第80話 最終話 『あの、神部家のメイド、サチエです』
「あれが、神部家の平成生まれの例の人たちか・・・凄い、まだ高校1年生なのに貫禄がある」
バスから降りる楓たちを遠くから見るのは、ここで小学校を卒業した者たちだ。
神部の学生たちが全員集められて、卒業祝いが行われる。
もちろん、大人も参加している。卒業生の親は勿論だが、神部の人間ならば一応は出入りが自由だ。
夏の合宿に行った時に乗ったバスで神部の本邸からやってきた楓たち。
20人近くはいる。
この年の生まれが今の神部の学生の中で一番多い。
既に別邸で待っていた高校と中学卒業の者が見ても、その光景に圧倒される。
「毎年ながら良くやるよなぁ。卒業パーティーだなんてな!でも、入学祝いのパーティーはしないのにな!」
バスから屋敷に向かいながら紅葉がケラケラと話す。
「そりゃそうでしょう!4月の新年度なんて会社は忙しいんだから!入学式に行ける親がいるだけでもマシよ。私たちの親だってろくに入学式来ないじゃない」
「お前は高一の入学式にそもそも日本にいなかったけどな」
「あんた殴るわよ?」
「大体、この規模でいつも料理余るし会場も広いんだから、”神宮”の”神代"の奴だけでも呼んどきゃ良いのにな!アイツらだって将来は神部に———」
そう言い出した紅葉の口をその場の人間で止める。
「黙れ紅葉」
楓が紅葉の口を捻り潰すように握った。
「いくら敷地内だからって、知らない人もいるのにそういうこというからお前は信用を無くすんだよ」
桔梗が喉を掴むように。
「本当に言っちゃいけない場所じゃなくてまだ誤魔化せそうな場所でしか言わないっていうのがタチ悪いよね」
櫻が後ろから髪の毛を引っ張るように。
「外でホイホイ秘密を喋る様な奴だったら会長だって何がなんでも神部から出て音楽させる許可なんて出さなかっただろうね!」
双葉が後ろから羽交締めの様に捕まえる。
「どなたですか?”神宮”の”神代"って?」
サチエが今まで聞いたことの無い名前に質問をした。
「気にしないで!ただの親戚よ!」
「あぁ、そういうことでしたか。そうですね。凄い規模ですから呼んで差し上げてもって思ったのですね。でもなんか口に出さない方が良いのですね。私もそれ以上は聞きません。初めから聞かなかったことにします」
「秋さんは聡明ですね」
珍しく壱葉がサチエに話かけた。
「なんか、これ以上知ったら後戻り出来ない気がしたので。まぁ、俗に言う危機管理能力と言いますか、防衛本能ですね」
その光景を遠くから見る他の神部の者たち。
「あれ?なんか違う制服の人いない?」
「双葉君じゃないの?」
「違うよ!色違いじゃなくて、ワンピースの制服着てるよ!」
「そんな学校あったけ?顔は?顔見れば誰かわかるんじゃない?」
「それがちょうどこっからだと見えないんだよ、それに、あ———!」
「では、私は調理場に直行いたしますので失礼っ!!」
そう言い、サチエは他の神部が正面玄関から入るのに対し、建物の側へと向かった。
「サチエ、頼むぞ」
「私たちも楽しみにしてるから!」
「いっぱい作ってくれよなー!」
次々に応援の声が掛かる。
「お任せあれっ———!!
・・・———
身内ということもあり、パーティーの最初の挨拶は軽く終えた。
そこから立食だ。
色んな年齢の者がそれぞれ話しかける。特に、違う屋敷に住んでいる者同士は学校が同じでなければ普段から会うこともない。
ここぞとばかりに話し掛けるものもいる。
「壱葉君!壱葉君はお医者さんになるって聞きました!僕も、将来はお医者さんがいいなって思ったんだ!でもお父さんは神部に就職しなさいっていうんだ。・・・でも!それって、お医者さんになって神部に就職するっていう方法もあるのかなっ?!」
小学校三年生に喋りかけられた壱葉。
壱葉はあまり子供が得意ではない。
「それは・・・君のお父さんとよく話をした方がいいと思う。その考えもとても良いが・・・でも、何よりも君の人生だからやはり君の意見が一番であって、それに医師免許を取得した後に神部に入るというのは私と同じような道であって、しかし私とは状況が違うからして・・・」
「壱葉、そんなことぶつぶつ言ったって困っちゃうよ。あのね、子供にはこう言えば良いの!
