11 敵は我が前、巨乳にある
「吹雪ちゃん。今、この子、士道弓弦、波防人って言ったよ」
「ええっ、そうねっ。私も聞いたわ」
相撲の神話の勉強をしていた所に入室してきた弓弦。その弓弦が自分の事を士道弓弦波防人と発言したのだ。動揺しないわけは無い。
「しまった。遥がいるものだと思って驚かそうとしたが、逆効果だったか? いやっ、驚くことの意味合いを考えた場合、遥以外が驚いたとは言え、その事自体は成功と言えよう。しかし、この場合において遥以外が驚いてしまったので失敗か……と言うか、まずいぞ。波防人と言う単語にやたらと乗ってきている。この場合、ボクはボクを貫き通した方がいいのか? それとも偽った方がいいのか? どっちだ。この士道、思考逡巡する」
尚、弓弦は全て小声で二人には聞こえていない。
「ねぇ、今、波防人って言ったよね?」
明美が視線を送る。弓弦は明美の胸を見る。
「巨乳は敵だ」
弓弦にとって相手が女性の場合、敵味方の判断は胸のサイズで行う事となる。
「えっ?」
「巨乳は敵だっ! と言ったんだ。このボク、士道弓弦波防人の前にでっかい胸を持ってくるんじゃない。そこの貧乳、まな板のお前だけこっちに来いっ! この士道、命令する」
大きな声で吹雪を指差す。
「アナタ、今、私の事を貧乳、まな板って言ったの?」
「そうだっ、そこのキミだけがボクに接近する事を許可する。この士道、今一度、命令する。こっちに来たまえっ!」
「こっ、この私が貧乳、まな板……ぬりかべですって許せないっ!」
「そこまでは言っていないっ。こらっ、ボクの胸元を掴むな。制服の胸元はボクの胸に合わせて膨らんでいく予定だ。キミの腕力によって伸びていくのではない。この士道が保証する。貧乳、君には権利がある」
激高して掴みかかってきた吹雪に対してあくまで冷静に対処する弓弦。
「権利? 地面の私に対して何の権利があるって言うの?」
まな板、ぬりかべ、地面と次々に自分の胸の評価を落としていく吹雪だが、そんな些細な事にいちいち構っていられない、とばかりに弓弦は続ける。
「ふふふっ、そこの巨乳には内緒の話だ聞きたまえっ!」
両手をバッと広げて大きな声で宣言すると、そのままの声量で発言する。つまり、明美にも聞こえるので内緒の話としての体はなさない。
「四股って素敵な女子になる部活動を続けると巨乳になるっ!」
なるっ!
なるっ!
なるっ!
山彦のように反響する声を聞きながら明美は、『内緒の話になっていない』と突っ込む事はせずに心の中で思う事にした。
「それは本当かしら?」
普通に食いついた吹雪に対して、「もちろんだともっ」と手を差し伸べる弓弦。固い握手を交わす二人。
「だからキミも四股って素敵な女子になる部活動に入部するといい」
「私はとっくに部員だけれども」
「えぇいっ!」
弓弦は奇声を搾り出しながら吹雪の手を振り払った。
新道明美、薫子吹雪、士道弓弦波防人、それぞれの自己紹介が終わった所で今回の顛末と言うか、ネタばらしである。
所謂、相撲によってバストアップはしない、と言う現実を突きつけられた弓弦は、発言者の吹雪と共にちゃぶ台前に座ってテンションダウンしていた。
「なんとなくそうなんじゃないか? そう思っていました。この士道、成長限界が来ていたんじゃないか? と」
「ええっ、私達、もう高校生だし、これ以上のバストアップは難しいわよね。私もなんとなくそうなんじゃないか? そう思っていました」
発言が重複し、これがライトノベルであるならば完全に編集チェックでセリフが変わる所だったが、生憎とゴリ押し一人創作物であった。
「二人とも、そう落ち込まないで。そっ、そうだ。牛乳とか効果あるかも、飲んでみたりしない?」
「「浅はかなアドバイスにがっかりだわ」この士道、初対面の巨乳に言葉で殺されそうになる」
明美のアドバイス空しく二人の反論が返ってくる。
「だが巨乳、キミはいいヤツであるらしい。名誉奴隷一号にしてやってもい、ぐむっ」
弓弦が言い終わる前に、頬を手の平で挟まれる。
「女の子が奴隷とか、そんな言葉使っちゃ駄目だよっ」
「うむっ、ボクはキミの事を見くびっていたようだ。この士道、お願いする。手を離してくれ」
「うんっ、いいよっ」
「ふぅっ……まぅたく、ここの部員はダイエットの為に部活をしていると聞いたが、武闘派が多いのか? この士道、二人の暴力に戦々恐々である」
やれやれ、と肩をすくめる弓弦に対して、呆れ顔の吹雪、ニコニコと微笑んでいる明美。
「四股って素敵な女子になる部活動に何の用事があって来たのかな?」
ここでようやく疑問を口にする明美。その純真な瞳に弓弦は毒気を抜かれて正直に答えてしまう。
「うむっ。このボク、士道弓弦波防人が四股って素敵な女子になる部活動五人目の部員にて、キミ達のダイエット生活に終わりをもたらせに来た。この士道、素敵な女子になるなら、相撲をしよう、それを提案に来た」
士道弓弦波防人は何度でも立ち上がる。
小さな身体で最大級の威圧を行う様に、紺色の制服の上から締め込んでいる白いマワシを見せる。サガリを掻き分けて見せて一言。
「新道明美、キミには素質がある」




