3.現役アイドルの後輩――木村エリナ。
今日はここまで!
「つかれた……」
――放課後。
ボクは一人、グラウンドの外れにあるベンチに腰かけていた。
部活動の盛んな立花学園。野球部は全国大会の常連だし、サッカー部に至っては全国制覇を果たしている。それ以外にも、多くの部活動がトップレベル。
プロ選手も輩出しており、活気に満ちていた。
そんな部員たちの声が響き渡る中で、ボクはふと視界の端に何かが見えたことに気付く。ゆっくりとそちらへ視線を投げると、そこには一人の女の子がいた。
「どうしたの? キミ」
「あ――!?」
瓶底のような眼鏡をした、お下げ髪の少女。
とても小柄だから、もしかしたら下級生かもしれない。ボクの声に驚いたのか、コソコソと移動していたその子は肩を大きく弾ませた。
すると、その拍子に――。
「あ、眼鏡……!」
特徴的な瓶底眼鏡が、ポロリと落ちた。
するとその奥にあったのは、どこかで見たことのある顔。いいや、考える必要はなかった。ボクは何度もその顔を、テレビ越しに見てきたのだから。
だから思わず、口から彼女の名前が出ていた。
「え、木村エリナ……さん?」
木村エリナ――いま、話題沸騰のアイドル。
ひと際整った顔立ちをした彼女は、慌てて瓶底眼鏡を拾い上げた。そして周囲を見回してから、慌てた様子でボクのもとへと駆け寄ってくる。
怒っているのか、それとも困惑しているのか。
微かに見える眼鏡越しの円らな瞳は、少しばかり潤んでいるように思えた。
「あ、あの……! アタシのこと、誰にも言わないでくださいね!?」
「ん、どういうこと?」
「この学園に通っているのは、秘密なんです!」
「あー、なるほど……」
ボクはエリナの言葉に、納得する。
どうやら、この学園においてエリナは普通の女子生徒、ということらしい。たしかに、彼女のような超有名人がいると知れたら、大パニックになる。
それを避けたい、ということか。
「うぅ、お願いします……!」
懇願するエリナ。
ボクは、そんな彼女の気持ちを察して笑いかけた。
「大丈夫。誰にも言わないよ」
「え……?」
そして、そう約束する。
だって学校で悪目立ちすることの辛さを、ボクは知っていたから。
一人に玩具として弄ばれたら、他の生徒もそうして良いものだと勘違いするのだ。だから、エリナの秘密はここで留める、そう誓った。
しかし、その反応が意外だったらしい。
エリナは呆然として、でもすぐに嬉しそうに笑うのだった。
「えっと、お名前は――」
「篠宮悠だよ」
「篠宮さん……。篠宮さんは、アタシのことを特別扱いしないんですね」
「特別扱い……?」
ボクが訊き返すと、エリナは隣に腰かけて話し始める。
「アタシ、昔からテレビに出てたから。中学の時から、色々な人に特別扱いされて――学校では馴染めなかったんです」
「あぁ、そうなのか……」
それを聞いて、ボクは少し彼女が不運に思えてきた。
決してエリナが悪いわけではない。
それなのに、周囲がそうは思わなかったわけだ。
ボクはそれを理解し、一つ頷いた。
「うん、だったらなおさらだね。……はい!」
「え……?」
そして、彼女の手を取って小指同士を絡ませる。
「指切り! エリナの正体は、ボクとキミだけの秘密だよ、ってね」
笑いかけると、エリナは目を丸くして。
だけどすぐに笑って、こう言うのだった。
「あ、ありがとうございます! 篠宮さん……!」――と。