『そっか!やり方はたくさんあるから頑張れー!!』」
「あ!双葉君だ!うん!頑張る!!」
満足して少年は料理を取りに行った。
「あんなんで良いのか?!」
「良いんだよ、誰かに応援してもらいたかっただけって感じだったら。むしろここで壱の具体的な戦略や進路の候補を聞いたら、『そうしなくちゃいけない』って足枷になりそうだったし。
どうすんのよ、彼が明日どこかのサッカーの試合を見て『サッカー選手になりたい!』って思ったら。そう思ったのに、『昨日、壱葉くんにあんなに聞いちゃったし・・・』とか悩んだら可哀想でしょ」
「そういうタイプだったのか?」
「そういうタイプでした」
「まだかな〜!まだかな〜!」
取り皿を持ってウキウキとしている紅葉。皿の上はまだ空である。
「もみじくん!なに待ってるのー!」
「ももじくーん!」
寄ってきたのは紅葉と同じ屋敷に住むまだ小さい姉妹だ。
「おーう!料理待ってんだ!」
「本当だー!ここのテーブルだけまだなにもないねー!なにがくるのー?」
「みんなが食ったことない美味しい料理だぜ!」
「たのしみー!わたしたちもそれ食べていこー!」
「たべるー!」
「このスペースはこれからなのね」
「私もここで待とうかしら」
「へー、メイン料理かな。楽しみだね」
「その間にローストビーフを食べておこうかな」
次第にまだ料理のコアにテーブルに人が集まり始めた。
「これだけ待たせるんだ!さぞかし料理長の渾身の品なのだろうな!」
一人、煽るように言った。
「っげ!!薫子の叔父さんじゃん!!」
紅葉が小さい声で言った。
確かに神部の者なら自由に参加だ。しかし、誰もが来るとは思っていなかった。
・・・———
調理場の扉の前で、柊が柳と立っている。
調理場内の話をまたも盗み聞している。
調理場内は見えない。
「今日、私がパーティー行くって言ったら叔父様も着いてきちゃったのよ。サチエ、調理場から出るの嫌でしょう?ここで三人で居ましょう?」
「別に差して気にしませんが、私は料理が食べれればどこでも良いです。会場に出される前の出来立てを頂けるこちらの方が私にとっては良いのかもしれませんね」
「確かに、一番美味しい状態で食べれるもんね。さっきのパスタとかさ」
「そうです、流石ですよ蓮さん。生のスパゲッティーなんてできた瞬間が一番なのです。ガラガラと運んでいる最中に麺が伸びてしまいますからね」
中で楽しそうに話すサチエと薫子と蓮。
その会話を聞いてまたも悔しそうにする柊。
「なんで!!サチエさんはウチの屋敷にいるのにあの二人と会って話ている時間の方が多いんだ!おかしい!!」
「ねぇ、柊、お腹すいちゃった。ここじゃなにも食べれないから一回会場に戻ろうよ?」
喋っている隣で、ガラガラとワゴンが運ばれていく。蓋をしてあり、どんな料理かはわからないが、香ばしくとても美味しそうな匂いに柳も空腹が限界だった。
一度、ワゴンと一緒に戻った二人。
すると、空のテーブルに人だかりが出来ていた。
「おお!待っていたぞ!早く開けたまえ!」
薫子の叔父が急かす。
給仕係が、トレイをテーブルに移して蓋を開けた。
「さて!子供たち集まれ!子供たちの為の今日のメインディッシュだぞ!」
紅葉の言葉に子供たちが集まった。子供向けの商品だと周囲に知らせて大人たちを遠ざけたかった。
しかし
「なんだコレは?!」
子供たちをかき分けて入ってきた叔父さんが一番に声を上げた。
「焼きそば?!たこ焼き?!じゃがバター?!牛串?!広島焼き?!なんだこのメニューは?!料理長を今すぐ呼べ?!なんのつもりだ!!」
「あちゃー、子供向けだって言ってんのにー!」
叔父さんの声に驚いた給仕係はすぐにその場から料理長を呼びに戻った。
