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義腕の王  作者: リョウゴ
三章・果たし状と体育祭
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その男、中二病なり

 家の前に戻ると、音姉さんが全身黒で固めた男性に絡まれていた。ように少なくとも俺には見えた。


「ククク……ここであったが百年目!観念してもらおうぶぁっ!!」


 その男は音姉さんにぶん殴られていた。しかも、触れずに右腕を振るうだけで、男が三メートルくらい吹っ飛んでいった。ちなみに昔からこの「触れずに殴る」というのを音姉さんはやっていたので特に疑問は持たない。というか、人前でこれやったことあったか?


 音姉さんを見ると、やっちゃった、と言わんばかりの顔をしていた。だが男は何事も無かったかのように──服を正し、咳払いをし──立ち上がると。


「ああ!それでこそ機関が認めた人間!故に貴様は狙われているのだ!」


「おー、姉さん。ただいまー。」


 因みに昼過ぎの5月のくせに炎天下気味の今である。太陽の光が眩しいくらいに輝いている。


「おかえり。どこ行ってたんだよ。家の前でなんか変なのに絡ま」


 ちょっと熱中症気味だから早く家はいりたい……あんなの無視して。


「ねえちょっと僕無視するのやめてくれませんか!?」


「つか、何の用なの?さっきっから要領得ない話し方しやがって。」


 少し苛立った言い方をする音姉さん。


「だからあなたはきょ…機関に狙われているから、その機関から守ってやろうということざぁっ!」


 あ、また殴った。


「なんか、その微妙に上から目線が気に入らない。そしてなんかうざい。」


「くっ……だが貴様がスターパレスやムーンライトに狙われているという事実はどうしようもがふうっ!」


 やべえ、機関とやらに名前ついてるよおい。


 因みにこの男、謎のポーズをとりつつ発言している。そして殴られるときはノーガード。自分に溺れた中二病だろうか。因みにもはや音姉さんは無言無表情。


「……くっ、仕方有るまい……もう時間が無いのだ……かくなる上はこの眼の呪いを……」


 小声で何か言ってるつもりかもしれないがもろ聞こえてる。……左耳だけか…やっぱり。右耳やっちゃったかなあ……。


「ぐぁぁぁあ!!!早く……!逃げろ…………!!!」


 演技だろうと割り切っているから別に動揺しない。が、次の瞬間。


 彼の抑えた左目から魔力が感じられた。


『音波さんをかばえ!早く!』


 アイが切羽詰まったような叫びを上げる。


「うがあああ!!!」


『あいつの視界から外せ!早く!』


 何かおかしいことに気がついた音姉さんが殴る為の姿勢をとろうとするが、俺は『魔力腕』で音姉さんを俺の家の玄関に投げ飛ばし、もう一度顕現させた『魔力腕』で玄関を開けて音姉さんが開いた玄関に吸い込まれたの確認して扉を閉める。


 音姉さんを視界から外した。


「あーあ、まさか発動する前に視界からはずすとか、空気読めてないなあ。」


「痛い発言するおまえよりかは読めてるつもりだが?」


 なにするつもりだったかはわからないけど、音姉さんに何かするつもりだったのは分かる。


「というか、音波さんとの話し合いを邪魔するとか、本当空気読めよ。マジで。」


「話し合いって……一方的に中二病振りまいて殴られるだけのどこが話し合いなのか教えてほしいよ……。」


「あの素手による殴打、あれには愛があるのさ。だから殴られても痛くない。」


 ……そもそも触れてすら無いけど。


 なんて言うのすら無駄だから言わない。そして全身黒の男は言う。


「貴様っ!機関の刺客だな!?音波さんを保護しようとした俺の行動と俺の心にヒビを入れてこようとした貴様の行動!!機関の刺客ならば!!」


『なんか、思い込みが激しい野郎ですねー。イラっとする。』


 この一瞬で嫌な予感を感じた俺は魔力効率が悪い、魔法という方法で視界を遮るため両手を地面につき、放つ。使い慣れない魔法、思い付きの魔法は燃費が本当に悪いのだ。


「殺しても、問題ないだろう!!」


 間に合った!


 男の眼が黄色く光る。寸前に鐘本の目の前のコンクリートが隆起し、視界を遮る。


 空から何かが降ってくる。骨だ。鳥の全身骨格だ。それに触れると、砂と化して風に流されていく。


 …………あっぶな!!


