第13話 『たべっ子どうぶつです。どうせご存知ないでしょう 』
「マジかーい。俺たちが原因だったって事?でもさーメイドってそういう事は承知の上なんじゃないの?!どうなの椿、その辺?!?」
「・・・俺もこの家の生まれでずっとそうしてきた。それが”普通”で”当たり前”の世界だ。疑問を持つわけないだろう!!」
「そもそもさ!男は見られたって構わない!って感じでしょ?多分世の中的にもさ」
「そう!それだよサチコちゃん!女の子はそもそも自分から脱がないでしょ?!」
片付いた双葉の部屋で突発的なティータイム・・・お話し合いが始まった。
双葉の注文であるコーヒーと、サチエの持参したジュース。そしてお菓子である。お菓子はコンビニでサチエが買い込んだものだ。
「それ、一般の学校の体育の授業の着替えの話ですよね?違います。私が言ってるのは屋敷で密室で二人の時に脱ぎ出す事を言ってるんです。これが、雇い主29歳の社会人と23歳の新卒新人メイドだったらどうです?脱いだ雇い主29歳が本来なら露出狂扱い、または猥褻物陳列罪として逮捕では?だから言ったでしょう、女性側がOKならOKなんですって」
「何だよ!!女の子の方ばっかずるくない?!メイドって、主人の世話をするだろう?!だから目の前で脱ぎ出したって何の問題もないだろう?!洗濯物回収するのは当然だろう?!」
「業務内容に入っているんですか?説明にありますか?『主人が目の前で脱ぐことがあります』と。良いですか?私たちは仕事なんです。主人側のプライベート空間で”仕事”をしているんです。それは、主人や雇い主側が配慮すべき点ではありませんか?」
「女の子だけが自分の意志で相手を食べたり、犯罪者にすることもできるんじゃん!極端すぎだよ!狡いよ!!」
「椿さん、論点がズレてます」
「まぁサチエが言いたいのは、さっきも言われたけど逆の立場だったらどう思うかってことだよね・・・女の子が目の前で脱ぐっつったら悪く思われてないどころか大々的に誘われてるって思っちゃうよな。でもだから椿も言ったけど”女の子が脱ぐ”のはもうOKサインだろ、男が脱ぐのとやっぱり違うって」
「私もそう思いますが、それはあくまでも今ここにいる3人の意見です。これを世の中の意見とするにはあまりにも母数が少なすぎます。で?」
「まぁ2回くらいはラッキーとか思いながら様子と着替えを見ちゃうよね・・・で、3回目くらいからちょっとちょっかいを・・・
・・・そうだよっ!!みんなそんな感じだった!!」
「どうした双葉・・・あー!!確かに!!みんな入ってちょっと経った頃だったよね?!じゃあお前達が生着替えをするのを数回見て!で平均3回目くらいにイケる!!と思って寄ってきた訳か?!」
「まぁ、世の中の人全員がそうだとは決して言いませんけどね」
「現にサチエは全然だったしな。俺のズボンを引き上げた珍しいタイプだったしな」
「えぇ、ですから全員がそうではないですが、たまたま勘違いをする方が続いたのでしょう・・・でも、勘違いしても仕方ないですよね?逆だったら美味しく頂いちゃうんですよね?」
サチエが上からモノを言う。
「「・・・すみません、返す言葉がございません」」
勝ったとばかりにサチエが持参したお菓子を『ふふん!』と言いながら食べた。
「ところでサチコちゃんそれ何食べてるの?」
「たべっ子どうぶつです。どうせご存知ないでしょう」
「「存じ上げません」」
・・・———
サチエ、椿、双葉が三人揃って執事室に向かう。
最中、廊下では賑やかに話をしている。
「動物の形したクッキー?え?全部違う形してんの?金型の種類多くて製造コストとかなんか面倒そうなお菓子だね」
「椿さんの視点は面白いですね。子供がこれで動物の英名を覚えるんですよ」
「え?お菓子で?」
「え?はい。まぁうさぎとか猫とか犬は日常でも出てきそうですけど、なかなか聞かない動物の英名とかあるから面白いですよ」
「へー、例えば?」
双葉が疑問に思って聞いた。サチエがお菓子の袋の後ろに書いてある動物から出題する。
「CAMEL」
「ラクダ」
「EAGLE」
「ワシ」
「COW」
「牝牛」
「・・・じゃぁ今度は逆にしましょう。私が和名を言うので英名をお答えください。”シカ”」
