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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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14/15

第14話 『 今日はマックです。チーズバーガー80円ですから。で、質問の答えをどうぞ』



「え?帰ってからご飯作って洗い物してそれからお風呂入って寝るの?」

「はい、ウチの親は共働きです。父も母も早くて20時過ぎの帰宅です。あ、でも土日は休みでちゃんと家に居ますよ。その時は母もご飯作ってくれます・・・モデルの人たちが食べるようななんかこう・・・ブロッコリーとササミのサラダみたいな」


「ローカロリーでつまらないって顔に出てるよ」

「嘘おっしゃい、読みましたでしょう」



 今日も双葉の部屋を掃除しているサチエ。出勤して一番に楓の部屋の掃除と給仕をした。その後双葉である。双葉の部屋の掃除も慣れてきたら三人目の部屋も始める流れだ。



「サチエ、食べるの本当に好きだって椿から聞いてさ。お菓子もそうだけど、カロリー高めなのを好んで食べてるって言ってたからね」

「脂は美味しいんですよ。チーズ大好物ですから」

「めっちゃ想像通り。なんかありがとう」

「どういたしまして。ところで双葉さん」

「ん?どした?」


 デスクから顔をサチエの方へと向けた双葉。メガネの奥の少しばかり切長の瞳と表情は柔らかく、他の女性が見たら一目惚れが続出しそうだ。180cm超えの長身、それに加えて彼は襟足が長めだ。私立の有名校ならば頭髪の長さは注意を受けるのではないだろうか・・・そんな風に思った時だった。


「あぁ、別にそこまでうるさくないよ。芸能人も通う為の『芸能コース』もある学校だからね。仕事で頭髪が金髪の人とかいるから俺くらいのは大して目立たないよ」

「それを読み取るよりも、なんで昨日の今日でこんなに部屋が汚れてるのかという疑問の方を答えて頂きたいのですけど」

「あ・・・あははっははははは!!!で?今日は何買ってきたの?」

「今日はマックです。チーズバーガー80円ですから。で、質問の答えをどうぞ」

「あー食べた事ないんだよね!一口頂戴よ!!」

「御曹司に勝手にマックを食べさせたら規約違反になりません?」



・・・———


 双葉の部屋の汚さはここ最近学校で課題があったが故だった。

 建築関係のコースに入学した双葉。早々に多くの課題が出ている様子だ。私立学園で同じ高校とはいえ、科やコースで若干制服が異なる。楓と双葉の制服はデザインは同じだが色が違う。そのようにして教師が生徒を一瞬で見分けられるようにしているのだ。


 課題を行う過程で何度もやり直しや修正をしていたために、部屋には紙が散乱、床には消しゴムのカスが大量に落ちていたのだ。使用する文房具の数も多い。サチエからしたら製図は未知の領域だが、消しゴムのカスぐらいまとめてもらいたいもの。消しゴムカス対策を考えなければならないとため息をつきながら廊下を歩いていた。


 今日は学校でYシャツを汚してしまったと臨時でクリーニングを依頼された。屋敷の中にクリーニングを請け負う場所がある。そこに出しに行く。


 その最中、廊下でサチエの携帯電話が鳴った。内線子機ではなく自身の私用携帯電話だ。特に勤務中に持つことを禁止されていない。



「『サチエごめん〜!( ; ; )お母さん、また出張入っちゃって・・・今から沖縄に行ってくる(^_^;)今回の出張が終わったらもう仕事セーブしてちゃんと家のことしようってマネージャーさんと話してるから!あ!でもブランドのデザインの仕事だけはやるからね!そうしないとお母さん自分の好きなもの買うお金がなくちゃっちゃうから!(^o^)』」


 サチエの母親からの連絡だった。出張自体は年間で多くはない。食事の支度はいつものこと。サチエも動じない。 母が出張と言っても父は毎日帰ってくる。”深夜に子供だけしかいない”という心配もない。

『仕事やりたければやってて良いよ・・・。土日にちゃんと皆んなでいる時間を作ってくれれば私は問題ないから・・・』っと返信」



 母が仕事をセーブすると言った。バイトの時間が延ばせるのではと一瞬浮き足立つサチエだったが



「(いけねいけね、もしお母さんが仕事をセーブしたら大変だ。私の家事の負担は無くなるが、一緒に食卓のカロリーも無くなってしまう!!そうしたら痩せてしまうじゃないか!!この豊満ボディーを保つのも楽しいようで大変だな全く)」



