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千年のSS級は愛されすぎている  作者: 伊乃ノイ
第一章 開幕編
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第一話 愛されすぎてしまった!

「うん、いい天気」


 一時間ばかりの研究が終わり、私は庭に出て体を伸ばした。気持ちのいい朝の風が私の頬を撫でた。


 ここは、フロートゥーラ学園。魔力を持つ者たちだけが入ることができる学園。魔力があれば、身分関係なく入ることができる。平民でも貴族でも、王族でもこの学園ではすべてが平等に扱われる。それが、ここのいいところだ。

 入学は、基本的に十二歳から。だが、後から魔力の存在が判明して十六歳で入る者もいれば、私みたいに二十歳を過ぎてから入学する者もいる。とはいえ、年齢に上限はある。学園長曰く――


『中年や老人が混ざると、いろいろと面倒だろう? だから上限は二十五歳までって決めたんだ。僕の美的感覚に従ってね』


 ……とのこと。本人はそんなふうに言ってるけど、そんなんでいいのだろうか。


 まあ、私は自分の年齢なんて適当だから、あまり気にしてない。というか、覚えていない。自分が何歳なのかなんて。それに卒業についても、特に「いつまでに」という決まりはない。


 一年で卒業する者もいれば、十年いても卒業できない者もいる。試験や評価はあるが、それ以上に魔力との向き合い方が重要視されるのが、このフロートゥーラ学園なのだ。

 この学園は、A、B、C、Dに分かれる。CとDは下級ランクとされ、特別な訓練も設備も与えられない。授業も基礎ばかりで、卒業後は王都での仕事にも就きづらいとされている。

 逆に、AとBは特別扱い。魔力量が一定以上であると判定された者だけが所属でき、上級魔導書や高位の演習にも触れることが許される。つまり、学園の未来、いや、国の未来を担う者たちが集められているというわけだ。本当にくだらない。

 だが、CとDに関しては私が無理やり首を突っ込んで改善させたから問題ない。あの学園長に任せていたら、いずれこの学園が滅びそうだからだ。そもそも、学びの場だというのに差別する理由が分からない。


 そして、これは特定の者にしか知られていないことなのだが、この学園には「シークレットランク」というものがある。学園長がひた隠すほどに、誰も知られていないランク。そのランクを私が知っているのは、私こそが「シークレットランク」だから。


 ――そのランクの名は、「SS級」。


 存在しないはずの階級。Sどころか、二重のS。学園の資料にも記録はなく、魔力測定の装置すら壊れる。だから、学園長は魔法を使うすべての授業には、私を参加させることはない。


『いいかい、リィルティ。君が本気を出せば、講堂どころか校舎ごと消し飛ぶ。授業に参加なんて、もってのほかだよ』


 そう言って柔らかく微笑むそのエルフは、長い銀髪を背に流した、美貌のエルフ。若々しく見えるが、実年齢は多分数百歳。当の本人は、「おじいちゃん」と呼ばれたくはないのか、必死に若作りをしている。とはいえ、エルフの年齢は当てにならない。

 というより、私ですら年齢を把握できていないのだから、もしかしたら「おばあちゃん」かもしれない。いや、この時代からしたら――。


 いや、これ以上考えるのはやめよう。


『ウェトゥン、私、そこまで暴れたことないでしょう?』

『まだね。君の魔力は未知数だから。僕としては、学園が爆発しない未来を選びたいんだ』


 ウェトゥン・ルフェイ。フロートゥーラ学園の学園長。名門エルフの家系出身で、魔導理論の第一人者だ。そして私は彼に拾われて、彼と共に過ごしてきた。


『とにかく、授業は座学だけで十分。君には特別課題を出しておくから、図書塔で魔導理論でも研究してきなさい』


 まったく……ウェトゥンの言う「特別課題」って、たいてい「上級魔導士養成試験」レベルなのだ。座学で暇を持て余すどころか、むしろ脳が過労死しかける。

 それで私は、特別課題も研究もいいところまで進めて今に至るというわけだ。


「リィルティ! いたいた!」


 私のもとに駆け寄ってきたのは、緑髪の少年、リュカ・エスランデ。いつも生真面目で、無駄に記録を取りたがるタイプ。まるで学園の風紀委員。いや、実際そうなのだが。


「リューちゃん、また何か報告かしら?」


 からかうようにそう言うと、リュカはピタリと立ち止まり、頬を引きつらせた。


「その呼び方、やめてって何度言ったら分かるの! 僕はリュカ・エスランデであって、リューちゃんじゃない!」

「うーん、でも可愛いと思うのよね、そのあだ名。似合ってるわよ?」

「可愛いって言われて嬉しいのは、せめて女の子だけだと思う!」


 ぶつぶつ言いながらも、彼は手にしていたタブレット型の魔導端末を操作して、何やら記録を確認している様子だった。


「で、今回は何のご用件かしら、風紀委員殿?」

「学園長から、また『様子見』の依頼があったんだよ。『リィルティのオーバーワーク傾向を把握し、過労が見られる場合は即座に休憩を取らせること』って……」

「はぁ……ウェトゥンったら、またそんな命令を」


 もう何度目か分からないこの流れ。私が特別課題をしていると、だいたい誰かが監視という名目で様子を見に来る。もちろん、送り込まれるのは決まってこの風紀委員。


「それと、追加報告が一つ。さっき、演習棟の方で微弱な魔力の暴走が感知されたらしいんだ。警戒レベルは低いけど、念のためって」

「……ふうん。誰か、制御ミスでもしたのかしら?」

「そうだと思ってたんだけど……気になるのは、その波動が通常の測定で『認識不能』って判断されたこと。つまり、魔力量はあるのに、測定不能なタイプ、君みたいな」

「……へぇ」


 私は再び、体を伸ばしてしっかりと立つ。


「見に行くの?」

「ええ。ちょうど脳も疲れてたところだし、少し運動しようかしら。ね、リューちゃん」

「だからリューちゃん言うなーっ!」


 私は、リュカの背中を押しながら演習棟へ向かった。


 この世界に「SS級」は私しか存在しないらしい。

 もう少しだけつけ加えると、そのレベルになると、瞳の色が変化する。私の髪の色は生まれつき水色の髪なのだが、瞳はいつの間にかオパール色に変化していた。

 でも、別に嫌というわけではない。むしろ、この瞳のおかげでそのレベルを与えられたと言っても過言ではない。

 このレベルだと好き勝手にいろんなことをできるし、今年の行事も、参加する必要もなくただ眺めているだけ。面倒くさいこともしなくていいのだから、とても快適なくらいだ。

 しかし、一つだけ難点がある。

 私はどうやら、人に「愛される」フェロモン的なものを持っているらしい。だからなのか、リュカも他の友人もどこか過保護だし、距離感がおかしい。いや、友人って言っていいのか。

 彼らはみんな、「友達」以上に私のことを特別視していて、それが時々、重い。たとえばリュカなんて、朝から晩まで私の行動を記録しようとつきまとうし、私が誰かと話しただけで眉をひそめる。本人は「風紀委員として当然の義務」とか言ってるが、絶対違う。


 他の者もそう。誰かに道を聞いただけで、その相手に睨みを利かせたり、手作りのお菓子を渡されては「これ、毒とか入ってないよね?」と検査されてからようやく渡されたり。


 でもまあ、あまり気にしないでおこう。気にしていたらキリがない。

 だが、簡単にまとめればどうやら私は「愛されすぎている」ということだ。


 ――という認識で間違っていたら間違っていたで、何も言わないでほしい。


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