「DEER」
「オットセイ」
「FURSEAL」
全問正解だ。サチエは気づいた。この人たちは有名な偏差値の高い私立高だ。学力はとんでも無く高い。英会話なんて当たり前だ。動物の名前だって知っていて凄いではなく”当たり前”レベルなのだろう。
先ほどのように、女性の前で平然と服を脱いだりと少々常識外れや世間知らずなところが見えてちょっと上からものを言い少し気分が良くなっていたサチエ。ここで全問正解されて少しムキになった。
「・・・タヌキ」
「RACCOON DOG」
「トナカイ」
「REINDEER」
「クジャク」
「PEACOCK」
「・・・では」
「サチエ、さっきから答え知らんくても適当に出題してるでしょ」
「ッチ!有能読心術者め」
ガチャー
執事室に着き部屋に入ると、楓とじいやが居た。
「じゃぁ執事長、あの件は白紙にしておいて下さい」
「良いんですか?我々としてもそうすると支出がなくなるので大変ありがたいのですが・・・」
「問題ない」
「あ、楓じゃん。良いところに」
「なんだ、椿」
早速さきほどの女性の前で着替えを始めるかどうかの意見調査を椿が始めた。
「お前、メイドの前で服脱ぐ人?」
「・・・お前何言ってんだ?」
「あれだよ?!制服をクリーニングに出す時の話だよ?!今日来てる制服をクリーニングに出したいなって時!目の前にメイドがいたらその場で脱いで頼むかって話してんの!!」
「ジャケットくらいは脱ぐが・・・他は脱ぐわけないだろう?相手は仕事で部屋にいるんだ。裸体を見る事は仕事に含まれてない。女性の前で脱ぐ馬鹿がどこにいるんだ?」
「「・・・」」
「楓さん、既にここに2名程」
「フォッフォ、やってしまいましたね。お二方」
・・・———
「まぁ、別に双葉の担当をしていたメイドだけが番号を聞いたり迫った訳ではないからな・・・いや、桔梗と櫻にも念の為目の前で脱いだか確認しないとだな・・・そうなると一概にメイドだけが悪い訳じゃなかったんだな」
楓は目頭を摘んだ。
「あと!壱葉と紅葉と萩にも聞かないとだな!」
サチエが初めて聞く名前が出てきた。みんな植物の名前である。名前だけでは女性か男性かわからないが、『女性の前で脱いでないかを確認する』とするならば男性だろうと察した。
「壱はナイナイ!メイド部屋に入れるの断ってるじゃん。紅葉は・・・あいつ最後帰ってきたのいつ?まぁ聞くなら萩だよね。可愛い顔してる萩に脱がれたら女の子喜んじゃうかも知れないし」
「あー!あり得るー!双葉よくわかってるねー!」
「黙れ、馬鹿二人」
・・・———
サチエは今日のバイトを終えて帰宅した。
「お姉ちゃんおかえりー」
「姉ちゃん!腹減ったー!!
中学生の妹と小学生の弟が二人で留守番をしている。と言ってもここはオートロックのマンションだ。不審者は入って来れない。リビングへ入ると、妹と弟がテレビのバラエティー番組を見ていた。
サチエとは違い、二人はスタイルが良い。顔もモデルの母にそっくりで整っている。
「お姉ちゃん、今日お好み焼きって書いてあったから野菜だけ切っておいたよ」
「ありがとう。助かる」
「ねーちゃん!!早く食べたい!!」
「すぐ作る」
そう言い、サチエは帰ってきた制服の上にエプロンを着ててすぐに夕飯を作り始めた。もっと早く帰ってこれたら三人でホットプレートで焼こうと思ったが、今日は思いの外遅くなってしまった。じいやの面談が急遽入ったのだ。そのため、ガスコンロでフライパンを二枚使って焼き上げる事に決めた。
「っよ!!」
「はぁっ!!」
あっという間に焼き上がった。
「美味しいー!!」
「ねーちゃんおかわりある?!」
「お父さんの分食べていいよ」
「やったー!!」
両親の帰りはいつも20時を過ぎる。平日はサチエがバイトから帰ってご飯を作る。妹も中学生になったので火を使わせても良いかなとサチエは思っているのだが、家族のご飯を作らせるのはかわいそうな気がした。サチエ自身は小学校6年生から作っているが、最初は大変で苦労した。それを妹にさせるのは少々複雑らしい。
自分は体力もあるし、まぁなんとかなるだろうと、夕飯の洗い物と自分のお弁当箱を洗った。その後はお風呂に入ってやっと就寝する。
サチエはずっと人の世話をしているのだ。




