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第二十話 ヒロイン②

「カーマイン、このご令嬢をウチの馬車で送ってやってくれ。おれはゼフィーとカフェに居るから」

「は! 畏まりました」


 カーマインは無理矢理ヒロインをタクト様から引っぺがすと「失礼します」と一言添えて、荷物の様に抱き抱えて歩き出そうとした。慌てたヒロインは「だ、大丈夫です、怪我してませんから。わたしも一緒にカフェに……」と暴れ出した。カーマインから呆れた様な顔をされた上にヒロインは何とか下ろして貰い、あたふたしていた侍女に叱られながら引きずられて通りの向こうへと消えて行った。勿論、侍女はタクト様に平謝りをしていた。


 その光景を何ともいえない気持ちで見送っていると、タクト様に両肩を掴まれて顔を覗き込まれた。


「その……誤解とかしないでくれよな? 今のは違うから、な?」


 凛々しい眉を下げて、必死に「浮気じゃないぞ」アピールをされるタクト様。あまりの必死さに逆にこっちが申し訳なく感じてしまう。そう、タクト様は何も悪くないのだ。


「大丈夫ですよ、信じてますから」


 本当はまさかのヒロイン登場に不安で仕方ないのだけど、ニコリと笑顔を作って笑いかけた。


「…………無理を、するな」


 そう言うとタクト様はローゼン公爵家の馬車にわたしを押し込み、スワンとカーマインに先に帰っておく様にと告げる。そして、わたしの隣りに座って馬車を走らせた。


「タクト様?」

「カフェは中止して、少し馬車で散歩しよう」


 ゆっくりと馬車はあてもなく走る。タクト様の気遣いが優しすぎて泣きそうになる。わたしが強がってもタクト様にはすぐにバレてしまうらしい。


「さっきのご令嬢とは本当に何もないぞ? 初対面だ」

「分かっております」


 それでも落ち込んでいるわたしを、タクト様は抱き寄せた。厚い胸板に頬を寄せてぎゅっと抱き付いて甘えてみる。タクト様は、そんなわたしの頭を優しく撫でてくれる。こうしてると、不安も何もかも何処かへと消えてしまうのにな……。


「タクト様……我儘言ってもいいですか?」

「あぁ、何でも言ってくれ。普段何もおねだりして来ないのだ。たまには、されてみたいよ」


 お付き合いを始めて二年以上経つのに、未だに不安がるわたしをタクト様は根気よく待って下さっている。お互いにちゃんと好きな気持ちは分かっているのに不安になるのは、やはりヒロインの存在だ。そのヒロインに今日は出逢ってしまった。


 そして、あ(・)の(・)ヒ(・)ロ(・)イ(・)ン(・)は間違いなく転生者だ。今日の出来事を目の当たりにして、益々不安は増した。タクト様がターゲットに入っている事は間違いないだろう。この先、どういった行動を起こしてくるのか予想がまだつかない。


「あのご令嬢には近付かないで下さい……あの方は、あの方だけはダメです」

「…………それは……もしかして、さっきのが例の女なのか?」

「はい……入学前に会ってしまった事は驚きですが……」

「そうか……分かった、気を付けよう」


 もし純粋にヒロインがタクト様をお慕いして、それにタクト様も応えてしまわれた場合は――――辛いけど、身を引く覚悟もしている。だけど、そうでなく、ただ逆ハー狙いでタクト様をその駒の一つと捉える様なヒロインだったら……わたしは闘わなければいけない。


 さっきのヒロインの様子を見た限りでは、純粋にタクト様を好きな様には見えなかった。だって、わざと転んでみせて、強制的にイベントを引き起こしたのよ。同じファンとして納得がいかない。ここはゲームの世界じゃない。タクト様はちゃんとここで生きていて、ご自分の意思もお持ちなのだ。


 わたしは推しを……タクト様を幸せにしたい。いつも笑顔でいて欲しい。願うのはそれだけだ。


 タクト様の腕に抱かれながら、ヒロインの事を殿下と相談しなければならないな……と重い気持ちになる。そんなわたしを抱きしめるタクト様の力が、少し強くなった気がした。

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