215、食堂へ
昼食は基本的に皆で食堂で食べているので、マルティナたちはぞろぞろと移動を始めた。食堂が近づいてくると、サシャが少し首を伸ばすようにして鼻を動かす。
「お、今日は豚肉を焼いてる匂いがするっす!」
さすがサシャだ。肉が焼かれているというだけでなく、その種類まで分かるらしい。
「塩で漬け込んだ肉にいくつかのハーブをかけてますね。絶対に美味しい豚肉ステーキっす! 五枚はいける!」
豚肉ステーキにテンションが上がっているサシャの言葉に、ディアスも嬉しそうな表情を見せた。
「豚肉ステーキは前にも食べたやつだな。あれは美味かった」
ディアスの味覚は割とマルティナたちに似ていて、この国の食事は総じて美味しく食べることができている。その中でも特に好きなのは肉だそうだ。適度な脂身がある硬すぎない肉が好みらしい。
ちなみに食事の頻度や量、種類などについても聞いたが、食べるものに関してはこの世界と竜の世界で大きな違いはないそうだ。ただ竜はたくさん食べてエネルギーを貯めておくことができるらしく、大量に食べて数ヶ月食べない。ということも普通に可能らしい。
逆にマルティナたちに合わせて、毎日三食少しずつ食べるというのもありらしい。ディアスの少しずつというのは、マルティナたちの普通の一人前だが。
「ディアス様は竜の世界にいた時には、毎日ご飯を食べる派だったんですか?」
「そうだな。我は割と日々の食事でエネルギーをとっていた。家族がそちらだったからな」
「そうなんですね」
雑談として、他の者たちが聞いたら興味津々になるだろう話をしながら食堂に向かい、中に入る。まずはサシャが入って次にディアス。マルティナ、ロラン、ハルカ、フローランの順だ。
ソフィアンは別の仕事が忙しく、最近はハルカと共にいないことも多い。共に昼食を取るのは数日に一度ぐらいだ。
「お、豚肉ステーキだな」
サシャの予想が当たっていた。嬉しそうなディアスの言葉に食堂にいた他の者たちの視線が一瞬だけ集まるが、すぐにいつもの喧騒に戻る。
最初こそ食堂に現れたディアスに誰もが怖がり恐縮して食堂内は異様な雰囲気に包まれていたが、毎日のことなのでさすがに慣れてきたらしく、最近は気にする者も少なくなってきた。
ディアスが基本的には笑顔で楽しそうにマルティナたちといるからこそだろう。過去の召喚のように理不尽に晒されたり敵意を向けられたりすれば、ディアスは躊躇なくその力を振るうのだろうが、友好関係を築いている限りにおいては明るく親しみやすささえあるのだ。
とはいえ、かなり自由でマイペースだが。
「まずは豚肉ステーキを五枚っすね。ディアス様はどうします?」
「我も五枚でいこう。それからそっちのスープも気になる」
「俺も気になってたっす!」
食事においては気が合うサシャとディアスを先頭に、マルティナたちもカウンターを少しずつ進んで好きな料理をトレーに載せた。
「お、今日はサンドウィッチがあるな」
ロランが指差した先には、ボリュームがありそうなサンドウィッチがお皿に二つ乗せられている。マルティナはまだメインをとっていなかったので、今日はサンドウィッチで決定だ。
「具沢山で豪華ですね」
「だな。俺もそれにするか」
すでに豚肉ステーキもとっているが、さらにサンドウィッチもいけるらしい。サシャやディアスのような外れ値がいるため目立たないが、割とロランも食べられる方である。
「わたしは豚肉丼にしようかな」
ハルカはご飯に豚肉ステーキを載せるらしい。ここの食堂にはハルカの影響で常に米も置かれるようになったので、いつでもご飯を食べ放題だ。
「ハルカはやっぱりお米が好きだよね」
「うん。日本人としてはやっぱりお米なんだよね」
嬉しそうなハルカに続き、フローランも米を手にした。ハルカと共にいる時間が長いからか、少し影響を受けているのかもしれない。
「我はサンドウィッチと米の両方にしよう」
「俺もっす!」
二人はどちらが好みという次元の話ではなかった。
ガヤガヤと賑やかに食事を選び終えると、空いている席に向かう。ロランとサシャが向かい合わせに腰掛け、ロランの右隣がマルティナ、サシャの左隣がディアス。そしてマルティナの右隣がハルカで、さらにハルカの隣にフローランという席順だ。ソフィアンがいる時は、ハルカの向かいでディアスの隣に腰掛ける。
「さっそく食べましょう!」
サシャの元気な声で、まずは腹ごしらえだ。マルティナはサンドウィッチにパクッとかぶりついた。
「ん、美味しいです」
トマトと塩気の強いハムに新鮮な葉野菜、濃い味付けのピリッとしたソースがアクセントだ。パンも噛めば噛むほど美味しさを感じられるタイプの、食べ応えがある美味しいものだった。
「美味いな」
マルティナとロランが顔を見合わせていると、ディアスも機嫌が良さそうな笑顔だ。
「うむ、やはりこの世界の食べ物は美味いな。我の好みだ。このハムは特にいい」
「美味いっすよね! ディアス様、豚肉ステーキも最高っすよ!」
「本当か? おお、これはいける」
楽しそうなディアスに安心しながらマルティナがサンドウィッチをもそもそと食べ進めていると、ロランがふと思い出したように口を開いた。




