繋いだ一撃
表現としておかしかった部分があったので修正しました。
(完全に弄ばれてる……何なの、この子の馬鹿力は!?)
カプスが大剣を振るうたびに、その剣がスピードに乗る瞬間を狙って叩き潰される。
これはカプスの経験上今までに無かった事である。
もちろん同じような事をしようとしてきた相手もいたが、
それらは根こそぎ自身のパワーと技術で薙ぎ倒してきた。
そんなカプスが手も足も出ない……どころではない。
先程のエアルへの一撃を見る限り、イズが本気を出せば自分も大きく吹き飛ばされる事だろう。
それをしないのは手加減されているからか、はたまた吹き飛ばしても致命傷にはならないという事に気が付いたからだろうか?
致命傷といえば先ほどからイリンの矢が何十本もヒットしているのに全く意に介していないのも気になる。
最強……ふと、模擬戦が始まる前に聞こえてきた単語が脳裏をよぎる。
攻撃は全く効かず、恐らくは当たれば一撃で相手を沈める……ファイターとして一度は考え、憧れる境地。
そして、そんな事は不可能だという現実に直面して技術を学び如何に効率よく連撃を叩き込むかという境地に至った。
それなのに……目の前にいる自分よりも小さくて可愛らしい存在がそれを成し得ているかもしれない。
そう考えた時、カプスの中で何かが切れた。
「ふざっけるなあああああ!!」
腰を落とし、両の手と足に在らん限りの力を入れて踏ん張る。
その瞬間、カプスは初めてイズの一撃を押し返した。
そのまま回転して勢いを増したニ撃目を繰り出す。
普通の相手ならば一撃目で弾き返されれば上体が伸び上がり胴がガラ空きになる。
だが、イズは既に体勢を戻しており、再び攻撃を相殺しようとハンマーを振るう構えをとっていた。
おそらくは先ほどよりも強い力を振るってくるだろう。
今度も回転して威力が上がったとはいえ、再び弾き返すことが出来るか迷った時であった。
目の前に突然エアルが割り込んできたのである。
「一発ぐらいなら身体で受け止めてやるさ」
エアルはそう言うと生身のままでイズのハンマーに向かっていった。
麻痺の刻印がされている為に打撃音はしなかったものの、イズのハンマーはエアルの身体に直撃し、彼は今度は横方向に吹き飛んでいく。
吹き飛ばされながらピクピクと痙攣しているのを見る限り、今の一撃が致命傷となって麻痺状態になったのであろう。
だが、身体を張ったエアルの援護のお陰でカプスは更にもう一回転分の勢いを付けることに成功していた。
二回転する事により更にスピードを上げたカプスの大剣がイズに迫る。
イズはそれを受け止めようとして……突如として後方1メートルほど後ろに吹き飛ばされる。
「レンジャーが相手との距離を引き離す為に使うノックバックアロー。
効果アリだね!……本当は10メートルくらい引き離せるはずなんだけど」
イリンが執拗に放っていた援護射撃の中の一本にスキルを纏わせた矢を放っていた。
この矢の効果により後ろに吹き飛んで空いた距離の分だけ一回転、二回転、三回転と更にカプスはスピードを上げていく。
本来は連撃を意識して行う技であるが、カプスの中の意地がこの一撃に全てを賭けるべく、己が制御できる限界を超えて回転する。
そのあまりの勢いにすっぽ抜けそうになるのを力で抑え込み、重心が乗るラインへと引き戻していく。
(くううう……腕がもげそう……だけど、後、後一回転だけでも……あの化け物に一矢報いる為にも……)
そう考えて根性から己の力を絞り出そうとした時であった。
突然身体に感じたことがない力が湧き上がるのを感じた。
「これが私が使える最も強い強化魔法です。
皆さんで繋いだ一撃、ぜひ叩き込んでください」
シンリの声が聞こえた……いつも厳しい執事長からは考えられないほどに優しさに満ちた声。
カプスは口元に笑みを浮かべると更に回転するスピードを増していく。
最早そこから竜巻でも起こせるのではないかと錯覚するほどの回転……だが、闇雲に回るのではなく、自身が握りしめる大剣が最も威力の出るルートを見出していた。
「ド……こんじょおおおおお!!」
更に限界を超え、カプスが憧れた全ての相手を一撃の元に粉砕する威力の一撃……遂に完成を迎えたその魂の一撃がイズへと迫る!!