2.学園の高嶺の花――立花貴音。
今日はこのあと、もう一話投げます。
――昼休みになった。
ボクは立花学園の食堂に向かう。
なんでも噂では、多少値は張るものの一流の料理を堪能できる、とのことだった。さすがは高級レストランを経営するタチバナグループ、力を入れている。
「あれ、なにか騒がしいな」
さて、ほんの少し心を躍らせながら足を踏み入れた時だった。
食堂の中――その奥の方が騒がしい。ボクは首を傾げながらも、小さな野次馬根性を発揮してそちらへと足を運んだ。
すると人の波の向こうに見えたのは、一人の女子生徒の姿。
「いいですか? わたくしは、この学園の理事長の孫。すなわちタチバナグループのトップの娘でもあるのです! ですから、食堂を自由にする権利を持っているのです!」
金色の髪をした彼女はそう言って、その場にいる学生に宣言した。
その時になって、ようやく顔が確認できる。蒼の瞳に、凛々しい顔立ちの美女だった。安藤さんとは対照的に棘のある雰囲気、といえば良いのだろうか。
簡単には触れることができない。
そんな印象を受けさせるような女の子だった。
「良いですね。異議がないのであれば、今日限りで食堂は閉めることにします」
「え、ちょ……!?」
そう考えていると、不意打ちのようにその子が言う。
ちょっと待ってくれよ。楽しみにしてきたのに、食堂がなくなる……!?
「横暴だ……!」
「でも、相手は理事長の孫だぞ……?」
「間違いなんて聞き入れないだろうな」
動揺したのはボクだけではなかった。
周囲にいた学生たちは、みな口々にそう話している。しかし異議を唱える者はいなかった。それはもしかしたら、彼女が理事長の孫である、ということが関係しているのかもしれない。
「……理事長の、孫」
ボクはその単語に、引っかかりを覚える。
そして、思い出すのは前の学校でボクをイジメていた女子のこと。
「…………! ダメだよ、それで誰かが幸せになるの!?」
「あら、貴方はどなた?」
「えっと……!」
そうしていると、無意識のうちに前に出ていた。
声を上げて、異議を唱える。
鋭い眼差しに射竦められ、思わず言葉が詰まってしまう。
でも、ここで負けてはいけない。
だって、ボクは自分を変えると誓ったのだから……!
「ボクの名前は、篠宮悠! キミがどれだけ偉いのかは知らないけれど、こんな横暴は見過ごせないよ!」
「…………」
必死に声を絞り出した。
相手の揺らぎない瞳を真っすぐに見つめ返して。
ボクは過去の自分と決別するため、その女の子に立ち向かった。すると、
「面白いですわね」
「え……?」
ふっと、小さな笑みを浮かべて。
目の前の女子生徒は、ボクのもとに歩み寄ってきた。そして、こう言う。
「貴方、わたくしが立花貴音と知っての発言かしら?」――と。
彼女――貴音は、嬉しそうに。
心の底から満足したように、笑うのだった。




