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義腕の王  作者: リョウゴ
三章・果たし状と体育祭
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相棒のいない一週間 6

 獣は再び吼える。


 凶悪な尖り方をした木材が弾丸のように回転し、穴からこちらへ、俺を葬るために飛来する。


魔力の腕を発動して握り潰す余裕は無い。

咄嗟に盾を作り出し、左手で防御する。咄嗟の行動なので壁についているようになっていたのを防ぐために体によせたが、実際木材と衝突したのは体よりも少し前である。しかし、前に作った物同様、強度が致命的に足りない。

盾は一瞬抵抗したが、すぐ砕ける。その上木材の勢いは少しも衰えた気がしない。盾で防いだのが中心よりもずれていたのが悪かったのか。


 だが、一瞬あれば十分だ。


 防ぐのにあわせて魔力の右腕を作り上げ、一か八か木材に向けて掌をぶつけるように握る。ここで思い切りぶつけてそらせれば良かったが、俺の作った穴のせいなのか、逸らせなかった。


 回転し続ける物体を掴み続ける。逸らせなければ押し返す。避けるために体重移動させようものなら、この弾丸のように回転し続ける鋭利な木に貫かれるだろう。


 弾丸のように回転、というが、その通りかなり高速の横回転で恐らくこれを生身の手で掴み続けようなら、一秒で皮の中の肉まで擦ってしまうだろう。


 それ程の回転がある木材を掴む魔力の腕も摩擦によるダメージは受ける。木材の勢いにより、接触している面から魔力の光が派手に飛び散っている。散り続けている。


 だが、拮抗している。人の身に持てる筈の無い量が既に散ってるが、まだ魔力の腕はそこに存在し続けている。


 空気中の魔力を吸収し、自分のものにしているのだ。


 空気中から魔力を吸収する事は、魔導師になって初日に出来ている。そして魔力の腕は魔力を使用するのではなく魔力の塊を腕の形にするもので、只の空気中に存在する鐘本秋の所有魔力となる。


 腕に属性があったならば、出来なかっただろう。腕から散り、空気中に漂うことになった魔力が、また腕に吸収され、腕の一部となる。


 右腕が、殆ど空気中の魔力と一体化する。飛び散った魔力を吸収するあまりに。もはや腕の形は無く、肩についていた所は既に空気と一体化し、見えなくなっていた。


 目視可能なのは、木材を押さえる手の平の部分と指のみである。



 だが、集中しすぎて空気中に腕を召還する事に成功している事に気づいていない鐘本。



 俺は本気で押し返すべく腕を前へ進めた。


 それに合わせて退く木材。


 進む木材よりも強力な力で押し返す魔力の腕。


 それを確かめ、思い切り横に振る。


 鑢で削るように面白いように削れる壁。


 全力で横に移動させていた。



 気付いたときには既に止まった木片が壁の手前と奥に一つずつ、転がっていた。よく見ると奥側の木片に謎の刻印がされていた。なんだ、あれ?


「はぁ……はぁ……。」


 手が、木片を掴んでいたが、それが魔力の腕の一部であるのに気づくのに少しかかった。腕、が、なかったから、で、ある。


 俺の耳が獣の吼える声を捉える。だが、その声に強さは感じられず、そちらの方を向く。


 四つ足で地面を捉えた獣がものすごい勢いで飛んでくる。


 前脚を突き出し、鋭利な爪で貫き引き裂かんとするが、直線的で見え見えなその突撃を、俺は全身を使った右腕のアッパーで迎え撃つ。手だけの腕ではどう動かせば分からないので、ふつうの外見の腕に戻してからだが。


 あっさりとアッパーした腕が当たり、拍子抜けするほどあっさり上へと吹き飛んでいく。


 重量を感じさせる落下音を響かせ、地面に受け身も取れずに落下する獣。


 その獣は気絶したのか、ぴくりとも動かない。


 ………獣だなんだと言ってはいたが、殆ど人である。しかも女性。ふつうと違うのは白銀の髪と同じような猫のような耳が生えてるのと、銀の尻尾がちらりと見えた事である。別にさっきまではしっかり見ることは出来なかったので獣と言っていたが別に戦闘中もけもくじゃらでもなかったような気がする。


 それを確認する事もなく背負うと、ダッシュで来た方角へと向かう。










「お疲れ様です先輩。………どうやらお楽しみだったようで。長かったですねぇ…。」


「ふざけんな、危うく死ぬとこだったろうが。」


 森を抜けると、魔導師2人がお出迎え。というわけです。にしても今回は明確に死を感じたぞ、おい。


「生きてるんだから良かったじゃないですか。まあ、こっちの術式を使わなくて良かったですよ。死人が出るなんて聞いてなかったですからね。」


 死人がでる?どういうことだ?


「この術式、発動すると同時に下から剣が上に向かって無数に突き抜けていくんすよ。全くそんな危ない術式だったなんて聞いてないっすよ。」


 仮面の男は皮肉げに答える。


「そっちだって応援の奴を教えてくれなかったではないか。」


「そもそもこんなのだと捕獲じゃなくて討伐になっちゃうじゃないですか!」


 なんか、面倒だ。……はあ、今日は疲れた。


「さっさと捕縛でもして協会にでも突き出してくれよ、重いったらありゃしない。」


 後ろの奴が動いた気がする。


「───動くな。動いたらこいつを殺す。」


 気付いたら、俺は人質になってた。背負った女の鋭利な爪を首筋に押し付けられて。


 う、うわー、なんで今日はこんな面倒なことになってるんだよ……。


「知るか」


 仮面の男が短くそう言うと、雷が奴の手からこちらへと飛来する。それは槍のようで、雷とは違うようにも思えた。


 俺は右腕を振り、腕を当てる寸前に消してから手に雷を当てる。すると手は雷に貫かれ、焼失。雷は相殺される。


 いや、おかしいだろいま、手は焼き焦げたが実際は穴が開いたその穴の外縁部が焦げただけだ。


 こいつ、(ひとじち)を殺そうとしたよな。


「……な、何してるんですか…仮面さん。」


 後ろの震えが少し感じられる。捕まえるのではなく殺そうとした男に対して、後ろの奴が恐怖してるのを感じていた。


「………………ふ。」





 菊川は違和感を覚えて、依頼の復唱をする。


 依頼の内容はこうだった。


 目標の人狼の捕獲

 生存必須・誰かに狙われているとの匿名報告あり

 この依頼は、協会の信頼の足りる者がついていきます


 誰かに、狙われている……まさか……?でも仮面の男は協会の信頼を受けている男。何度か協会内部で聞いたことがある。内通者摘発したり、魔導師犯罪者を捕らえたりと、目覚ましい活躍をしてたはずだ。そんなことをするために功績を上げたというのか………?まさか、まさかね……。


 だが私には目の前の仮面の男の仮面の表情が、読めなかった。






 寒気のする笑い。熱のない完全な冷笑。


 殺気。


「………何が、おかしい。何故笑う。」


 後ろの奴が俺の思った事をそのまま言う。


 仮面の男は前に片手を無気力に突き出し、もう片方の手で仮面を剥いだ。


「これで、やっと、復讐が出来る………。」


 顔が、ズタズタだった。

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