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アイリ視点:婚約者の妹という存在

 かつての新城アイリにとって、生きているのはつらいことばかりだった。

 たった10年しか生きていなかったけれど、アイリはもう人生に絶望していた。


 幼い頃に、自分を産んだ母親は、父と離婚して家を出てしまった。その後、父と再婚した継母は事あるごとにアイリにつらくあたった。


 アイリの実母と継母は、かつて父をめぐる恋敵だったらしい。


 アイリの母は、金髪碧眼の美しい女性で、そして、とても優秀なエリートで気の強い性格だった。

 父はそこに惹かれ、そしてそのことが、結婚後の二人の不和につながったのだろう。


 反対に、継母はきれいな人ではあったが、やや地味で大人しそうなタイプだった。

 継母はアイリの実母を憎んでいて、強い劣等感を持っているようだった。

 

 継母がアイリを虐待したのも、それが理由だった。そして、父も自分を捨てた前妻の娘を嫌悪していた。


 だから、アイリにとって家族というのはいつも恐怖の対象だった。


(でも……)


 見神家に来て、「そうではない家族もいるんだな」とアイリは思った。


 見神透も見神愛乃も、そしてもちろん見神玲音も、みなアイリに本当に優しかった。こんな優しい場所が世界にあるんだ、とアイリは初めて知った。


(やっぱり玲音くんはわたしを助けてくれる……)


 玲音と婚約してから、アイリは初めて生きているのが楽しいと感じるようになった。玲音はとても大人びていて、親切で、かっこよかった。


 そんな人が、形だけとはいえ、自分の婚約者でいてくれる。初めて、自分に優しくしてくれる人がいる。

 そのことが、アイリにとってはとても嬉しかった。


(まるで少女漫画のヒーローみたい……)


 アイリはそんなことを考えて、顔を赤くする。

 ただ、アイリの目の前の琴葉だけが、問題だった。玲音の妹は、アイリが家にやってきてから、不機嫌そうだった。

 たぶん「お兄ちゃんを取られたくない!」と思っているのだろうとアイリは想像した。


「やっぱり、新城さんって、玲音兄さんのこと、好きなんですね」


「え!? そ、それは……」


「顔も真っ赤だし」


「……見神くんがずっとわたしの婚約者でいてほしいとは思うよ」


 アイリが今、一番恐れているのは、玲音の婚約者でなくなることだ。


 そうなれば、また元の生活に逆戻りだ。今回はたまたま殴られてひどい目にあったけれど、見神家との婚約のおかげで、実家での待遇もかなり良くなっている。


 それに、アイリにとって、見神玲音はすでに優しい世界のすべてになってしまっている。それを奪われれば、アイリは生きていけない。


 琴葉は肩をすくめた。


「私も玲音兄さんのこと、好きです」


「え!? それって……」


「女の子が、男の子を好きだという『好き』です。新城さんと同じ」


「で、でも、二人は兄妹で……」


 琴葉は玲音と血がつながっていないと簡単に説明した。父の透の幼馴染の女性の娘で、幼い頃に見神家に引き取られたのだという。

 その女性は、透をめぐって、愛乃と恋敵だったらしい。


 琴葉の境遇が少し自分と似ていてアイリは驚いた。ただ、見神愛乃は、琴葉に親切で可愛がっているようではあるけれど。


 琴葉がきれいな瞳でまっすぐにアイリを見つめる。


「私たちも恋敵ですね」


 玲音をめぐる恋敵。そうなのかもしれない。

 だとすれば、アイリと琴葉も、憎しみ合わなければいけないのだろうか。アイリの実母と継母のように。


 けれど、琴葉は柔らかい笑みを浮かべた。


「私にとっては兄さんが……私の大事な家族が、幸せでいてくれることがいちばん大事なんです。もし兄さんを幸せにしてくれる相手が、新城さんだというのなら、私は喜んで恋人の席をアイリさんに譲ります」


 琴葉がとても大人びているので、アイリは驚いた。そんな大人な考え、アイリにはできない。玲音を独り占めしたい。奪われたくない。玲音がいなければ、アイリは生きていけない。


 琴葉はくすりと笑った。


「もちろん、私が一番兄さんのことを理解していますし、私が一番兄さんを幸せにできるつもりです。だって、私は兄さんの妹ですから」


「そっか。琴葉さんは……すごくお兄さんのことが大事なんだね」


 琴葉は照れたように頬を紅潮させ、うつむいた。


「ねえ、新城さん……いえ、アイリさん、私たちは仲良くしましょう。兄さんのためにも」


 アイリはうなずいた。琴葉は良い子のようだし、そして、同じ玲音のことを好きな仲間なのだ。

 だから、アイリは琴葉のことも恐れなくてもいいのだと思う。


 琴葉がそっと差し出した右手を、アイリも握り返す。そして、琴葉はえへへと微笑んだ。


 アイリは玲音のことが好きだ。だから、玲音の妹のことも、玲音のすべてを好きになりたい。そうアイリは願った。







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