まだまだこれから!
ヒューゴー様は生粋の剣士である。
魔法が使える程、魔力が備わってないらしい。
さすがすてきんだけある……肉体派!!
だがこちらはそんなヒューゴー様御自身が教えてくれていた剣術に加え、賢者様仕込みの魔法もある。
──まだまだ未熟とはいえ……ふたり!!
「コリアンヌ……一気に行くぞ。 隙を見て俺が攻撃魔法か捕縛魔法をかける。 たたみかけろ」
「りょ!」
髪を整えられている間、先にある程度切られた長い髪を使い、イーサンとの媒介を作っていた。『たたみかける』のに、それを使ってイーサンに私の魔力を送る。繋ぎがある分いつもより負荷が少ない。
加えて状況を見ながら物理攻撃。……完璧だ。
常に一緒に修行に取り組んできた、イーサンとの連携はバッチリ……それはもう、今や熊を見れば『いただきまーす!!』と思う程。
(思えば散々しごかれた)
今こそ一矢報いる時……ッ!!
──などと、思っていたのだが。
「うう……」
「参りました……」
「……もう終わりか? 」
アッサリ敗けた。
敗けたもなにも、話にならなかった。
ヒューゴー様は初手の一閃、大人気ないにも程があるレベルの凄まじい闘気を噴出し、わざと空に放った。
『死んだー!!』とこちらが感じるくらいの絶妙な距離で。
いきなり心を折られた私達は、態勢を立て直すももうグッズグズ。
『ほほう、やるな』ぐらいの一言くらい引き出したかったところだが、実際に引き出せた言葉は『コリアンヌ! 脇が甘い!!』『イーサン! 下半身がブレているぞ!!』など、お馴染みのご指導の数々。
最早『勝負』などではない。
そして「参りました」と言ったにも関わらず、ギャラリーが若干飽き始めるまでヒューゴー様はやめてくれなかった。
「これじゃ、卒業認定はやれないなぁ……だがまあ、成長はしている。 これからも精進しなさい」
「「はい……」」
鬼である。
まごうことなき、鬼コーチである。
ふとギャラリーを見ると、皆優雅に食後のお茶を飲んでいた。
……飽きたのだろう。
「っていうか……なんでレナまでそっちにいんの!?」
いつものお仕着せとキッチリひとつに纏めた髪とは違い、緩く編まれた髪に白いブラウスに臙脂のリボン。茶系のボタニカル柄の総刺繍が上品なロングスカート姿のレナは、化粧もバッチリでいつもとは違って見える。
だがこちらを向いたレナの表情は、いつもと変わらぬシレッとしたものだった。
「あらお嬢様、終わりましたか」
「見ててよ! ちゃんと!!」
「見てましたよ……そんなにコテンパンにされるところをじっくり見せたかったのですか?」
「言い方ァァァ!?」
「ほら、お嬢様…………」
レナは小さく『御前ですよ』と、ハンコック侯爵様がいることを教えてくれた。私は慌ててそちらに向き直り、急ぎ、紳士の礼を取る。
イーサンはちゃっかり挨拶を終えていた。
侯爵様はヒューゴー様とは違い、線の細い温厚そうな方で『親戚になるんだから気楽にして』と朗らかに笑い、サプライズを褒めてくれた。
成人しているふたりの見合いに、まさか侯爵様まで来るとは思っていなかった。
(……よっぽど結婚しないヒューゴー様のことが心配だったに違いない)
見合いは勿論纏まった。
まあ見合いが決まった時点で選択肢などないようなモンだが、レナの様子から不満は感じられない。
もともと『レナは頑固だから無理』というのが私の本音。──逆に言えば頑なになっているだけで『本当にダメじゃなければ押せばイケる』という経験則からの見合いだ。
レナがヒューゴー様を憎からず思っているという確証が私の中でなければ、ヒューゴー様の応援はしても、流石にここまでしない。
──に、しても。
正直言うと、もうちょっとくらいは手応えが欲しかった。
化物のことではなく、レナの気持ち的な面で。
(ああ……ただの余興だったわ……)
ぶっちゃけ私の決闘なんかより、侯爵様がいるだけで充分すぎる圧……
最後まで私はなんの役にも立っていなかった気がして、ガッカリだ。
──コテンパンにやられましたしね!
