたなびく色彩の中でなお際立ち、

まるで光そのものだった。


手を振るたびに歓声が膨れ上がる。


老人が泣きながら祈り

大人は膝をつく

子供達は無邪気に手を振って


誰もが、彼女を見ている。

――私も、そうだった。

だから反応が、一瞬遅れた。


メアリスが異変に気付いたのは偶然だった

飾り布の帯の間から何かが横切る。


(……音が消えた?)

先程まで後ろから聞こえていた聖歌が、途切れる。


いや、違う。


“届いていない”。


空間そのものが、歪んだような違和感。


次の瞬間。


――ぐしゃり


人混みの中から、

不自然な音が響いた。


一人の男が、崩れる。


その背中が――内側から裂けた。


「……え?」


誰かの声。


遅れて。


絶叫。


肉が裏返る。


骨が軋む。


人の形が崩れ、

異形へと変わる。


「下がってッ!!」


メアリスが叫ぶ。


だが――


遅い。


一体ではない。


二体。

三体。


群衆の中から、

“同時に”生まれる。


「キャアアアア!!」


逃げ惑う人々。


将棋倒し。


悲鳴。


混乱。


祝祭は一瞬で地獄へ変わった。


そして。


それは、現れた。


人混みの“影”が、

ゆっくりと立ち上がる。


立体ではない。


奥行きがない。


ただの“黒”。


「……観測開始」


直接、脳に響く声。


メアリスの視線が凍る。


(――来た)


影が、ゆっくりとヴィオラへ向く。


「対象確認。聖女――」

 



胸の奥に、何かが流れ込んでくる。


知っている。

この感覚を、私は知っている。


(コロセ コロセ コロセ)


 ――うるさい。


私には、守るべき人がいる。


「ヴィオラ!私の後ろへ!!」


自分の声が、

そして自分の意思が、驚くほど冷静だった。


身体に氣を漲らせる。

メアリスの纏う魔術装甲が生命エネルギーを呼び水に、大気中の魔素を取り込む。

 

被害が増えぬように、殺意に引き摺られそうになる心を律する。


(ユウキが言っていた正体不明の敵、一体ずつ、確実に倒す)

 


踏み込む。


石畳が砕ける。


一瞬で間合いを詰め、

異形の一体へと斬り込む。


刃が、肉を断つ――はずだった。


「――浅い」


違和感。


手応えが、軽い。


切断したはずの腕が、

遅れて“ずれる”ように落ちる。


(再生――違う)


切った瞬間、

すでに“そこに無かった”ような感覚。


異形の中央。


巨大な単眼が、こちらを見た。


「抵抗、確認」


(っ……!)


思考にノイズが走る。


(コロセ コロセ コロセ)


「黙れッ!!」


踏み込み直す。


今度は迷わない。


首を落とす軌道。


加速。


――だが。


視界の端で、

“黒”が動いた。


影。


地面に張り付いていたそれが、

音もなく伸びる。


(来る――!)


反応は間に合う。


だが。


「……っ!?」


身体が、わずかに遅れる。


ほんの一瞬。


ほんの、致命的な遅延。


(また……この感覚……!)


影が、足元に絡みつく。


冷たい。


存在しないはずの温度。


引きずり込まれるような感覚。


「邪魔をするなァ!!」


強引に氣を爆発させる。


魔術装甲が軋み、

影を弾き飛ばす。


だがその隙に――


異形が、跳んだ。


一直線。


狙いは――


「ヴィオラ!!」

ゆっくりゆるゆる投稿していきます

書き溜めはあまり出来ていないので気長にお待ちください


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