二人でお風呂
アイリと琴葉はすっかり仲良くなってしまって、玲音としては拍子抜けだった。
二人がずっとぎくしゃくしていたらどうしよう、と心配していたのに。
むしろ女の子二人で楽しそうにしているのを見ると、疎外感すら覚える。
もちろん、琴葉は玲音べったりなのは変わらずだったし、たぶん、アイリも玲音のことを悪くは思っていない。
ちょっとした事故が起きたのは次の日の夜だった。
玲音はいつもどおり屋敷の風呂に入った。さすが大金持ちの屋敷というべきか、露天風呂付きの大浴場がある。
この一つをとっても、見神家に転生してよかったと心から玲音は思った。
鼻歌を歌いながら風呂場に入ると――そこにバスタオル姿のアイリがいた。
「み、見神くん!?」
「し、新城さん!?」
玲音とアイリは顔を見合わせた。そういえば、風呂に入る時間をちゃんと話し合っていなかったかもしれない。
アイリは慌てた様子でバスタオルを整える。身体は隠せているけれど、さすがに恥ずかしそうだった。
お互い、まだ11歳だけど、もう11歳でもある。大人ではないが、異性として互いを意識する年齢だ。
玲音は慌てて回れ右をしようとした。
ところが、そんな玲音の腕をアイリがつかんだ。
「え……?」
「わたしたち、婚約者だもん。一緒にお風呂に入ってもいいと思うの」
「い、いや、それはまずいんじゃ……」
「見神くんは嫌?」
アイリが顔を赤くして、上目遣いに言う。
そう言われると、玲音も断れない。
それにしても普段はおとなしいアイリがどうしてこんな大胆な行動に出たのか。玲音には不思議だった。
「ね、見神くん。椅子に座って」
「えっと、どうして……?」
「髪の毛、洗ってあげる」
ふふっとアイリが笑う。玲音は言われた通り、椅子に座る。すると、アイリは玲音の髪を優しく撫で、そしてシャワーをかけた。
それからシャワーが止まり、シャンプー付きの小さな手が、玲音の頭を刺激する。
心地よい。
「どう?」
「とても気持ちいいよ」
「良かった」
もちろん11歳のアイリにやましい気持ちになったりはしない。けれど、同い年の女の子が、こんなふうに接してくれるのは、少し緊張する。
「ねえ、見神くん。わたし、見神くんにとっても感謝してるの」
「感謝? 何に対して?」
「いろんなこと。わたしに優しくしてくれたこと。わたしに居場所を作ってくれたこと。それから……こうしてお話してくれること。全部、嬉しいなって思うの」
「もし俺が新城さんの役に立てているなら、俺も嬉しいよ」
「うん。だからね、もう少しだけ、わたしたち、このまま婚約者でいても、いい?」
「もちろん。新城さんが望むなら」
「ありがとう。……れ、玲音くん」
アイリに名前を呼ばれて、玲音は驚く。すぐにシャワーの水音でアイリの声はかき消えた。
だが、シャンプーを流し終わると、また静けさが戻ってくる。
「いま、新城さん。俺のこと……」
「玲音くんって呼んだよ? だって、婚約者なのに名字呼びは変だもん。琴葉ちゃんは名前で呼んでるし。だ、だから、玲音くんもわたしのこと……」
アイリが何を期待しているか、玲音にもわかった。
「アイリさんって呼んでもいい?」
「うん! あ、でも……さんはいらないかも。呼び捨てでいいよ? その方が仲良しな感じがするもん」
「じゃあ、アイリ」
「玲音くん」
振り返ると、頬をほんのりと赤く染めたアイリが、とても嬉しそうにしていた。
この優しく素敵な女の子に、こんな表情をさせられるなら、俺も転生した価値があったと思う。
これからも、アイリのためにできることをしたい。
11歳の玲音はそう思った。
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