「これが俺の邪眼の能力!『時空呪縛(タイム・カーズ)』!時を速めるも遅くするも自由自在!事象の時間操作が出来るのさぁ!」


 中二病らしく詠唱して時間をこちらによこせ!マジで即死クラスじゃねえか!つか!


「音姉さんに当てるつもりだったろ!?こんな危ないやつぶっ放してどうするつもりだ!」


「言ったはずだ!時間操作は自由自在だと!時間停止!」


 頭上を通り抜ける鳥が止まった。止まった。落ちてくる。


 ドスッ


 鳥は受け身すらとらず落下する。しかしダメージのようなものは見受けられない。


「時は動き出す……」


 ぐしゃぁ!


 恐らく鳥に落下した衝撃が入ったのだろうが、思い切り潰れた。


「これで運ぶのさ!どうだ俺の完全な能力!………なんだこれは!」


 そこには火の玉が大量に浮いていた。その数、百は越えている。


 俺はファイアボールを前方にむけて放ちまくっていた。とにかく速く詠唱する。


「弾幕か……いいだろう!この俺が相手になってやろう!」


 黒男がこちらによってくる。避けていくのではなく片っ端から巻き戻したり加速したり。


 自転車もぶっ飛ばしたが黒男、気にしない。


 そして黒男は隆起したコンクリートの前に立ち、告げる。


「負けを認めるんだな!この俺!時空帝(タイムエクストラ)に闘いを挑んだ事を!」


 そしてコンクリートが崩れ、その先には。


「んな!?いないだと!」


 瞬間、腕が崩れたコンクリートが先程あったところから出現し、黒男の顔面をアイアンクローの要領で締め上げる。


「がああああ!!!」


 油断してくれて助かった。眼の力なのだから視界に収める必要があり、能力は左目。片目だ。左目の見ているところは火の玉だ。自宅の玄関と反対側の火の玉が変な動きをしたときに玄関まで駆け込む。只、玄関は音が発生する。なので裏口からはいる。どこの一軒家にも裏口やら窓やらはあるだろう。まあ自宅だが。


 そして自転車を投げて男がよける。このとき男は殆ど隆起したコンクリートのまえにいた。なので魔術を消しても気付かれることは多分無い。相手は前しか見てない中二病だからだ。いや、ただの馬鹿だからと言うべきだ。中二病に失礼だ。


 俺は二階ベランダから屋根の上に──このとき自転車を投げて外にでる音をごまかしたつもりだが、ごまかせたかはわからない──登り、上から魔力腕の準備をした。


 そして男が自信たっぷりに告げる。外れであることも知らずに。


 そしてコンクリートが崩れる瞬間に魔力腕を発動する事で、空間に腕を出現させる練習をしようとしたのは言わなくていいことだろう。


『どうしますか………。音波を危険なことに巻き込もうとした元凶を許すつもりは無いですけど。あ、ご主人が音波を玄関に叩き込んだときに認識阻害しましたけど、多分むだでしたかね?』


 あれ?お前そういえば音波さんとか音波とか、前も言ってたけど、音姉さんのフルネーム教えたっけ?


『………いいじゃないですか、気にしたら負け。ですよー。』


 自分の部屋から眼帯を取り出す。


『無視っすか……。つか何故そんなものが……?』


 俺もそういう時期があったとしか……。


 玄関から家の外にでる前に音姉さんが声を掛けてくる。


「お前も、そっち側に行っちゃったのか……。」


「ん?どゆこと?」


「……何でもない。」


 ただそのときの音姉さんの顔はなんというか、悲しそうだった。




「…………。」


 体と顔の左半分を埋められた男はさすがに黙っていた。


「よう、た、時空帝(タイムエクストラ)……ぷふっ。」


「わ、わらうな……。」


「無様だな、そのような大層な名前を冠する者よ。」


 ……言うのが恥ずかしいんですが。


 演技じみた言葉を俺は続ける。


「貴様の邪眼、俺にとって驚異になる。そこでだ。」


 俺はポケットから漆黒(ただのぶらっく)の眼帯を取り出す。


『その手に乗りますかね?』


 自分を信じることもまた中二病の真髄かなぁと。


「この眼帯は貴様の邪眼を封じるアイテム、これをつければ一生外せない。その名も………。」


 やっべえ名前考えてないわ。………。


「その名も?」


 男は、聞いてきた。


「その名も………。」


 くそうっ!どうにでもなれ!