──とんだ道化でやんす!
──流石は姐御でやんす!(※揶揄)
脳内舎弟にまで馬鹿にされた。そこはフォローしてほしい。
奴らの自由度高過ぎな件。
「どうされました?」
「レナ……」
「ああ、お腹が空いたんですね」
「空いてるけど! そうじゃなくてェ~!!」
「……お嬢様」
レナは短くなった私の耳の下あたりの髪を摘み、軽く引っ張った。私より少し背が低いレナと、私の目線が水平になる。
「──見てましたよ。 お嬢様が思うより、ずっとレナはお嬢様を見てきたつもりです。……ありがとうございます」
レナの鳶色の瞳に、私が写っている。
死にそうだった赤子から病弱だった幼少期、健康になってから──今まで。
(ずっと見守ってくれていたんだ)
ヒューゴー様が言ってくれた言葉。
『君は知らないだろうけど、君が生まれてからレナは変わった』
……私にもなにか、レナにあげれるものがあったのだろうか。
「レナ……」
レナが柔らかく微笑む。
なんとも言えない気持ちに胸がいっぱいで、私は泣きそうになった……
──の、だが。
「そして、勿論わかってましたよ」
次に発せられた言葉。
まさかまさかのトンデモ発言に、せり上がってきた涙が一瞬にして止まる。
「……
…………
………………え?」
「『森へ修行に』と言って、神殿に向かったのは把握しておりましたから」
「ええっ??」
「旦那様も連絡をくださいましたし」
「ええええええええええええッ?!」
父の方を向くと、いつものようにヘラっと笑った。
「だってサインはあるけどホラ、流石にアレじゃない? なによりヒューゴーが望んでるならさぁ、『別に養子に入らなくてもいいけどどうする?』って」
ヒューゴー様が笑いながらそれに続けた。
「思い出してみなさい、コリアンヌ。 あの日俺はどこに何を書いた?」
「えっ!? …………あっ? ……あああ!!」
侯爵様へ、レナとの見合いを希望する手紙。
──考えてみれば、ヒューゴー様側からであれば、相手の身分は関係ないんだった!
「えっじゃあ養子縁組は?!」
「すぐ嫁ぐ身です。 『ご都合の宜しいように』と」
レナの答えの補足的に父が続ける。
「シュヴァリエ家との婚約もあるからねぇ。 ご縁は既にあるし、過分でしょ」
なんと既に侍女ではないと思っていたレナは、まだ私の侍女であり、義姉ではなかった。
そして今日のこれは、簡易的な婚約式だった。
騙された──!!
騙したつもりが騙されてた──!!!!
八つ当たり的にレナに問う。
「……レナは私が主じゃなかったの?!」
「勿論私はお嬢様の侍女ですが?」
「私の決定は!? 私の命は!?」
「…………」
しかしレナはやはりシレッとした顔で──
「なにぶんお嬢様は未成年ですし」
──と、至極当然の事実を突き付けた。
で す よ ね ──────!!!!!
ゴタゴタしてる間に13歳になっていた私、コリアンヌ。
しかし……まだ絶賛未成年!!
…………ああっ!
早く大人になりたいわ!!!
レナの希望で、私の入学を見届けてから、ヒューゴー様の婚約者としてハンコック領に行くそうだ。
一年ほど婚約者として過ごした後結婚するのが普通だが、ヒューゴー様は無理矢理半年に縮める気でいるらしい。
どうせだから、式は夏季休暇中を希望しておいた。
──実はふたりの結婚式でも、今日と同じサプライズをしてやろうかと目論んでいる。
【学園入学直前編・おわり】
ご高覧ありがとうございました!
次章でまた、コリアンヌの成長を見守って頂けたら嬉しく思います。
その前にもしかしたら閑話を挟むかもしれません。(※未定です)
そしてコリアンヌの年齢間違えてました。(爆)
13歳!




