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義腕の王  作者: リョウゴ
三章・果たし状と体育祭
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相棒のいない一週間 4

 最近、義腕(アイ)と出会ってから慌ただしい日々を送っていたので、義腕(アイ)が居ないだけで非日常から日常に戻った気がして油断していた。のかもしれない。


 帰り道。真っ直ぐ自転車で帰る、その時間に。


 非日常は確実に存在していた。



 俺はのんびり帰っていた。帰宅途中の田園風景───暗くて見えない上に、虫がうざ…ちょっ、蜘蛛の巣邪魔ぁ!───を楽しみつつ帰っていたのだ。


 気付いたら担がれて空を飛んでいたがな。


「うおわぁぁぁああぁ!!」


 どう言うことかって?


「すまないな、巻き込んで。主がピンチなのだ。」


 この前の竜に担がれて、空を飛んでるんだよ。いやあ高いなあ、落ちたら死ぬな……。抵抗して逃げることが出来ない。落下ダメージは等しくダメージを与えるのだ。怖い怖い。


 しかもこの竜は相当早く移動しているために暴風を全身に浴びているが、何故か呼吸はしっかり出来ているし、冷風と言うべき冷たさなのに寒くない。


「菊川さんがピンチ?どう言うことだよ、それなら俺じゃなくて他の奴…例えば村上さんとかに頼めばいいだろ!?格下の俺に頼む理由が分からないんだけど!?」


 別に何か出来るなら、行くのも良いが、何も出来ないのにその場にいるのはかなり所ではないくらい邪魔だ。ピンチの内容よりも俺にはそちらの方が気になる。どうせ、竜が言うだろうし。


「鎧巫女殿に頼むと、後で見返り……この場合は戦闘支援になるのだろう。だがそれをするには、恐らく主が危ないのだ。鎧巫女殿はそれはもう、凄いのでな。だから格下で、辛うじて戦力になる貴殿を頼る事にしたのだ。分かったか?」


 見返りが戦闘支援になるって事はまさか……!?


「それに主だがちょっと勧誘員(スカウト)ではない普通の魔導師の依頼を受けていてな、その依頼の手伝いをしてもらいたいのだ。なに、危険はない。ただ、人手が足りないだけだよ。」


「……人手が足りない?」


「ああ、受けた依頼がはぐれ人狼の捕獲なのだが、捕獲というのはかなり厄介でな。」


 まあ、手加減しなきゃいけないのはリスキーだろうな。まだそう言うことしたこと無いし。

 因みに人狼についてはスルー。竜なんていう不思議生命体がいるんだし、不思議じゃないだろ。


「少なくとも2人、捕獲用の術式にかかりきりになるのだ。しかも術式理解に長けた人であることが条件だ。これに関しては主と協会が一人派遣した魔導師で足りる。協力してもらいたいのはそこじゃない。まあ、貴殿にはまだ術式に対する知識が足りてないだろうから、その役目をさせるために呼んだりはせんよ。」


 それは、馬鹿にしているようにも聞こえなくは無いが、出来ないことはさせないと言外に言っているようにも聞こえた。


「じゃあ、何のために?」


 俺は問うた。


「人狼を足止めする役目を預かって貰うためだ。」


 竜は答えた。









「お、来ましたね先輩。」


「何で俺を呼んだんだよ……。別に俺じゃなくても良いじゃねえかこれ。」


 結局、竜が頼んできたことは、捕獲用術式の円の中に発動するまで人狼を足止めして、外に出さない事だ。


「魔導師の仕事、体験版ですよ。先輩。」


 菊川さんは……さん付けしなくていいや、なんか苛ついた。


 菊川はこれから仕事がある会社員の下っ端のような暗い顔ではなく、やりがいのある仕事をする会社員のような明るい顔をしていた。


 そこにローブ姿で仮面を付けた男性が口を挟む。


「おい、竜使、この一般人は何なんだ?」


 俺について説明するべく、菊川は口を開く。


「こちら側に足半分突っ込んだ奴で、今回私が助っ人として呼んだんすよ。いや、正確にはこちら側に右腕を突っ込んだ奴、ですかね。」


「あぁ、鎧巫女の報告した一般人か。そうかそうか……。」


 その回答に心当たりがあったのか、少し納得したような声音で返答する。


「戦力になるのか?」


 その点は俺には分からない。いざという時の右腕(アイ)はいない。正直怖い。


「んー、リューが狙われないように注意を引く位は出来るでしょ。」


 その言葉遣い、年上にする発言じゃないだろ。


「ああ、竜がメインアタッカーにするのか。なら問題無いな。……竜一体でも問題無かったんじゃ無いのか?」


「………保険ですよ。」


 小声で話してるが、聞こえてるぞ。誰が保険かよ。


「だから先輩。期待してますよ?」


 少し苛っと来る笑顔で菊川はそう言うのだった。










 はぐれ人狼は協会に親類がいた。

 親は人の女と狼男である。

 普段の外見は人。しかし狼化すると理性を保てなくなり、暴走するらしい。が最近はそうでもないらしい。

 そいつは魔導師の親に反抗してどこかに行ってしまったらしい。年頃なので、反抗期という奴だろう。

 んで、この人狼。こいつはこの、アホみたいに深い森にいるらしい。


 俺が貰った情報はこれだけだ。何かあまり要らない情報だけど、この森にいるのがわかってるなら確かに捕獲できる。虱潰しっつーやつだ。


 森、といったが、ここは高校の隣の運動公園その場所だ。謎の深い森は伏線だったのか………!?


 そんなわけで、大きな紙に術式を書き、その上にカモフラージュとして砂をかける。夜だし、見分けられないだろうが、念のため少し深く埋められた。


 思い切り引き裂こうとしても裂けなかったので、強度は抜群だ。


「はい、これ。」


 小さい巾着袋を渡してくる菊川。


「それは、魔力を籠めると私の相棒の位置がわかるって言う代物です。使用回数は三回も使えないので考えてつかってください。それでは、いってらっしゃい!先輩!」


「………はあ。」


 俺は溜め息をつくと、諦めて森の中へ入って行くのだった。










「来やがった……捕まえにきたのか。」


 森の中、獣じみた聴力が魔導師共の会話を捉える。


 暗がりの中、獣はつぶやいた。


「誰だろうとそう易々と連れてかれてたまるかよ……。……ああ!思い出すだけで腹がたってきた!……おっと…叫んだらバレてしまうな。こちらの位置が。」


 そして、獣じみた聴力が確かに近づいてくる足音を捉えているのをききつつ、気配を消す。この状態になったら、魔術師だろうと認識できないだろうと、本人は思っている。実際にそのくらい気配が希薄なのだ。


 …………見えた。


 この暗い森の中を見渡せる獣の強力な視覚能力を以て、相手を認識する。


 今まで何度かこの森を偵察する魔導師はいた。そいつ等を隠れてやり過ごすか、森の中で仕留める───といっても殺しはしないが──かは自分の獣の部分に判断を任している。


 そして敵を見たとき獣は告げる。


 ──奴は、今までトップクラスの雑魚だ。

────見ろ、警戒心が弱すぎる。あれでは一撃でしとめられるだろう。面白くないが。

──それに気配が隠せていない。やはりアレでは見つけてください、殺してくださいと言っているようなものだろう。



 そして人狼は侵入してきた敵を仕留める事を決定した。

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