「邪眼封印眼帯と書いて……」


 封印ってなんつったっけ……?


「シールドアイズ……!!」


 なんか、どっかで、封印=シールみたいなの聞いた気がする……多分そうだ。そうに違いない。


邪眼封印眼帯(シールドアイズ)………!?何だとそんなものを左目に………させるか!!」


 コンクリに埋めたのにもがくな。


 俺は左目の上の辺りに眼帯を当てて顔面の岩を砕く。


 眼帯をさせることに成功。危なかった……。


「ぐああああ!!左目が!灼けるように痛いいいい!!」


 因みに眼帯には唐辛子エキスなるものを塗っていた。だから痛いだろうが、殺そうとしてきたんだからこのくらいは許してほしい。


「こ、これが……!邪眼封印眼帯(シールドアイズ)の……邪眼封印眼帯(シールドアイズ)の力ということか………!?目が灼けるううううう!!」


 その演出効果も有るんだが、中二病はちゃんとやってくれたようだ。期待通りに。


「そういえば、お前は誰なんだ?」


「うあああああ!!!ああ!!がああああ!!!」


「うるせえ!少し黙れ!」


 右腕でぶん殴る。だが何か、おかしい。男の方じゃなくて右腕な。


 右腕の動きが緩い………?


「はあ…はあ…サンライトの勧誘員たる俺は言わないぞ!貴様のような奴に屈するか!!」


 そういえば、スターパレスやらムーンライトとか言ってたよな……星宮(スターパレス)月光(ムーンライト)


 …まさか?


「おい、お前、太陽協会の奴か?」


「なんで!?僕まだ何も言ってないのにバレた!?」


「殆ど言ってたろ……勧誘員はみんな手荒な真似をするのか?」


 菊川柚里といいこの男といい……。


「前からいってたの!僕は他の協会が音波さんの才能に注目して、狙ってるのを!だからうちの協会の庇護の元でちゃんとした平穏な暮らしをさせてあげようって行動に出たのに……君が邪魔した!」


 この男、色々有るんだなあ。中二病こじらせてなければいいやつ何だろうけど。


「なあ、危害を加えるつもりは無いんだよね?だったら眼帯外してもいいよ?」


『ご主人、情に流されないでください!』


「まあ、音姉さんをしっかり守ってくれればいいんだからさ。だって俺もそっち側だしさ、村上さん曰わく報復とかザラっていうしさ、俺じゃ守りきれないだろうし。」


 ゆっくりと男が眼帯を外す。


「僕は神代(かみしろ) 智也(ともや)、魔導師名は邪気左眼。」


「音姉さんに危害加えたら、赦さないよ?」


「ああ。」


 この話はここで終わりだ。


 つか、音姉さんにどう説明したものか。


 などと頭を抱えていると。


「大丈夫だよ、音波さんとは大学同じだからさ、それとなく守っていくよ。」


 そう言った彼の目は、左目は、充血していた。


 本当、ごめんなさい。











「ただいまー。さっきの追い払っといたよー。」


『……………あの、明日……。』


「んー、ありがとね、秋。」


───お前も、そっち側に行っちゃったのか


 その言葉を言ったときの悲しそうな顔はどこへやら、割と嬉しそうな声色である。


「あの男さー。中二病全開でうざいのなんのってな…。」


「そういや面識あるんだっけか。」


「かなり受ける講義がにてるからよく顔合わせるんだけど。」


 言うか言わないか悩んだのか、少し間を置き。


「一度さ、駅前で偶然会ってさ。そのときあいつ、素だったのよ。あいつ、素だとさ、凄い気が弱いのよ。」


「なにが言いたいの?」


「…………結論だけ言うと別にみんな裏側があるんだからわざわざ裏側について言わなくても良いんだよってこと。繋がってないけどね、話が。最近帰り遅いのも理由があるなら良いし。」


 すげえ掌返しだな。


「そうか、まあ、言わなくても良いなら言わないよ。」


 これを一段落ついたとしたのか、アイが口を開く───口無いけど──。


『ねえ、ご主人。』


 ん?どうした?


『腕、医師に見せに行きましょう?右腕、あの男に見られちゃったみたいで……ハハハ……。』


 ヤバいよ、それは。

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