「叔父さん、コレは俺たちが言って作ってもらった料理です。我々は子供の頃、”お祭り”に行くことはないから、こういう場で世の中の子供が食べている屋台料理を体験して欲しかったんです」
「またお前か?!こういう余計なことをして!!」
楓と叔父さんの喧嘩が始まった。
「はいはい!うるさい叔父さんは放っておいてみんなたこ焼き食べようねー!」
「わーい!はじめてたべるー!うれしいー!」
「たべうー!」
「あー!!君は残念だけどタコが噛み切れるかわからないからお兄ちゃんがタコをとってあげよう!代わりにお姉ちゃんタコ倍増だ!」
「こんな低俗な料理などな・・・!」
「失礼致します。味は確認いたしましたので美味しいと思いますよ?まぁそれでも個人の味覚には差がありますのでなんともですが」
叔父の言葉を遮って話に入ってきたのは・・・スレンダーな女性だった。
「お前誰だ?!料理長じゃないだろ?!お前が作ったのか?!」
「はい、私が依頼を受けて作りました。別にお召し上がりにならなくて結構ですよ。そもそもお子様に向けて作りましたので」
「そういう問題じゃない!コレからの子供にこんな低俗な物を食べさせるなと言ってるんだ!」
「なにを仰いますか。社会勉強ですよ。あなた方は低俗なものを好んで食べる必要はありません。しかし、あなた方が今・・・そして、神部のこのお子さんたちが今後相手にするのはその『低俗なものを好んで食べている一般人』です。
どういうものを食べて生きてきたか知るのも大事じゃないですか?そこから生まれる新しい商品があったりもするんじゃないですか?」
「お前・・・!見た目が良いからと生意気に私に口答えなど・・・!!」
二人のやり取りに周りがざわつき始めた。
うるさいことで有名な薫子の叔父。周知の事実で食って掛かるものはあまりいない。つまり、この光景もあまり目にしないのだ。
しかし、そのうるさい叔父に立ち向かう女性を見て、周りの者が興味を持ち始めた。感心する者すら出てきた。
「あの人一体何者なの?!あれだけの啖呵を切って・・・絶対ただのメイドじゃないでしょ?!」
「あの人だれー?かわいいー!」
「ちがうだろ、”美人”なんじゃないのか?」
それぞれが口にする。
そんな中、女性が叔父にトドメを刺した。
「それよりも、お祝いのお席でこのように騒ぎ立てる貴方の方が低俗です」
周りからは拍手が聞こえてきた。
会場が、完全に女性の意に賛同した。
「楓!お前がまた訳のわからないのを見つけて連れてきたのか!!」
「まぁ、連れてきたのは俺たちですけど・・・知りませんか?彼女の事?」
薫子の叔父・・・基、あの”ハゲ殿様”までもが信じられない言葉を口にした。
「あんな美人・・・いや、美人とはちょっと違うか?可愛いともまた違う・・・!ええい!なんでも良い!美女だ!あの美女は誰だ?!
最近は神部の本邸には行っていなかったが、半年前には絶対にいなかったぞ?!君はなんて言うんだね?!」
「おや、覚えて頂けてないようで残念です。あれほど熱烈に髪の毛のお話を持ちかけましたのに」
「髪の毛の話・・・?私に向かって髪の毛の話をする無礼者などあのメイドしか・・・お!お前!!まさかっ?!あの・・・!!」
女性を囲うように神部の面々が揃った。
一番誇らしげにしているのは最初に会った楓である。
そんな周りを気にせず、女性は自己紹介を始めた。
「はい、そうです。私が・・・
あの、神部家のメイド、サチエです」
忙しさに勝てず、スレンダーになり、妖艶な雰囲気を醸し出すサチエがそこにいた。
神部家のメイド、サチエです。ー完ー
ご覧頂きましてありがとうございます。
他の作品『一年が十一ヶ月しかない君たちへ』とリンクする部分がありました。
続きを書きたいのでうが、他の作品の続編もありますので未定です。
お付き合い頂きまして本当にありがとうございました!




