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千年のSS級は愛されすぎている  作者: 伊乃ノイ
第一章 開幕編
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第九話 生徒会大集合〜!

 私は、キーランとリュカによって強制的に引きずられる形で、生徒会室に来た。


「まったく……あの竜巻の中に飛び込んで助け出したっていうのに、どうして捕まえられる側になってるのかしらね……」


 私がぽつりと呟くと、背後のリュカがにこにことした笑顔で答える。


「それはリィルティが、記録的な魔力暴走事件の中心人物だからだよ! 記録、そして検証! これはもう義務だね!」

「……暴走させたのは私じゃないのだけど」

「うんうん、でも記録的には違いないから!」


 話が通じる気配がない。とりあえず諦めて椅子に腰を下ろすと、隣に座ったキーランが、しれっと私の隣に寄り添うように座る。


「キーちゃん、そろそろ私離れしないとね」


 からかうようにそう言ってみせると、キーランの紅い目がぴくりと揺れた。その途端、彼の眉が僅かに寄せられ、耳がほんの少し赤くなる。


「……は? 無理」


 あまりの食い気味に思わず溜息をつく。


「ちょっとは考えてくれてもいいじゃないの」

「考えた結果、無理だった。俺はリィルティの隣にいるのが正しいし、落ち着くし、離れる意味が分からない」


 その間にも、彼はごく自然な流れで、私の椅子の背もたれに腕を回してくる。あからさまな囲い込みだ。


「困った子猫ちゃんね。子猫は独り立ちをしないとダメなのよ?」


 からかうように微笑むと、キーランはぴたりと動きを止めた。まるで言葉の意味を慎重に反芻(はんすう)しているような顔で、じっとこちらを見てくる。


「……じゃあ、リィルティが育てて」

「育てる前提なのね?」

「俺、リィルティじゃないと無理だから」


 そう言い切った彼の瞳は、子猫というより、飼い主に捨てられたら即死するタイプの猛獣だった。


「それじゃ私、毎日ミルクやらお世話やらしないといけないじゃないの」

「それでいい」


 迷いなど一片もなく、放たれた言葉だったがそれがどこか誇らしげである。


「リィルティ様ぁぁぁっっ!! ようやく見つけましたわ!!」


 少し呆れていると、ドアを勢いよく開けて現れたのは、案の定グレースだった。金色の巻き髪を揺らしながら、こちらへとやって来る。


「リィルティ様っ! 何度も言わせていただきますが、いくら何でも無謀すぎますわ! あんな暴風の中心に飛び込むなんて……わたくし、心臓が止まるかと思いましたのよ!」

「うーん、私魔法を禁止されているから仕方がなかったと思うのよね。学園長も拳でどうにかしろ!って言ってたし……」

「拳って!! 何故誰も止めなかったんですの!? ……学園長も学園長ですわっ!」


 グレースはぷるぷると肩を震わせながら、まるで雷を溜めこんだ雲のような勢いで詰め寄ってくる。


「リィルティ様のような華奢で可憐で、尊き存在が拳など振るってどうしますの!? 手が荒れたらどうするんですの!? 怪我したらどうするんですの!? 泥が跳ねたらどう責任を取ればいいんですの!?」

「えっ、そこまで?」

「当たり前ですわ!!」


 机をバンと叩いたグレースに、近くにいたリュカが「おおっ」と感心したように声を漏らした。


「ふむふむ、これも記録しておかないと」


 いつの間にか魔導端末にメモを走らせている彼に、グレースの眉がぴくりと跳ねた。


「リュカ・エスランデ」

「うん?」

「あなた、さっきから何を記録していらっしゃるの?」

「リィルティに関する重要な記録だよ。すべてが学園の未来に繋がるんだ。それに『三美人』の一人だし、記録しないわけにはいかな――」

「お黙りなさいっ!!!」


 ばっ、と音がしそうな勢いで、グレースがリュカの魔導端末を奪い取った。


「わたくし、何度も申し上げていますわよね? リィルティ様を、勝手に研究対象のように扱わないでくださいませと!!」

「リィルティを研究しないわけないでしょ! それに、僕の生きがいなんだ! 今ここで、端末を壊されたら、僕は死んでしまうんだぞ!」


 リュカは端末に手を伸ばしながら、今にも涙を流しそうな顔で訴えてくる。


「なら死になさい! あなたの代わりならそこら辺にいますわ!」

「ひ、ひっどっ!!」


 リュカは胸を押さえ、劇的に後ろへ倒れ込みそうになった。なんなのだ、これは。


「この学園にリュカ・エスランデは二人といないんだぞ!?」

「だから何ですの!? 一人いれば十分ですわ! 一人でも多いくらいですわ!!」

「それってつまり、僕って貴重だけど厄介ってこと!? そんなの僕が一番分かってるけどさ!」

「でしたら自覚して控えてくださいませっ!」


 二人の言い合いはもはや騒音レベルだった。周囲の空気は妙な熱気を帯び、私も椅子に座ったまま、じりじりと後退したくなる。

 その光景を、隣のキーランは頬杖をつきながらうんざりしたように眺めていた。


「……リィルティ、疲れただろう。俺が抱っこして部屋まで運んであげる」

「それはダメよ。私の部屋、今散らかってるし、本だらけだから怪我でもしたら大変よ」

「……つまり、俺を招き入れるために部屋を掃除すればいいってことか?」

「違うわ」

「……いや、でもそれって、そういう意味じゃないのか……?」


 ぶつぶつと何かを考え込むキーランの耳が、僅かに赤くなっているのは見なかったことにしておいた。いったい何を考えているのか分からないが、無視をすることにしよう。


 そんなことを思っていると、生徒会室の扉が開かれた。そこに視線を移すと、ゼノとルークが並んで立っていた。


「ゼノォォォ……助けてくれ……僕、心がもたない……」


 リュカがゼノに縋るように、ズルズルと床を這いながら近寄っていく。その手には、どうにか奪い返したらしい魔導端末がしっかりと握られていた。


「僕の記録は……僕の魂そのものなんだ……もう、グレースに踏み潰されるかと思った……」

「……心がもたないのは、日頃の行いのせいだろう」


 ゼノは冷たく突き放しながらも、僅かに溜息をついてリュカを引き上げる。どうやら、慣れっこらしい。

 一方、ルークはというと、私の横でくっ付いているキーランに穏やかな……いや、穏やかすぎて逆に怖い微笑を向けていた。


「キーラン。ずいぶん親しげですね?」

「隣に座ってるだけだ」

「隣というより、寄り掛かっているように見えますが?」


 ルークは笑ったままそう言い、キーランの肩をぽん、と軽く叩く。

 はぁ、また始まるのか。いっそのこと、ウェトゥンとお茶をしていたほうがよっぽどマシかもしれない。

 ウェトゥンと過ごす午後の時間のほうが、ずっと穏やかだし、マカロンも美味しい。なにより、この空気の濃さに比べたら、ウェトゥンの毒舌なんて砂糖菓子みたいなものだ。

 ルークと話すのも好きだが、キーランと相性が悪いのかいつも喧嘩をしてる。

 私は椅子の背にもたれながら、静かに悟った。この学園、本当に大丈夫だろうか、と。

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