「あら、貴女。そんなに太るのが大変なら辞めてしまいなさいな?美人なのだから」


 いつの間にか目の前にクレオパトラの様な美しい女性が立っていた。

 その女性は妖艶な雰囲気を隠しもせず、サチエに言い放ったのだ。




・・・———





「(まずい。これは非常にまずい。見知らぬ方が自分の頭の中を読んだぞ。

 どういうことだ。双葉さんとは違うぞ、双葉さんはその場の空気や話の流れで『相手の考えがある程度わかる』人だ。

 私はこの人が目の前にいることすら知らなかった。そして携帯の文章を声に出して読んでない。その後のカロリーの話も口に出してない。だって口の中にはピンキーを5粒忍ばせている。私はいつもこの状態では絶対に喋らない———よってこのクレオパトラは)」



「「エスパー」ではなくてよ」

「あぁ!?母さんやっぱりここにいた!!」



 サチエの後ろから声がした。双葉が長い足で早々に駆けつけたのだ。


「ん・・・?母さん?」



「息子が世話になっております。私はこの屋敷にはおりませんので助かります。この子は人懐っこいから近くにいて喧しいと思うことはあっても気を使わなくて良い人間です。こっちが勝手に気を使うから。双葉、とても良い子がメイドとしてきてくれて良かったじゃない」


「ひょー、双葉さんのお母様でしたか。初めまして。期間限定の、メイドのサチエです」

「あら?期間限定なの?」

「はい、次のメイドが見つかるまでです。元々は———」

「あら清掃員だったの?もったいないことだらけだわ。可愛いし、メイドとしていてくれた方がきっと・・・他の子たちはわからないけどこの子には良い影響だらけでしょうね。あなたも双葉に対して気を使って無いようだし。お互いストレス無くて良いじゃないの。私は人事に関する発言の権限がないから、主人から進言して頂くわ」

「母さんそんなペラペラとっ・・!」


 なるほど。

 サチエは納得した。双葉が人の心に鋭いのは親・・・それも目の前の母親譲りなのだと。そして、その母親は双葉よりももっとその能力が優れておる。


「(”双葉オリジナル”・・・やはり精度が桁違いだ。神部家の乗っ取りだって絶対できるだろうに)」

「面白い子ねぇ・・・フフフ」

 またもサチエの思考を読んで一人妖艶に笑う双葉の母。


 そしてなぜここに居たのかもわからないまま双葉の母は歩いて行ってしまった。


「お母様、この屋敷に住んでいらっしゃらないんですか?」

「まぁ、あの察しの良さを微塵も隠さないからな。気持ち悪がられてるんだよ。隠せば良いのにさぁ〜!昔かららしいんだけど・・・でも、だからこそ親父と出会って上手く行ったってのもあるからちょっと複雑だけど。びっくりしただろ?ごめんな?俺でさえびっくりするだろうにあんな上位互換と対面したら」

「驚きましたけど、すごいなと思いました。だって、人の心がわかってなお普通にしてるんですよね。メンタル鋼ですね。あれもっと硬いものってありましたっけ?ダイヤモンドメンタル?どっちが堅かったでしたっけ?」


「え?不気味じゃない?あれが原因で屋敷から追い出されたんだけど」

「まぁ、怖い人は怖いでしょうね。お母様に対して良い印象や気持ちを持ってない人だったら”悪く思っている事が瞬時にバレる”んですから追い出そうとしますでしょうね。腹の中もバレるし。そっち側の気持ちもわからなくないです」

「好きなキャラがバレるのと同じ感じ?」

「いかにも


 ・・・ですが、それ以外、私からしたら何も被害も怖くもないです。()()()()()()()()()()()()です。だから、逆にお母様の方が心配です。汚い人と会う時は、汚いところが常にわかってるって事ですよね?」


 双葉は目を見張った。

「・・・そうだね」


「それなのに、あんなに綺麗で妖艶なんです。ダイヤモンドメンタルですよ。で、鋼とダイヤモンドはどっちが硬いんですか?」


「ーーっくく!!鉄とダイヤモンドならダイヤモンドだよっ!ダイヤよりももっと硬い”ロンズデーライト”って鉱物もあるけどね」

「それってダイヤみたいに綺麗なんですか?」

「いや、輝きはないよ、見た目はただの石だから」

「じゃあ、ダイヤモンドメンタルで良いじゃないですか」


「サチエ、お前面白い奴だな!!」


 母親とは違う、妖艶さのかけらもない年相応の顔で双葉が笑った。

 どうやら少々母親の性格や能力に対して煮え切らないところがあったのだろう。きっと苦労してきたんだなとサチエは思った。


「そうそう!まぁ屋敷追い出されるくらいだからね。色々言われて俺も嫌な思いした事あったよ!全面的に母さんが大人しくしてればいいと思ってたし!でも、まさかこんな風に言ってもらえるとはね。母さんもご機嫌で帰ってったし」

「読みましたね。そうですか。それは良かったです。では戻りましょう」


 Yシャツをクリーニングに出してサチエは来た廊下を戻り始めた。そして思い出した様に言う。


「チーズバーガー、少しでしたら分けてあげても良くってよ、です」

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